君がいない明日
名前の読み方↓
主人公:結衣
恋人:蒼真
結衣のスマホには、たった一件の未読メッセージが残っている。
送り主は、昨日亡くなったばかりの恋人・蒼真。
“ごめん、今日も行けそうにない。熱が上がってきた。”
いつもと同じ調子。
でも、いつもと違う結末。
蒼真は病院で倒れ、そのまま意識が戻らなかった。
誰も予想していなかった急性の病気だった。
結衣の部屋には、蒼真が置いていったものがいくつかある。
読みかけの漫画、途中まで組んだプラモデル、カップ麺の空き箱。
どれもどうでもいいはずの「普通のもの」なのに、見ているだけで胸が潰れそうになった。
夕方、蒼真の母親から電話がきた。
「今日……荷物、取りに来られる?」
結衣は喉が詰まったまま「はい」と答えた。
本当は行きたくなかった。
現実になるのが怖かった。
彼の部屋に入ると、空気が止まっていた。
昨日まで普通に呼吸していた人の匂いだけが残っている。
机の上には、封筒が置いてあった。
あまりに雑な字で「ゆい」と書かれている。
震える手で開ける。
“ごめん。ほんとは今日、指輪渡すつもりだった。”
“まだ学生だから安物だけど、ちゃんと選んだやつ。”
“病院の検査終わったら会いに行く。だから待ってて。”
最後の一行が揺れていた。
結衣は膝から崩れ落ちた。
指輪は、袋に入ったまま机に置いてあった。
渡されることのないまま。
喉から声は出なかった。
涙だけが勝手にこぼれた。
帰り道、夕焼けがやけに眩しい。
周りは笑い声、走る自転車、犬の散歩。
世界は当たり前みたいに続いていて、ただ自分だけが取り残された。
スマホの画面には、昨日の未読メッセージが光っている。
“ごめん、今日も行けそうにない。”
結衣は返信欄を開いた。
送れないと知っていて、送った。
“わかったよ。ずっと待ってるから。”
送信済みの文字が、ひどく残酷だった。
次の日も、次の次の日も、スマホを開くたび、蒼真のトーク画面が一番上に出てくる。
でも、新しい通知が来ることはもうない。
その沈黙が、何より苦しかった。
一話完結です




