7話 学習能力のない女と気持ち悪い男
そこはまるで、満天の星々が浮かぶ宇宙空間だった。
ただ一つ違うのは、下には幾人もの人間が横たわっている事だった。
亡くなってはいない。ただ眠っているだけだが何人もの人間が地平線を越えて横たわっている光景は怖いもの知らずのユカリにとっても不気味だった。
後部座席で人形達を抱きしめ横になって隠れている。
「うわぁ・・・。辺り一面人間で埋め尽くされてるぜ」
飛行機を地面から30センチ上空をゆっくり進ませながら辺りを見回し顔を歪ませるシオン。
「みんな寝てるだけ、みたいだね」
イビキを聞いて安心するワタル。
「あ、アレ見ろよ!あそこにいるのはロゾリアのアンリだぜ」
シオンが右斜めに指を指して方向を示す。
アンリと騎士団達はうつ伏せになって横たわっている。
シオンが車を横に付ける。
「ユカリ、ここで寝ているみんなを起こす事できる?」
ワタルは後ろを振り向き、ユカリに目覚めの魔法を使うように頼んだ。
「できるよ!まーくんがいるもんね!」
「まーくん、みんなをおこして!」
魔術師人形は左手の親指を立てると何やら唱えだした。
そして右手の杖を掲げると、バシンッ!と周囲に大きな音が鳴り響き、皆、弾かれた様に飛び起きた。
「な、なんだここ?!」
「あれ、寝てた?何でこんな所で・・・」
何が起きたか分からないと言った感じで頭を振っている。
「私は、何を、してたんだ?」
ロゾリア帝国の調査団団長アンリ・サバンは、自分達がダンジョンの罠に掛かり眠らされていた事を一瞬で理解した。
すぐさま立ち上がり、騎士達を整列させる。
「我々はダンジョンの罠に掛かっていたようだ。しかし入り口で引き返す訳にはいかない。前に進むぞ」
「「「はい!」」」
アンリを先頭に騎士団が進む。
他の国の調査団達も、先を越されまいと我先にと目の前にある転送装置に向かって歩き出す。
白い台地に魔法陣が書かれており、青白い光を発している。
その左右には青白い肌をした、痩せて骨と皮だけになった男の人魚、マーマンが二人、槍を持ち転送装置を守っている。
皆、警戒して進もうとはしない中。
「通させて貰うぞ」
アンリはそう言うと、魔法陣に乗り込み消えた。
騎士達も後に続く。
動かないマーマンに安心したのか、他の調査団達も後に続いて乗り込んだ。
「あの女、学習能力無いのか?」
「一度引っかかっといて何でなんの警戒もせずに魔法陣に乗れるんだ?」
少し離れて見ていたシオンが悪態をつく。
「余程自分の腕に自信があるんだろうね」
「僕達も行こう」
「ええと?出口」
「・・・・・・」
「あ、本物は上だ」
三人が上を見ると、まるで鏡写しの様に逆さまに、もう一つの転送装置と、痩せて骨と皮だけになったマーメイドが左右を守っていた。
「面倒くせぇから全員消えてから行こうぜ」
シオンがワタルに囁く。
「暫く待ちそうだね」
車で最後尾まで移動する。
そしてどれくらい経っただろうか、全員が装置を通った頃にはユカリもワタルも待ち疲れて眠っていた。
「おい、起きろ!全員消えたから俺達も行くぞ!」
「「はっ!」」
パチンッ!と頬を叩かれ目を覚ますワタル。
天井に潜ると、水面の波紋の様に波が広がっていく。
潜りきると天地が一変し、魔法陣の上に車を降ろした。
赤白い光が陣を包み、ワタル達は姿を消した。
その後はいつもの様に順調に進んだ。
魔物はユカリと人形達に任せ、ワタルがスマホのマップで宝箱を探し、シオンが鑑定して宝を得る。
海のダンジョンらしく、どの階も海系のフィールドに海洋生物の魔物が多い。
50階層に着いたとき、沖に転送装置を見つけた。
しかし、その横では目玉が密集している大イカらしき物に灰色の大海蛇が絡まり、唸りを上げ暴れていた。
港街らしく浜辺を中心とした右側は白い漆喰の壁とカラフルな屋根の家々が並んでいる。
その上には首が細長く目玉の大きな飛竜と、太ったハゲワシがギャーギャーと互いを突きあい戦っていた。
「まーくん、あのキモチわるいめだまとヘビにカミナリおとして!」
黒い兜と鎧を身に纏い、おもちゃの剣をイカを指して振り下ろす。
魔術師人形は両手で杖を持ち砂地に叩きつけ、何やら呪文を唱えると、イカの頭上に灰黒い渦雲が現れた。
パアアアアン!!
そして太く金色の雷撃がイカの目玉と海蛇の体を貫いた。
二体の魔物はブクブクと沈んでいく。
「あの魔法陣も本物みたいだな。車に乗れ、行こうぜ。」
「次の階で休める所無いかな?フィールドが明るいから気づかなかったけど、もう七時だよ。流石にお腹減ったな」
助手席のドアを閉めながらワタルが呟く。
「ユカリまだやれるよ?」
後部座席で人形達を並べながらユカリが言う。
「ダメだよ。今日は一気に50階層まで来たけど、休む時は休まなきゃ明日動けなくなるよ。ダンジョン攻略したいでしょ?」
「わかった」
ワタル達が空飛ぶ馬なしの車に乗り、魔法陣に消える瞬間を影から見ていた者がいた。
次の階層は炭鉱フィールドだった。スマホのマップで宝箱を探り、シオンの眼鏡で鑑定し、たまに出てくるゴーレム達を剣士人形の斬撃で蹴散らし、階層ボスの部屋の手前でドールハウスを出して休む事にした。
「人喰い箱と戦ってもいいんだけどな。たまーにレアアイテム落とすし」
「じゃあ、明日試してみる?ボス戦前に」
シオンとワタルは湯船に浸かりゆったり疲れを癒している。
「そうだな。能力強化系の薬とか高値で売れるからそういうの出て欲しいなぁ」
一方ユカリはちょっと困っていた。
ドアをノックされたからドアホンで応対したら、えらく喜ばれたのは分かったが、何を喚いているのかが分からなかった。
「ひあああ!このよなはらわまたな!またなはやまなはゆま」
二十代くらいの魔法使い風の眼鏡の男は地に膝を付き、訳の分からない言語を喚きながら泣いている。
「おにいちゃああん!へんなひとがそとでないてる!こわ〜い!」
バタバタバタバタ!!バァン!
ユカリの叫びにワタルとシオンが腰にタオルを巻いただけの格好でリビングに出てくる。
「すみません、どなたですか?!何の用ですか?!」
男はハッとして正気を取り戻した。
顔の汚れを拭き取り、身を整え名乗る。
「失礼しました。私はハル・ドーンと申します。魔術大国バロックからこのダンジョンの調査団員として派遣されてきました。ぜひ御三方に魔道具についてお聞かせ頂きたいのです」
「それに、申し訳ありませんが、中で休ませて頂けないでしょうか?ここまでの戦いで疲れてしまいました」
シオンはダメだと首を振る。
「朝になったら出ていってください。」
「はあ〜・・・」
シオンが額に手をやり、面倒くせぇなと溜息をついた。
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