問題解決編
こんだけ転生者が流行っては、きっと意図的に転生しようとするやつがいてもおかしくない。
彼岸と此岸の狭間、転生を司る神々のしもべたちが迷い込む一軒の店がある。
CAFÉ Blessyou。そこではボルゾイみたいなマスターが来店客の悩みをきいている。
さて、本日の迷い子は―――――。
今ある幸せがずっと続くんだって思ってた。でも日常が崩れるのは一瞬だ。
まさか、朝しょうもないケンカした父ちゃんが、…。
どうしたらいいの。謝りたい。ひとりにしないで。誰か父ちゃんを…助けて。
グチャグチャの思考のまま、水を買うのに売店に向かったはずが、知らないお店の前にいた。
おかしい。いつの間に外に出たんだろう。それにこんなにおしゃれな外観のお店、SNSでもみたことない。とにかく、今どこにいるのか聞くために灯台の絵のステンドグラスが填った扉を開けた。
はじめに目に入ったのは、なんか土佐犬みたいなゴツイおっさんだった。
糖と脂肪の暴力みたいな量の生クリームとあんこの挟まったどでかいどら焼きにかぶりついたまま、こちらを見ている。
次に目に入ったのは、おっさんの隣に居た猫。多分ロシアンブルーだけど、尻をこちらに向けていて顔が見えない。
「おや。珍しいお客様。なにかお困りのようですね。こちらのお席にどうぞ。」
そう声を掛けてきたのは奥から出てきたイケオジ。店主かな。
ボルゾイとか言う気品ある細長い犬みたいなおじ様がやさしく笑っている。
「えっと、あ、あの…ここどこですか…?私病院に戻りたいんですが…。」
「なるほど。そういう事でしたか。ここは…悩みを解決しないと出られないカフェですよ。」
「……は?」
「おい、マスター!何変なこと吹きこんでんだっ!この娘は…」
「まあまあ。ここは外の時間から隔離された店ですので、よろしければ困っていることを話してみませんか。秘密は守りますよ。それに言わなきゃ出られないですよ。」
訳わかんない。もしかして白昼夢?なら…いいのかな…?
「…実は、―――
私はごく普通の女子高生。母が事故でいなくなってから、父と二人で頑張ってきた。
父はちょっとオタクで変人。だからこそ、私の『好き』を否定しない人だった。
でも昨日の朝、しょうもないケンカして学校行って。
学校着いたら冷静になって、自分が悪かったって気づいて。
家、帰って、あ、謝ろうって、おもってたの。
なのに、父ちゃ、事故、巻き込まれたって、意識もどんない。
あっ、当たり前にとうちゃんと、ごはん食べっ、って毎日がつづくって、っなんで、おいてかないで、やだよ、父ちゃん…。」
◇◆◇◆
JKのすすり泣く声が響く。暢気に生どら(特盛)を食ってる場合じゃなくなった。
そんな中、マスターはとんでもないことを言った。
「ふむ…きみのお父さんは、『ゲーム』の中にいるようだね。」
「…は?」
オレは黙って聞いているつもりだったのに、思わず声を上げてしまった。
JKもべしょべしょの顔をマスターに向けている。涙は止まったらしい。
「お父さんの意識が、ゲームの主人公に憑依しているんだ。戻すには…バッドエンド以外のクリアが条件ですね。」
そう言いながら、マスターはJKにバスタオルを差し出す。
何でここは何でもデカいのしかないんだ。デカイのが正義なんか。
「ゲームって…っは!まさか…コレ!?」
そう言って取り出したスマホに表示されたゲームにマスターは頷く。
「コレ、乙女ゲームなんだけど!?どうしよう!父ちゃん恋愛パートはからきしなのに!…はっ!」
ワタワタしていたJKだったが、急にマスターに寄った。
「マスターさん!私、父ちゃんを助けたいの!さっき言ってたよね!ここは『悩みを解決しないと出られないカフェ』って!どうにかできない!?」
どうやらJKは初めにマスターが言っていた冗談を覚えていたらしい。
全力で父を助けたい思いをぶつけられたマスターは、にこやかに答えた。
「はい。かしこまりました。では…貴女がプレイヤーとして操作補助できるようにしましょう。チャンスは1プレイだけ。どう導くかはあなた次第です。」
そう言いながら、カウンターから奥の扉を指さす。
「ですがその前に。そちらの奥に洗面台がございます。顔を洗っていらっしゃい。前がぼやけていては、明るい未来はみえませんよ。ミルク、案内を頼みます。」
JKはいい返事をして何の疑問を持たずに、ミルクについていった。
二人きりになったので、マスターに詰め寄る。
「おいっ!なんだってあんな冗談ばかり!別に父親の方はしばらくしたら戻れるだろ!」
JKの話では巻き込まれた事故と言っていた。
恐らく事故関係者の中に黒魔術的な転生を試みた奴がいる。そういう情報もこの喫茶店には回ってきていた。巻き込まれた父親はたぶん何かのきっかけで戻ってくるはず。
「ええ、その通り。切羽詰まった状況なのは、あの娘の方です。」
マスターの言葉にため息が出る。やっぱりか。
「ここは彼岸と此岸の狭間。あの娘の身体は…今病室の前にあるベンチで寝ています。魂だけでここにきてしまった迷子。時の進まぬこの店から出さないのはあくまで応急処置。ここから出る、或いは長居しては、身体に戻れず、彼岸にも渡れず、狭間を彷徨うことになります。」
つまり、オレらがやるべきは、速やかにJKの父親を脱出させて、憂いの無くなったJKに元の身体に戻ってもらう事。
「っったく!現役以来じゃねぇか、こんなん…。」
頭をガシガシ掻いていると、JKが戻ってきた。さっきよりか、スッキリした顔をしている。
「さて、では始めましょうか。乙女ゲームからの脱出RTA!」
「相変わらず、ネーミングセンスが変だぜマスター…。」
○○
「やっと解決したか…ハラハラしたぜ。」
また、二人だけになった店内。ミルクはJKの見送りに行ったが、そのうち戻るだろう。
「転生者に邪魔されるのは想定内だが…まさか、鉄道用語で解決するとは思わなかった。」
「父親は鉄道ヲタクだったようですね。ただ…解決できたのはそれだけでなく。」
グラスを磨きながら語るマスターはゴキゲンだ。
「あの二人の確かな絆がクリアに貢献したんです。父親は鉄道だからクリアできたのではない。娘が、父に気付いてほしくて、敵に気付かれたくないことをすぐに悟った。なんと素晴らしき家族愛!!」
キラキラした目で語るさまを知るのはオレだけ。
先ほどは食べ損ねて、冷蔵庫にしまっておいてもらった生どらッツォにかぶりつく。
その前にため息とひとこと。
「相変わらずだな、マスター。」
父親目線も含めて書こうと思ってましたが、混乱しそうなので分けます。
続きはただいま作成中です。




