17話 魔大国グランデスバル
「おはようございます。ソーマ・グランチェストです。お迎えにあがりました」
黒を基調とした貴族服を着て後ろ手に立つソーマの姿は赤い髪が映え、聡明な少年に見えた。
「おはようございます。ワタルです。あの、ハル、なんですが、夜にお兄さん達がやって来て強制的に連れ帰られてしまいまして、大人がいないのですが大丈夫ですか?」
ボディバッグの紐を掴み、心配そうな顔をするワタル。
「そう・・・でしょうね。大丈夫ですよ。心配はいりません。何かございましたらこの」
「アラン・デュカスと申します。皆様のお世話をさせて頂きます。何かございましたら何なりとお申し付け下さい」
そう言って銀縁メガネの執事服の男は左手を胸に当て頭を下げた。
「よろしくお願いします。僕はワタル・アマノ、左はシオン・ジル、右は妹のユカリです」
「よろしく」
シオンは素っ気なく言う。
「よろしくおねがいします!」
ユカリはバッと頭を下げた。
「・・・はい。よろしくお願いします」
どこか複雑そうな顔で挨拶を返すアラン。
「さあ、馬車へどうぞ。ユカリさん、エミリアも来てますよ」
「エミリア!あそぶ!」
「はい。妹もユカリさんとお会いするのを楽しみにしていました」
馬車は黒地に赤の装飾で炎を象られ、金で作られた羽根の生えたライオン二匹が背を向けている紋章が輝いている。
「あ、あ、ユカリ、さん」
「おはよう、エミリア!おはなししていい?」
「あ、あ、えと」
奥の窓際にいるエミリアの隣に座り、遠慮なく話しかけてくるユカリにアワアワとどう答えていいかわからないエミリア。
内気で王族とあり、魔族とでさえ友情を築けなかったエミリアにとって、遠慮なく話しかけてくるユカリは未知の領域にいる存在だった。
「エミリア。ユカリとオトモダチになってくれる?」
「えっ?お友達?!わ、わ、わ」
「わた、しで、しもお、お友達に、ななな、なりた、い」
絵本で真っ赤な顔を隠し、しどろもどろになりながらも気持ちを伝える事ができた事に自分で驚くエミリア。
「おにいちゃん。ユカリオトモダチできた!」
「お兄様。私、初めてお、お、お友達、ができました」
目の前に座る二人の兄に嬉しそうに報告するユカリとエミリア。
「俺には言わねぇのかよ」
「シオンもソーマとオトモダチになれるといいね!」
「ふん!」
窓に肘をついて悪態をつくシオン。
「シオンはソーマの事嫌ってないよ。ただ剣術大会でまけたのが悔しいだけだよ」
ワタルがソーマにコッソリ耳打ちする。
「余計なこと言うなよ!」
「そう、なんだ」
少しホッとしたソーマ。
「ユカリ、初めてのお友達だね。仲良くしようね」
「うん!」
「初めての?ユカリさんならいっぱいお友達がいると思っていました」
予想外の事実に驚くソーマ。
ユカリとエミリアは絵本を読み始めている。
「うん、ちょっと事情があってね」
魔大国は北西にある魔術大国バロックを超えた先にある大きな島国だ。
空から見下ろすバロックは、民家の他に先が尖った細長い塔がいくつも立ち並んでいた。
何なのか後でハルに聞いてみよう。
「あの、黒い瘴気に覆われているのが魔大国、グランデスバルです」
「本来は皆さんの国のような、澄み渡った国だったのですが、父が、魔王イグニスが放つ長年の恨みや憎しみ、悲しみなどが溢れだし、このように瘴気に満ちた国となってしまいました」
「この瘴気を吸った魔物は自我を失い、破壊や殺戮を楽しむ悪魔に変わってしまうのです。皆さんにはこのマスクを付けて頂きます。これはくちばしの中に浄化装置が入っています」
そう言ってソーマは鳥のくちばし型の黒いマスクを差し出した。
下を覗くが建物は朽ち、魔物が出歩いている気配はない。
「国民は皆、家にこもり外には出ません。瘴気に満ちて危険ですし、店を開いても客は来ませんから」
ご飯は?水は?どうやって生きてるの?
疑問に思ってもこれ以上は聞けない空気を出している。
「着きました。アレが僕たちが住む城、エニエス城です」
真っ暗でどこに何があるのさっぱりわからない。
「つーか、ユカリの聖女人形にこの国の瘴気を祓ってもらやいいんじゃねぇの?」
シオンが素っ気なく呟く。
「え?」
「う〜ん。聞いて見る!」
ユカリはリュックから聖女人形を取り出した。
「セイちゃん。このくにのしょうきをはらってくれる?」
「みんなそとにでられなくてこまってるんだって、できる?」
聖女人形は少し悩む素振りを見せたが、暫くして笑顔で親指を立て、目を閉じ、手を組んで祈り始めた。
城の一角から一筋の緑色の光が天に伸びたと思ったら、国中を包み込んだ。
ブワアアアッ!
清々しい風が吹きすさび、天に立ち込めていた黒雲は青空へと変わり、街には色が戻った。
「何が、起きたの?」
街人が次々と窓を開ける。
「空が、青い。瘴気が晴れて、る」
「あれ?雨?」
一筋の涙だった。
「ああああ、ああああ!!」
「瘴気が晴れた!魔王様が救われたんだよ!」
誰かが叫ぶ。
人々はマスクを投げ捨て、束の間の喜びを分かち合った。
そして皆、魔王城へと向かい歩き出した。
その光景を見たソーマとエミリアは信じられないと言った顔で見合わせている。
「エミリア、ソーマ、どこかいたいの?」
ユカリの言葉に無意識の内に涙を流していた事に気づく二人。
ソーマは静かに、エミリアは声をあげて泣いた。
その泣き声に御者席に座るアランは微かに唇と手綱を握る手を震わせた。
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