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わたしは偽装彼女でもかまわない

野獣やじゅう野薔薇のばら


それがわたし白百合しらゆりのペンネームだ。いまTVアニメ放送されている美しい兄弟愛を描く作品"ベーコンレタス"の原作者といえば知らない人はあまりいないだろう。


思えば中学のときから漫画ばかり描いていた。内容はすべて男同士の恋愛だった。それ以外は興味もなく、描こうとも思わなかった。


同級生の男にも興味はわかなかった。ただ男同士で話している姿を見て「どちらが攻め」「彼が総受け」など楽しい妄想のネタとして使わせてもらっていた。


高校生になってもそれは変わらなかった。外見だけはいいので、男の子からもよく告白されたし、中には女の子もいた。もちろんまったく心は揺れなかった。


わたしは観測者モブなのだ。


主役たちをひっそりと見守る第三者でいい。間違っても自分が主役になるつもりはない。


大学生。その頃には夏コミで壁サークルに配置されるほどわたしの人気は確立されていた。転機はそのときにやってきた。


「集団社の○○です。ぜひ先生にうちで描いてほしいのですが」


大学三年にもなるのに就職先が決まらない社会人としては不適合者のわたし。すでに夏と冬の同人誌即売会の売り上げだけで会社員の父親の年収を超えていた。このまま同人誌で暮らしていくのもいいかと諦めていたのも本当だ。


好きなことをして暮らしていけるのなら・・・と快諾した。そして世の中に送り出されたのが処女作ベーコンレタスだった。


ベーコンレタスはBLボーイズラブの隠語。編集担当はそれすら知らないノーマルだった。作品の概要は家族愛をテーマにするですんなり通った。そして連載が始まる。


楽しかった。ひたすら自分の描きたいものを描いた。それが読者にも伝わったのだろう。中身はガチホモなのに。


ある幸せな一家があった。両親に兄弟の四人家族。ある日、弟に難病がみつかる。放っておけば弟の余命はあと数年。そこで兄が自分の臓器を弟に提供する。生き延びた弟の兄への感謝は愛に変わっていた。しかし兄はノーマルで彼女もいた。弟は嫉妬からしだいに壊れていく。


文字にするとこれ家族愛あんまり関係ないよね。まるでガソダスの監督がスポンサーから金を出してもらうために「宇宙愛」を打ち出して最後はみなごろしにしたイデオソみたいだ。


それでも売れれば勝ち。売れなければクズのこの業界。原作コミックは売れ、とうとうTVアニメ化された。どちらも人気で、冬には劇場版のベーコンレタス無限発射編の公開も決まっている。


おっとモブの昔話なんていまはどうでもいい。


それでも好きなことを続ける。そして極めればオンリーワンかつナンバーワンになれる。そして道は開けることを読者様は覚えておいてほしい。


就職や副業にも必ず役立つときがくるから。


「百合。悪いことは言わない、こよりちゃんとは別れなさい」

「なんでそんなことを言うの、お姉ちゃん!」


東京を出発するときは応援するといってくれた姉。なのに修善寺から戻ってくると真逆なことを口にした。信じられなかった。


「わたしは観測者なんだ」

「それが何」

「だからこそわかる。百合に勝ち目はない」

「わかってるよ!」

「!!」

「そんなの初めてこよりちゃんのメス顔を見たときからわかってるよ!」

「だったら」

「女はね、負けるとわかっていても戦わなきゃいけない時があるんだよ!」

「あ」

「わたしは偽装彼女じゃまものでもかまわない」


ああ理解した。このは賢い。すべて未来が見えている。負け戦であることも理解している。なのに初恋が完全に終わるまで進もうとしている。賢いのに馬鹿なんだ。もう何も言うことはない。


「そうか、悪かったね」

「ううん、わたしのことを思って言ってくれたのはわかってる」

「わたしはさ、漫画以外をすべて捨ててきた人間だから。負け戦から逃げてきたから」

「そんなことない!」

「!!」

「お姉ちゃんは凄い。だって漫画で世の中を感動させてるんだよ。その結果が今でしょ!」

「ありがとう。百合にそう言ってもらえると心から嬉しいよ」


二人はしばらく泣きながら抱き合っていた。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


「お疲れ様でした」

「車出していただいてありがとうございました」

「いいえ、すべてうちの姉が悪いのよ」

「ボクもう引きません」

「お兄さんのことね」

「はい。兄の心は離しませんから」

「まるで勝ったみたいね」

「違いますか」

「そうね」

「でも、これはわたしの初恋。最後の瞬間まで諦めないわ」

「わかりました、失礼します」


ここは自宅近くにあるコンビニ。パイセンはこの場所を知っていた。つまりお兄ちゃんとパイセンは車でデートしている。ボクの知らないところで。


ふつふつとジェラシーの炎がわいてくる。お兄ちゃん、ボクのことが好きなのに隠れてデートなんかして。


帰宅したら一緒にお風呂入って、コルトパイソン握ってやる。夜もベロチュー上書きコースだ。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


ガオン


その一時間前。パイセンの姉の店長が運転する猛牛社の白い悪魔バルバトスも同じコンビニに到着していた。


「なんか申し訳なかったね」

「いいえ。ごちそさまでした」

「わたしは降りるよ」

「え」

「キミの心にはこよりちゃんがいる」

「はい」

「やはりな」

「すみません」

「謝るな。誰が悪いわけでもない」

「ただし油断はするなよ。あのマグナムを狙う女はたくさんいるぞ」

「それ店長もじゃないですか」

「そ、そんなことはないじょ」


噛んだ。この人は本当にポンコツだなあ。


「ボクなんかを好きと言ってくれてありがとうございました」

「うん」


ガチャ。


彼が歩いていく。気がつくと涙がでていた。わたしの初恋は死んだ旦那で成就した。だからこれまで失恋の経験はなかった。


「そうか。これが失恋というものか」


その場で顔を手で押さえて泣きじゃくるわたしがいた。

はい異世界シニアです。


このところ前書きの文量がとても増えています。キャラクターそれぞれの心情を自由に語らせると、どんどん伸びるんですよね。


今回は白百合お姉さんでした。野獣先輩とお呼びしたほうが伝わるかもしれません。アーッ


それでも姉で観測者の野獣先輩。客観的に妹の立ち位置がわかります。完全に負け戦なのに。


それでも百合ちゃんは全力で運命に立ち向かいます。男にはたとえ負けるとわかっていても行かなければならない時がある。まるで宇宙海賊のリーダーみたいに。


それにしても無限発射編って。完全にどこかのアダルトビデオ作品です。R15 付けないとヤヴァいですね☆


さあ次回は兄弟が野獣先輩の取材に答えます。


次回サイドジョブ。ぬああああん疲れたもおおおおおおん


イキスギィ!!


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