更級’s リクエスト
今回、更級さんのリクエストにより『学園』『ほのぼの』『性転換』というワードでやりました!
さて、どうなるやら……
「ふわ……ぁぁあ、あ」
ある日の朝。
春になりかけの冷たい空気が鼻腔を刺すように感じる。
もう時期としては春だけど、感じる冷たさとしては未だに冬みたいなものだと思う。
僕こと、日立玲はまだくっついて離れないまぶたをこすり、寝ぼけたまま僕の部屋の窓の近くに来た。
僕は、朝起きたら日光を浴びないと起きた気にならないのである。というか、起きれないのである。
一瞬の春の陽気に包まれ、ふわふわとした光が僕の体を包み、ゆるやかに脳の覚醒を促す。
「ん……」
まだぼうっとした状態だったけど、さすがにそろそろうとうととした心地よいまどろみから離れて、僕より先に起きているであろう両親におはようと挨拶をしようとする。
その時、異変に気づいた。
どうも、なにかがおかしい。
今もまだ寝ぼけているから『何が』とは言えない。
でも、なんか変だ。
……なんか、変だ。
……あれ?
いつもより、僕の目線が低い位置にある。
……縮んだのかな。
……一日で?
自分で出した問いを自分で否定する。ないない。あり得ないよ。
「ん、ん~? あ、れ?」
ちょっと悩んで、つい唸ってしまう。
そして、また気づいた。
「……僕の声……いつもより、高くない?」
そう、高いのだ。
昔から僕は男にしては声が高いとは言われてたけど、今日はなんだかさらに高い。
自分で言うのもなんだけど、鈴を転がした様な甘い声だ。
でも、なんでだろう?
一瞬、ほんの一瞬、脳裏に【性別変わったんじゃね?】と変な声が響いた。
いやいや、それはない。
いくらなんでもそれはない。
現に、ほら、男性の象徴が……
あれ?
……あれぇ?
な、い……?
「う、うわぁぁぁああ!?」
今日は、ついすっとんきょうな声を上げるほど僕は壮絶な朝を迎えたようだ。
……僕が一体何をしたのさ……
☆
「な、なんでこんな事に……?」
僕は朝起きてから、猛ダッシュで全体鏡のある洗面室へ駆け込んだ。
部屋の中に溜まった冷気が僕を震えさせるが、それよりも鏡に映った自分を見てドキッとした。
め、めちゃくちゃ可愛い……
そう、むちゃくちゃ可愛いらしかった。
黒くて長い髪、大きなくりくりした目、瑞々(みずみず)しい肢体、大きすぎず小さすぎない胸、どれをとっても全く非のない美少女だった。
一瞬で目を奪われちゃったけど、よく考えたらこれって僕なんだよね……
確認のために僕がパタパタと手を動かすと、鏡に映る美少女もパタパタと手を動かす。
……これ、僕なんだよね……。
……にやり。
僕も男の子(何故か今は女の子だけど)なので、好きな髪型とかはある。
僕は個人的にポニーテールが好きなので、近くにあったおとなしめの色のゴムで髪を結う。
その時、両手をあげる仕草がなんかやけに色っぽかった。
さて、完成。
……この美少女に心がときめかないのは、わりと凄い精神を持ってると思う。
現に僕でもドキドキしているからだけど。
でも、このあとどうしよう?
普通は学校なんだけど、朝起きたら女の子でした、なんて誰が信じてくれるだろうか。
多分、誰も信じてくれない。
むしろ、何言ってんのこの娘? と目を細められる事だろう。
いや、それよりもまず制服だ。
男子用のしかないだろうし、女子用のなんて着たくない。
「……はぁ」
思わず、溜息が口からもれる。
本当、なんでこんな事になったんだろう……
と、そんなことを考えてるときに。
「おっはよーっレイちゃーーーーーん!!」
リビングの辺りから今日も元気なお母さんの声が聞こえた。
……貴女は近所の幼馴染かっ!
「あっれー? どこにいるのかしらーん?」
どうやら僕を捜しているらしい。
……どうやって説明したらいいんだろう、この状況。
とりあえず、僕はドアを開けてリビングに出て行く。
「おはよ、お母さん」
「あ、レイちゃん! おはっ……!」
一瞬、ぴたっとお母さんの動きが止まる。
そして、ふるふると肩と震わせ、こう言った。
「せ、成功よ……」と。
……え?
「どういうこと、お母さん?」
ちょっとよく分からないことを言われたので、お母さんに聞き返してみる。
「あのね、レイちゃん。今、レイちゃんが女の子になってるでしょ?」
「未だによくわかんないけどね……」
「それはね、この薬のせいなのよ。もちろん、お母さん開発」
ますます意味が分からない。
「……えっと、つまり?」
「この薬をすやすや寝ている男の子レイちゃんに飲ませてちょっと時間がたったら女の子レイちゃんって訳よ」
つまり、こういうことか。
僕が寝ている間に、飲むと性転換しちゃう薬を飲ませて、お母さんはわくわくしながらご就寝、と。
そういうことか。
「お、お母さんのアホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
僕の声は、半径三キロまで届いていたとかいないとか。
☆
「……はあぁぁぁぁぁぅ……」
僕がこんなにも長い溜息をついたのには訳がある。
「なんで、女の子の制服とか用意しちゃうのかなお母さんは……」
そう、今僕が着ているのは女の子の制服だった。
思えば、お母さんと口論してもいつも勝てないのであった。
煽てられ、褒められ、誤魔化され、賺され、色々されたあげく、
結局僕が折れる羽目になったのである。
「……はあぁぁぁ……」
そんなわけで、僕はちょっとばかり憂鬱になりながら学校へと登校しているのであった。
そこらへんから、「あの娘だれ?」とか、「え、可愛くない? あの娘超可愛くない?」とか、「お持ち帰りしてぇ……」とか聞こえた。無かったことにしよう。
そうして歩き続けると、学校が見えた。
そのまま特に何も無く教室に入り、僕の席につく。
そのままぼうっと佇んでいると、一人の男子生徒が近寄ってきた。
「えーと、君は……どちらさま?」
あれ、よく見たら友達の香澄春樹君じゃないか。
どちらさま、か……確かに急に友達の席に全く知らない女の子が座ってたら驚くよね。
「日立玲の性転換バージョンです」
そう分かりやすく伝えておく。
しかし、春樹君は「……はぃ?」といった変な声を出して何いってんのこの娘といった目を向ける。
分かりやすく伝えたつもりなんだけどなぁ……
「え、何、玲の友達? いや、どことなく玲に似てるから双子とか?」
「待って、発想がどこかに飛んでってるよ春樹君。ウチのお母さんのアホッぷりは知ってるよね?」
「えっと、つまりはあれか? 玲の双子の妹がなんか色々のごたごたがあって今ここに至るというわけか? くぅ、泣かせる話だ……」
「聞いてる? ねえ、僕の話聞いてる?」
この後春樹君にどうにか説明したが、ちゃんとわかってくれたんだろうか。
どうも気になる。春樹君は妄想癖があるみたいだから。
で、いろいろあって朝のホームルームが始まる。
「おーい、そこの……高瀬の横のやつ、誰だ?」
やっぱりつかまるよね、そりゃあ。
ちなみに、今の先生は東武先生といって、わりと素敵な女性である。
口調が男勝りのためか、未だに付き合ってる男の人は居ないみたいだけど。
「えと……なんて言ったらいいのか……」
「なんだ、転校生か? なら紹介してやるぞ」
紹介? あ、それのついでに現在の状況を皆に分かってもらおうかな……
そうかんがえて、先生の隣に立つ。
隣で先生がこちらを向きながら小声で「……いかんいかん、私は教師、手を出しては……」とか言ってたのは全部聞かなかったことにしよう。
「……えーと、日立玲です。この度、なぜかお母さんの作った薬により女の子になりました。中身はいつもと変わらないので、よろしくお願いします」
最初は何を言ってんの? 見たいな顔をしていた皆だが、お母さん、と言っただけで皆が「あぁ、あの人ならやりかねないね」みたいな顔になった。
僕のお母さんは、随分有名人みたいだ。一応ちゃんとした看護婦さんなんだけどなぁ。
さて、そんなかんじで朝のHRが終わり、(終わった後に男子と女子がめちゃくちゃ集まってきて揉みくちゃにされた。なんていうか、竜巻のようなものを彷彿とさせてすごく怖かった。……髪が解けたりいろいろはだけたりしたため、ちょっと変な絵柄だった)次の授業が来た。
☆
そのあと、色々あって四時間目。
これが終わったら待望のご飯なんだけど。
次の時間、体育なんだよね……
いや、体育自体はいいと思う。身体も動かせて楽しいし。まあ、女の子になってるから身体能力は落ちてるかもしれないけど、とりあえず楽しいから。
でも。
この場合、僕は男子更衣室と女子更衣室、どっちで着替えたらいいんだろう……?
とりあえず、男子更衣室だよね。さすがに身体が女の子でも心は男なんだし。
がらがらがら……
「うおっ!? なんだ! 玲!?」
「待て! 今のお前にここで着替えられたら俺達が出血多量で死んじまうって!!」
「もちろん鼻血でな!!」
「ていうかこの男子更衣室に女子が入ってくるというのはどうなんだ!?」
「知らん!! 俺はそんなリア充的な事は全く知らん!!」
「玲たん結婚してくれ」
「おい!! 今なんかちょっとトチ狂った奴いたぞ!!」
「落ち着け!! 相手は玲だ! 男だぞ!!」
「男だろうが今は女だろ! てか前からちょっと男の娘的なやつだったろ外見含めて!!」
「え、ちょっと待ってそれ僕初耳だよ!?」
『ええい、玲は黙ってろ!!』
「ええっ!?」
「ぐああああ、なぜ玲は男なんだァァァ!!」
「しるかぁ!! 世間の不条理だろ!!」
「とりあえず出てけ玲ーーーーー!!」
「え、あっ、ちょっと!」
どん、バタン。
「……あ、あはは……」
……どうやら、神様は僕に体育をさせたくないらしい。
どう考えても女子更衣室は無理です。
さて、どうしよう?
☆
いろいろあって、放課後。
体育は見学したけど、体育教師である東武先生はなんかむすっとしていた。
なんでかは分からないけど、あんまり探りを入れるとダメな気がしたので放って置く。
学校が終わった後友達の皆と遊ぶことになった。
メンバーは香澄君、相田君、僕の皆だ。
相田君というのは違うクラスのお友達で、わりと仲がいい。
わりと長い付き合いだけど、たまに相田君は全く読めない。
ミステリアスなのである。
「なあ玲? お前はなんでそんな事になってんの?」
「あれ、相田君は僕のことを疑わないの?」
意外かもしれない。
今までに一発で信じてくれたのは一人もいなかったから。
「うん? いや、だって玲と雰囲気似てるし。ん、違うの?」
「いや、まさか本当にすぐに信じてくれるなんて思わなかったから」
ちょっと僕の中で相田君の株が上がった。
「うん、まあ玲には例の母さんがいるからな(ドヤッ)」
……ダジャレかい。
結局プラマイゼロの株であった。
☆
そろそろ寒くなってきたと感じる9時ごろ。
遊んだ後、皆が帰っていく。
……今日はすごい一日だった……
そう思いながら、僕はリビングに行く。
なんか分からない薬を飲まされて女の子になったり、
憂鬱な気持ちで登校したり、
そんな気持ちも吹き飛ばすほど学校で騒いだり、
体育の着替えで乱闘騒ぎが起きてたり、
皆といつもと変わらない遊びであそんだり、
皆が帰った後相変わらずすごいテンションのお母さんが出迎えてくれたり、
僕を見たお父さんが腰を抜かしたりなど色々あった。
本当、すごい一日だったな。
楽しくて、色々壮絶だった。
こんな事なんてもう無くてもいいとも思うけど、たまにはこんなことがあってもいいかも知れない。
僕は思う。
それはもうダメな考えかもしれないけど、楽しければいいと思う。
どんなに疲れても、どんなに嫌なことがあっても、
最後に楽しかったと思えれば、それでいいと思う。
楽しめるなら、多少羽目を外してもいいよね。
でも、できるならもうこんなことにはなりたくないけど。
「あー、楽しい一日だった」
そうして、今日がまた過ぎていくのだった。
おしまいです!




