薔薇と百合。不思議な三角関係
「こよりちゃん!わたし大きくなったらこよりちゃんのお嫁さんになる!!」
「うん、ボクも百合ちゃんが帰ってくるのを待っているよ!」
「絶対だよ!わたし必ず帰ってくるから!」
あれは五年前。お父さんの仕事の関係で外国に引っ越すことになったこよりの幼なじみの百合ちゃん。
二人のやりとりはその時のものだ。いま思い出しても小学生どうしの微笑ましいワンシーンだね。
転勤や引っ越しの多い百合ちゃんの家。友達がほとんどいない百合ちゃんにとって、こよりは王子様みたいなものだったんだろうなぁ。
「で、あなたがわたしからこよりちゃんを寝取ったんですね」
「ご、誤解だ!!ボクは何もやってない!」
「へー、あの情熱的なマウストゥマウスが何もやってないねぇ」
こより、誤解をさらに上塗りするのはやめなさい。ほらみろ、百合ちゃんの目にまごうことなき殺意がこもってるじゃないか。
「あなた兄のくせに弟を手籠めにして恥ずかしくないんですか!!」
「いいぞ百合ちゃん、もっと言って。この浮気者に」
「ちょっ、こよりさん??」
「いいのよ、こよりちゃんは被害者なんだから。この鬼畜眼鏡!!」
ほんと勘弁してほしい。
「わたしも来年、こよりちゃんと同じ都立商業高校に通います」
ボクたちが副業部の合宿に参加していることを母親から聞いた百合ちゃん。まだ受験の手続きが間にあうことまで調べていた。
「本妻のわたしが来たからには中学も高校もこよりちゃんに一切の虫を近づけません」
「まあ、最大のお邪魔虫がこんな近くにいるのは予想外でしたけれど」
「お邪魔虫とはヒドイなぁ」
「だって、お邪魔虫じゃないですか!!」
そう、百合ちゃんが引っ越しした次の年にこよりは海で溺れて死にかけた。その事件のせいで、こよりはお兄ちゃん大好きっ子からオニイチャンノハジメテハゼンブボクガモラウちゃんにクラスチェンジしてしまった。
百合ちゃんとの約束どころか、百合ちゃんの存在そのものまで忘れるくらいに。さすがに可哀想だから言わないけれど。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ということで百合ちゃんです」
「ほう、かわいいじゃないか」
「本当ね。こよりちゃんと並ぶと姉妹みたい」
「兄妹カプも好きだけど、姉妹カプも大好物っす!」
ここは秋葉原のファミレス。部活の帰りに副業部のメンバーに百合ちゃんを紹介した。だって、秋葉原オタク・タワーの前で手を繋いでボクを待ち構えてるんだもの。この二人。
六人テーブルに
ボク、こより、百合ちゃん
パイセン、副部長、オナチュー
の構図で並ぶ。
てか並ばざるをえない。こよりはボクの片腕から離れないし、百合ちゃんもこよりから離れない。
必然的にこよりを挟んで座ることになる。間違ってもボクが中心になることはない。なにしろ百合ちゃんにとってボクは天敵だから。
「オタクくん、オタクくん」
副部長で合法ロリ先輩がドリンクバーで声をかけてきた。
「百合ちゃん、こよりくんの性別知ってるのよね」
「ええまあ、あいつ小学生の時は美少年でしたから」
「あれ誰が見ても並んでいる姿は女子中学生よ。いいのかしら」
「あー、百合ちゃんはこよりラブであって男とか女とかもう超越してるみたいです」
「今の子は凄いわねぇ」
「あれが無敵の人って言うんですかね」
「それたぶん違うわよ」
そのとき部長のパイセンもドリンクバーのおかわりに来た。
「ずいぶん仲が良いじゃないか、二人とも」
「あ、パイセン。ふつーですよ、ふつー」
「そうよ姫。ふつーふつー」
「ふーん」
こよりが女子と疑わないパイセンとオナチューには聞かれてはいけない情報だ。
パイセンがジトーっとした目でボクを見る。
(お前わたしと肝試しでいい雰囲気になっといてどういうつもりだ?とか思っていませんように)
「とうぜん思ってるぞ」
このひとエスパーか。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「コスプレ写真集の出演オファーが来た」
「一人あたり日給三万円だそうよ。もちろん健全しかやりません。受ける?」
「クミっすよね!やるっす!!」
夏コミのときの音音クミのコスプレ凄かったもんなあ。じゃあボクとこよりは見学かな。
「何を言っている。副業部全員参加だ」
「あとこよりくんと百合ちゃんもどうかしら」
「「やります」」
こよりは将来の手術費用をいまから本気で貯めている。日当三万円は中学生にとっても破格だしね。
「わたしもこよりくんとの結婚資金を稼がなきゃ」
「ん?」
「いまは同性で結婚できますからね!」
どこか話が噛み合わないけれど、そこは気にしたら負けだった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
某月某日。僕たち副業部員とこより、百合ちゃんの六人は都内の某コスプレスタジオに集合していた。
待合室で待つこと一時間。ボクの前には天国が広がっていた。
オリジナルカラーの音音クミ。
水色をベースにした雪クミ。
薄いピンク色が華やかな桜クミ。
しかも夏コミと違い、衣装はすべてオーダーメイド。既製品と比較しても質感と高級感が段違いだった。
美少女フィギュアを例にするならば、原型師が丹精込めて作ったワンオフモデルと量産品くらいの差があった。
さらにメイクと着付けもプロがやっている。夏コミが100点のクミなら、いまは200点を付けたいくらいだ。
「ここが天国か・・・」
「そのセリフはボクたちを見てから言ってよね、お兄ちゃん!」
声のほうを振り向く。そこには黄色をベースカラーにした双子の兄妹バーチャルユーチューバー"音音リム"と"音音レム"が立っていた。
ぶひぃいいい。
ヤバイかわいい。鼻血がでそうだ。これは売れる。オタク歴年齢のボクが言うのだから間違いない。
もちろん兄のリムはこより。妹のレムは百合ちゃんが演じている。似ているとは思っていたが、コスプレして化粧したらまんま双子だ。
(じー)
視線を感じた。雪クミのコスプレをしたパイセンがこちらを見ていた。
(わたしをみないで妹とその彼女に見惚れるのだな)
「わー、二人とも目で会話してるー」
百合ちゃん、余計なことを。
こよりのハートを射止めるために最大のライバルであるボクが邪魔な百合ちゃん。なんて賢しい子。
撮影は休憩も含めて四時間に及んだ。
「はい撮影終了です!お疲れ様でした!!」
スタジオ内に撮影終了の声が響き渡る。よし片付けして帰ろうか。
「次は後輩くん、こよりちゃん。準備してくれる」
(え?ボクまで??)
どうせそんなこったろうと思った。
予感は的中した。ボクとこよりはベーコンレタスの兄弟のコスプレをさせられていた。
さらに偽装彼女役として、パイセンと百合ちゃんも参加した。
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後日、写真集の増刷が決定した。なぜか音音クミでなく、ベーコンレタスのほうが売れに売れていた。
はい異世界シニアです。
強烈な個性の百合ちゃんが登場しました。
キャラクターが勝手に動く動く。
設定さえ与えれば好き勝手に動いてくれます。
次回のプロットは未定です。夏ときたら文化祭や体育祭でしょうか。
さあ、お手をどうぞ。