さらって修善寺
夏が来ると思い出す。
それは夏休みのある日のこと。ボクは都立商業高校の一年生オタク男子。高校はじめての夏休みを満喫していた。
部活動のみんなで海の家でアルバイトをしたり、部長のパイセンのパイセンを鷲掴みしたり、部長と肝試しで手をつないだり、酔った部長のお姉さんにベロチューされたりしたっけ。
なんだかえろいことしかしてない気がするぞ。きっと気のせい。
あとは美少女にしか見えない弟のこよりと一緒にお風呂はいったり、同じ布団で睡眠を毎日とっているくらいだ。
いかん。文字にするとヤバさしか感じない。
学生だもの。もちろんまじめに勉強もしているよ。今日も夏休みの課題を片付けるために図書館で勉強をした帰りだ。
「暑いな。コンビニでアイスでも買って帰るか」
お、コンビニの駐車場に白くて大きいスポーツカーがとまっているぞ。あれは猛牛社の"白い悪魔"じゃないか。
うおー、かっけー。確か四千万とも五千万とも言われるスーパーカーだ。ん、スーパーカー。なんだかとても嫌な予感がする。
さっさとアイスを買って帰宅しよう。車の運転席のある左側を通り過ぎようとしたときだった。
バクン
白い悪魔のドアが勢いよく上に跳ね上がった。ガルウィングドアが開くところをはじめてみたボクであった。
「すまない少年。驚かせてしまったな」
白い悪魔から降りてきたのはサングラスに赤いTシャツと黒いミニスカートを履いたスーパーモデルみたいなスタイルのお姉さんだった。
「いえ、大丈夫です」
車から降りる時にお姉さんのスラリとした白い脚とその奥の白い幸せがチラリしたことをボクは見逃さなかった。本当にありがとうございました。
「ん?オタクくんじゃないか」
「え」
「わたしだ。海の家の店長だ」
そういいながら店長はサングラスを外す。サングラスの下からは部長のパイセンに似た顔が現れた。店長はパイセンのお姉さん。似ていて当然だ。
「偶然だな」
「店長、今日はどうしたんですか。白い悪魔なんて乗って」
「さっき納車されたんだ。これからナラシ運転に行くところだ」
「カッコイイです!車も店長も!!」
「!!」
(やばい、キュンときた)
「あ、あ、ありがとう」
「いいなあ、白い悪魔」
「どうだ。ナラシに付き合わないか」
「え、本当ですか」
「夏休みだから時間はあるのだろう」
「ええ、学校も部活もないから毎日ヒマしてます」
「よし、美味い魚を食わせる店がある。行くか、おごるぞ」
「やった!ごちそうになります!」
ごちそうになるのはわたしかもしれんがな。
「え、何かおっしゃいました」
「いやなんでもない。よし乗りたまえ」
「お邪魔します!」
「ベルトはしたな、デッパツだ!」
コオオオオオオオオオオオーーーン
甲高いエキゾーストノート。後ろから巨人に蹴られたような加速を感じた。
白い悪魔の名前は伊達じゃない。
さすが姉妹。出発をデッパツというところなんてソックリじゃないか。
偶然なんてあるわけがない。
妹にレンタルした車、オッサンNTRには特殊なナビゲーションシステムが搭載されている。
レーシングマシンとして作られたオッサンNTRは、街中でリミッターが外れないようになっている。
ドライビングテクニックのないお馬鹿さんがそこいらで暴走したら危険があぶないから。
そこでナビゲーションと連動し、サーキットの位置情報と合致することではじめてモンスターマシンとしての本領が発揮される。
簡単に言えばナビゲーションシステムの履歴をみれば、妹がオタクくんとどこに寄ったのか、車の所有者にはわかる仕組みだ。
妹を信用していないわけではないが、わたしだって恋する乙女。二人がラブホテルに寄っていたらショックだしね。
幸い二人は健全なデートをしたようだ。
あとは目立つ車で彼の家が近いと思われるコンビニで待てばいい。
作戦はみごとに成功した。本当にわたしはずる賢い女。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「てか、ここ何処!?」
スーパーカーのナラシ運転だから東名高速道路くらいは走行すると思っていた。
東京を出発し、首都高、東名高速道路、伊豆縦貫道で、いまはなぜか修善寺にいる。
どうしてこうなった。
ここは修善寺ホテル。いつのまにか店長はレストランを予約し、ボクの家に合宿という名目でお泊りの許可まで得ていた。
「煮るなり焼くなり好きにしてください」
お母さん、あなたは一番言ってはいけない人に言ってしまいましたね。
うん、さすが一人一泊二十万円のスイート。肉も魚も山の幸も海の幸も本当に美味しゅうございました。
「ごちそうさまでした」
「うん美味かったな」
「ところでボクこれからどうなるんでしょうか」
「そりゃあアタシに美味しくいただかれるのさ」
「ですよねー」
すでに店長は日本酒をぐいぐい飲んでいる。とても車の運転はできないし、させられない。
もっと不安なのはこの女、酔うとボクを襲うんだ。一度馬乗りになられてベロチューされたことがある。寝落ちしてくれたので助かったけれど。
「キスは一度じゃないぞ」
「え」
「この前のFCFで寝ているときにもベロチューした」
「えええ」
「大丈夫、酔ってなかった。本気のキスだ」
「なんでですか」
「キミが好きだ」
店長の目は本気だった。
「キミが妹と付き合っていることも知っている。それでも我慢できなかった」
「ボクは・・」
「急いで答えをださなくていい。仕事と車しか楽しみのないツマラン女の遊び相手になってくれればいい」
「店長はツマラナイ女じゃありません!」
「パイセンに聞きました。旦那さんのことやいままでの苦労を」
「パイセンはお姉さんがいなければ高校に進学できなかったと感謝していました」
「そんなひとがツマラナイわけないじゃないですか!」
「!!」
つー。わたしの頬を涙がつたう。報われた。彼に認められたことで、これまでのすべてが報われた。
「て、店長」
女を泣かせたくせにオロオロするなんて本当に愛おしい少年だ。
「すまん、みっともないところを見せた」
「いえ、ボクこそ偉そうなこと言いました」
「気にするな。こんな顔を見られたくないから露天風呂でも入っていてくれ」
「わかりました」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
部屋に露天風呂まであるんだ。凄いな高級ホテルは。
桐の香りに包まれた湯船につかる。今日はいろいろあった。あの様子なら店長も大人しく寝てくれるだろう。
いや、さっさと寝てくれないと困るんだけど。
思い出すだけで顔が熱くなる。きっと源泉の温度が高いだけではない。パイセンだけならともかく、店長みたいな大人の女性に好きと言ってもらえた。
告白どころかバレンタインのチョコレートすらもらったことがないのに。こよりと母さんは家族だからノーカンね。
ふと夜空を見上げる。東京と違って星がよく見える。ひときわ大きく丸い月に目が奪われた。
「月が綺麗ですね」
「!!」
振り返るとそこには何も身に着けていない店長が立っていた。
はい異世界シニアです。
BLじゃないよ!!
ごめんなさい、また逃げました。こよりが男であることをパイセンたちに伝える話から逃げました。
もっとパイセンと姉の店長のオタクくん争奪戦を書きたくなってしまったのです。
性交、いや成功でした。オタクくんもお姉さんもしっかり自分の意思で動いてくれました。
次回はもちろん今回の続きになります。
なかば拉致されたオタクくん。
どこが正々堂々だと憤るパイセン。
お兄ちゃんの初めてはボクだと燃えるこより。
誰かとひっついてこよりちゃんをわたしに返してちょうだいと画策する百合。
そしてもう止まらないお姉さん。
次回サイドジョブ。修善寺逃避行。
湯けむり万華鏡。




