山の名を受け継ぐ者
「……『 』、すまねぇ。俺はもうすぐ消える」
誰もいない防空指揮所で俺は呟く。
もう手を動かす力も残っていない。
「あいつに会ったのは開戦前だったな……」
飛龍が開戦前の訓練中に、たまたま宴会の部屋に連れて来た。
最初はムカついた。
俺は大艦巨砲主義だった。
あいつも最初はそうだった。
けど、時代は流れるんだ。
戦艦が撃ち合うのは日本海海戦で終わってしまったんだ。
あいつも戦艦は好きだった。
でもあいつのパイロットの腕はピカイチだ。
あの戦争で何人の乙女やパイロット達が死んだのか……。
最後にあいつに会ったのはいつだろう……。
解体を待つ、伊勢や日向、葛城に会いに行きたいけど、俺はもうすぐ解体が終わってしまう。
もう力が……動く力が出ない。
飛龍や大和も最期はこうだったんだろうな。
もう思い残す事はない……。
いや……まだある。
あいつに好きだと言えなかった。
俺は恥ずかしかった。
今までずっと恋なんてした事がなかった。
何回、告白の練習した事か……。
俺はいつの間にか涙を流していた。
もう俺は消える。
でもこれだけは言いたい。
「『 』、俺は……お前が好きだ……」
俺の意識は暗い闇に飲まれた。
―――2016年、呉―――
気がつくと、俺は見た事もない軍艦の中にいた。
俺は死んだんじゃないのか?
俺は艦内を歩く。
軍艦は航行している。
俺は胸に手をそえる。
心臓がドクンドクンと動く。
俺は生きているのか?
軍艦の食堂らしきところに着いた。
食堂の中は懐かしいカレーの匂いがたちこもっている。
今日は金曜日なんだろうな。
俺はふと、テーブルの上に置かれた雑誌を手にとる。
カラーの写真を見るのは久しぶりだ。
戦争中、米軍が落としたカラーの写真を拾った事があった。
皆、楽しそうに笑っていた。
その雑誌のトップには一隻の軍艦が写っていた。
『新型イージス艦竣工!!』
『榛名の名を受け継ぐ艦、蘇る!!』
そんな見出しだった。
俺の名前?
項目をめくると、俺の写真があった。
じゃあ、この軍艦は……。
……悪い『 』。
俺はまた艦魂として生まれてしまった。
呪いか、それとも運命か?
いや違う。
それが俺達、艦魂に定められた宿命なんだろうな。
『 』、もうお前はこの世にいないだろうな。
何時、会えるかも分からねぇ。
でも会えた時、俺はちゃんと言うよ。
俺はお前を愛してるってな。
だから俺はその時まで戦い続ける。
それが艦魂、戦乙女に課せられた使命なんだからな。
そうだろ?『 』
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