ぬぁああん疲れたもおおおおおおん
ボクは贋作。
ニセモノ、パチモン。呼び方はいくらでもある。ようはホンモノではないってこと。女ではない男。心だけが女で身体的特徴は男なのがボク。
ボクはこより。戸籍も身体的特徴も間違いなく男性だ。でもボクの心は一人の男性を愛してしまった。そうお兄ちゃん。お兄ちゃんと一生を添い遂げたい。もちろん子供はできないけれど同じ墓に入りたい。
その覚悟はとうにできている。
お兄ちゃんはノーマル。だから美少女の外見をキープしている。お金を貯めて成人したら性転換手術をして身も心も女性になるのだ。
そのための費用は少なくとも一千万。ボクにはお金が必要だった。
「おーい、こよりー」
「なぁに、お兄ちゃん」
「シロさんからライムがあって取材させてほしいってー」
「やだー、めんどくさーい」
「そうか。バイト代はひとり五万円なのに残念だな」
「ちょっ」
「やるか」
「やるよ!やらいでか!!」
「ぬぁああん疲れたもおおおおおおん」
わたしは白百合。職業は漫画家だ。ペンネームは野獣☆野薔薇。呼びにくいので業界では"野獣先輩"と呼ばれている。
「もう少しです先生」
「もうやだ寝たい」
「そんなこと言わないでください」
「ご褒美ほしい」
「リクエストありますか」
「ベーコンレタスのコスプレイヤーのイチャコラがみたい」
担当編集が苦笑いする。この人どんだけ好きなんだという顔だ。仕方ないじゃない、好きなものは好きなんだから。
あのね、ホモが嫌いな女子なんていないの。担当編集に例のサイン入り写真集とスマートフォンを渡す。この二人じゃなきゃダメ。
「ただのコスプレに興味はありません」
またどこからか苦情が来そうな台詞を口にしてドヤ顔のわたしだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ピンポーン
マンションのインターホンが鳴る。数秒でドアを開けるわたし。そこにはブレザー姿のお兄さんと学ランを来たこよりちゃんの兄弟が立っていた。
もうそれだけで涙がでそうになる。考えてもみてほしい。自分の理想の兄弟が目の前に顕現したら。喜ばない腐女子なんていない。
「お兄さん!こよりちゃん!お待ちしていました!!」
「こ、こんにちわ」
「シロお姉さん、きたよー!」
凄い勢いだ。初めて会った時のクールさは微塵も感じられない。二人は応接室に案内された。
「コーヒーで大丈夫ですか」
「はい。いただきます」
「ボク、ミルク欲しいな」
「かしこま!!」
なんだか大先生にコーヒーを淹れてもらうなんて申し訳なくなる。あちらはまったく気にしていないみたいだけど。
「それでは説明させていただきます」
「「よろしくお願いします」」
ボクたち兄弟の声が重なる。
「ぐはっ」
「先生、大丈夫ですか」
「あ、すみません。少し逝ってしまいました」
「本当に真正なんだねー」
わたし白百合は男性経験ゼロの温室育ち。そのせいかリアルな男性の裸も見たことがない。
しかしベーコンレタスは恋愛モノ。いつまでも男性写真集の模写でごまかしきれるわけもない。それなら実物をみればいい。
いや本音をいえば見たい。
しかもモデルはベーコンレタス界隈では知らぬもの無しのガチホモ兄弟。鬼畜眼鏡な総受け兄とメス顔だけでご飯三杯いける弟。興奮しないほうがおかしい。
しかも片方は妹の想い人だから身元も安心。なんの不安なくモデルを発注できた。
「こほん。では改めて仕事内容の説明をさせていただきます」
「「はい」」
くらり。ダメよ白百合。しっかりしなさい。
「お二人にはベーコンレタスの兄弟のモデルをしていただきます」
「そのため一部、兄弟でイチャコラするシーンがあります」
「そしてこれは別料金となりますが、ヌードもお願いできれば・・・」
「「え」」
「お願いします!わたし男性の裸を見たことがなくて!これからの作品の展開に絶対に必要なんです!」
「さすがに裸は」
「ボクも。恥ずかしいよぅ」
「一人十万円の追加でいかがでしょう」
「やります」
「こより!?」
「だってシロ先生、本気で困ってるよ」
「ヌードの写真撮影と拡散が無しでなら」
「約束します!」
そして撮影がスタートした。
「こよりちゃん!兄を押し倒して!」
「お兄さん!物欲しそうな顔でふりむいて!」
「こよりちゃん!お兄さんにフレンチキス!」
「ちょっ」
さすがにそれはいけない。ボクはノーマルなのだし。こよりに目線を向けると悪い顔をしていた。唇を舐めるとチャーンスと動いた。次の瞬間、ボクたちはキスしていた。
「ブフォ」
先生が鼻血を吹いて倒れていた。床に血文字で「てぇてぇ」と書いて。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
こよりは気づいていた。これはチャンスであることに。
なぜなら仕事という名目で正々堂々とお兄ちゃんとイチャコラできるのだ。フレンチキスだってベロチューだって思いのまま。
もちろん裸は恥ずかしいけれど、見られるのは女性で真正なシロ先生ひとり。それに見られて減るものでもない。
恥ずかしがりやの兄。なにか言い訳があればなし崩しにできる。仕事、誰かが困っている、助けられるのはボクたちだけ。なんて都合のいい展開だろう。
こよりはこの機会にお兄ちゃんと徹底的にイチャコラすることにした。さらに日当十五万円ゲットだぜ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「あ・・・」
「先生、大丈夫ですか」
「ここが天国ですかぁ」
「シロ先生の仕事部屋だよ」
兄弟のフレンチキスを見ただけで興奮して鼻血をだして倒れるなんて。あんがいこの人もポンコツなのかもしれない。
「申し訳ありません。リアルでキスは初めてみたもので」
「すみません」
「平気、平気、すぐ慣れるよー」
気を取り直してフレンチキスから再開する。
ちゅっ
二度目ともなれば慣れるものだ。先生も顔が上気しながらもプロの顔になっていた。そう、これはクリエイティブな先生を助ける仕事なんだ。
「では舌を絡めたベロチューをオナシャス!」
「はーい」
「へっ」
ヌルリ
こよりの舌が生き物のようにボクの口内に侵入してきた。そしてヌルリヌルリと縦横無尽に動き回る。いや、お前どこでこんな技を覚えたの。
「むー」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「す、すごい。これがリアル」
白百合は興奮していた。彼女の体はこれまでになく熱くなっていた。ハッキリいえば濡れていた。ジュンとして下着を汚してしまった。
まだ撮影は始まったばかり。
はい異世界シニアです。
ヤヴァいです。もしかしたらR15突破してるかもしれません。
もちろん健全な恋愛ドラマなので性行為はありません(キッパリ
本当はこの話、一話で完結するつもりでした。ところが野獣先輩が予想以上にポンコツで進行を早めることができません。
そこで上下編の二本に分けることにしました。
さてまだまだ撮影はエスカレートします。オタクくんのコルトパイソンは暴発するのか、こよりちゃんのマグナム44は顕現するのか。
次回サイドジョブ。嬉しいダルルォ。
次の執筆、あくしろよ!(早くしろよの意)