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百合、彼とは別れなさい

東名高速道路を赤い跳ねフェラーチのM80が疾走する。


世界で三百台しか生産されず、販売価格は一億円。好事家すきもののあいだでは二億以上で取引される高級スポーツカーだ。


「そんなことになっていたの」

「うん。お姉ちゃん、ごめんね」

「いいさ。取材も兼ねてるから」


わたしの名前は白百合しらゆり。百合の姉だ。年齢は二十五歳。独身で処女。


仕事はクリエイティブなことをしている。好きなことをして産み出した作品からは湯水のようにお金が湧いてきた。


この跳ね馬を買ったのも税金対策だ。そのおかげでかわいい妹の力になれているのだから良い買い物をした。


妹の話をまとめると以下のようになる。


小学生の時に結婚を約束した美少年が帰国すると美少女になっていた。さらに兄のことが大好きで大人になったら性転換するとのこと。それでもその男の子が忘れられない。


うーん、これホモとホモの間に存在する偽装彼女じゃまものってやつじゃないのかなあ。


ボーイズラブの世界なら絶対にふられる。不幸になる。恋愛から弾き出される損な役回りだぞ。


でも本気で恋する妹にそんなことは言えない。


いまは妹を応援しよう。


高速道路の自動速度取締機オービスを過ぎたことを確認し、アクセルを踏み込んだ。

「来ちゃった」

「百合ちゃん」

「また凄い車で来たわね」

「これ一億円しますよ」

「オッサンNTRオスモの五台分ね」

「車は金額じゃないよ」

「そうドライバーの腕と性能さ」


運転席からブロンドヘアーでハーフっぽいお姉さんが降りてくる。スラリとした長身に黒いジャケットと黒い革ズボンがとても似合っていた。


「山間部なら腕のある四百万ハチロクに負ける」

「しょせんハイパワーだけが売りの直線番長さね」


バチバチバチ


猛牛使いの店長と跳ね馬乗りのブロンドさんの間に見えない火花が散る。


「お姉ちゃん!」

「姉さん」


さすがに二人の妹があいだに割り込む。


「ああ、すまない」

「あたしも大人気なかった」


さすが店長。大人の女性だ。社会人としての礼儀をわきまえている。どうして夜はあんなにポンコツなんだろう。


「百合の姉の白百合です。はじめまして」


華麗に挨拶する姿はまるで宝塚の男役だった。百合ちゃんのお姉さんだけあってよく似ている。百合ちゃんの十年後の姿がイメージできた。


「妹といるときはシロと呼んでください」

「副業部の部長です」

「その姉だよ」

「こよりでーす」

「こよりの兄です」


そうか、この少年が百合の生涯の仇敵てきか。それにしてもどこかでみたような。いや間違いない。確かに彼だ。では隣にいるのが百合の想い人の弟か。


姉の様子がおかしい。変だ。百合が異変に気づく。姉が鬼畜眼鏡をみたとたん、動かなくなった。


「ッ」


姉が泣いていた。次の瞬間、鬼畜眼鏡の手をとって姉が叫んだ。


「大ファンです!サインください!!」


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


う、ぐす、ぐす


感動のあまり姉はまだ泣いていた。いつもクールな姉のこんな姿をみるのは初めてだ。百合は困惑していた。


「ぐす、すみません。あまりにも嬉しくて」

「誰かと勘違いされていませんか」

「いいえ!あなたに間違いありません!!」


シロさんは跳ね馬の後部スペースから一冊の本を取り出した。それはボクとこよりが表紙のベーコンレタス写真集だった。


「お願いします!サインください!!」


パイセン、店長、こよりが「こいつ真正ガチか」という顔をしていた。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


「こよりちゃん、このプリン濃くて美味しいよ」

「ほんとだ」

「はいお兄ちゃん、あーん」

「あむ」

「「!!」」

「うん美味しいな」

「じゃあボクにもお返しして」

「ああ、ほら」

「あむ」

「やっぱり・・お兄ちゃんの美味しい」

「「!!!」」


ここは温泉街にある修善寺プリン。ボクたち六人はホテルから徒歩五分ほどにある温泉街にきていた。


今日は百合ちゃんもいるのにやけにこよりが甘えてくる。ボクの背後からはパイセンのプレッシャーが凄い。そしてこよりの後ろにいる百合ちゃんからはロコすぞオーラがビンビンに伝わってきた。


ふと店長とシロさんをみる。


「うっとり」


どちらも恍惚とした顔をしていた。ホモが好きなシロさんはともかく、店長はどうしたのだろう。


こよりを見て何か妄想にふけっているようにも見える。えへへマグナム凄いよマグナム。ブツブツ独り言を言ってるぞ。


午前中、温泉街を歩いたり足湯をしたりプリンを食べたり楽しい時間を過ごす。


そろそろ東京に帰る時間になった。


猛牛に店長とボク

オッサンNTRオスモにパイセンとこより

跳ね馬に百合姉妹


免許を持っているのが三人しかいないので致し方ない。さらにいえばあの車体のデカさで猛牛と跳ね馬は二人乗りだ。


百合姉妹はもっとも事故率が低い組み合わせ。店長とこより、パイセンとボクの組み合わせは危険があぶないという理由で却下された。途中で雲隠れしそうだよね。


帰り際にシロさんが名刺をくれた。


「お兄さん!東京でも取材させてくださいね!」

「ぜひ、こよりさんも一緒に。取材費はお支払いしますから!」

「はあ」


名刺をみる。ボクの顔が曇った。


ペンネームは、野獣☆野薔薇やじゅうのばら

ベーコンレタスの原作者であり漫画家。そして夏コミで僕らが販売した同人誌の絵師でもあった。


オマエか!!!


今度あったら一時間は説教しよう。てかご褒美にとられそうで怖い。なにより百合ちゃんにロコされる。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


死ぬかと思った。


修善寺道路の料金所を過ぎると姉が急にスピードを上げ始めた。


「跳ね馬は猛牛だけには負けちゃいけないんだ」


それはアチラも同じ考えのようだった。結局、首都高速道路まで二台のカーチェイスは続いた。


行きに二時間半かかった道のりが一時間半で到着したことは言うまでもない。


「あー、凄かった」

「百合、話があるの」

「どうしたのお姉ちゃん」

「こよりちゃん。彼とは別れなさい」 

はい異世界シニアです。


また濃い新キャラが登場しました。作中で登場するTVアニメのベーコンレタス作者です。


まさか百合ちゃんの姉が野獣☆野薔薇先生だったとは。


こよりを追いかけるために百合には移動手段が必要になりました。初めはお父さんも考えたのですが、それでは面白くない。


金があってスーパーカーにも乗っていて店長とも差別化できる人を考えました。


ガチホモ。となればベーコンレタス原作者しかない。ついでに夏コミ同人誌の絵師にしておけば伏線も回収できます。


次回サイドジョブ。わたしは偽装彼女でもかまわない。


見てくれよな!!

「頑張れ!」

「若社長!」

「任しとけい!」


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