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夏祭り。兄と弟のセカンドキス

こいつはボクの天敵てきだ。


秋葉原のオタク・タワーで会った瞬間に確信した。理由は簡単。見た目がボクの愛するお兄ちゃんの性癖ど真ん中だったから。


兄はオタク。とくにバーチャルユーチューバーの音音ネネクミにはまっている。そして兄の部屋には何十体とクミのスケールフィギュアが並べられていた。


兄の好きな女性のタイプは熟知している。なぜなら自分がその理想に近づけば選んでもらえるかもしれないから。


けれど、男性である自分には決定的に不足している部分があった。どんなに見た目は美少女だろうと、髪の毛を伸ばそうとも、化粧がプロ並みになろうとも男である以上、誤魔化せないところだ。


そう胸。兄はパイオツとも呼んでいる。


いつか豊胸手術も考えている。でも中学生の自分にはお金がない。年齢的にも成長期の身体では手術も受けられない。せめて働いて自分でお金を稼げるまでは我慢するしかなかった。


そんな時、兄にとって理想ともいえるホンモノが現れた。本能的にこの女は自分の天敵てきと理解した。


その女はパイセン。兄を副業部にスカウトした部長。ボクの上位互換だった。


昼間、砂浜での二人の雰囲気は明らかにおかしかった。背中に悪寒が走る。嫌な予感しかしない。


「ごめんなさい、スパッツ先輩!ボク先に行きます!」


もう一秒も待っていられなかった。神社の階段をトップスピードで駆け上がる。


「え?どうしたの、こよりちゃん!」

「兄が。お兄ちゃんが危ないんです!!」


そこからはもう後を気にするのはやめた。


肝試しのゴール。こよりが神社の境内に走り込むと恐れていた光景が眼前に広がっていた。


あの女と兄が抱き合っているように見えた。


予想できた出来事ではあった。そもそも自分は夕方にその予兆を感じていたではないか。


「こよりちゃん!どうしたの。とつぜん駆け出して!」


少し遅れて肝試しのパートナーのオナチューも境内に到着した。


彼女にも同級生のオタクくんが部長の姫と抱き合っているようにみえた。その刹那、こよりちゃんが叫んだ。


「お兄ちゃんから離れろ!お兄ちゃんはボクのだ!!」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


走ってきたのだろう。苦しそうにハァハァと肩を揺らす弟の姿がそこにはあった。


「こより・・・」

「なにしてるんすか!二人とも!」

「誤解があるようだな二人とも。わたしが暗くて転びそうになったところを後輩が助けてくれただけだぞ」

「嘘だ!!!」

まるで斧を振り回しそうな勢いでこよりが叫ぶ。

「落ち着けこより。パイセンのいうことは本当だ」

「うそだうそだうそだうそだ、嘘だ!!」

こよりは泣き叫ぶ。こうなるともう何を言っても弟の耳には入らない。


仕方ない。最終手段だ。


ボクはこよりをそっと包みこむように抱きしめる。


「「「なっ」」」


パイセンもオナチューも抱きしめられたこより本人でさえボクの行動に驚いていた。あっという間にこよりの体から緊張が解ける。すんすんと泣きながらボクの胸に顔をうずめて大人しくなった。


落ち着いたのか。すーはーすーはーと深呼吸のあと、クンカクンカとボクの体臭を堪能しだしたので慌てて引きはがす。


「・・ということで、本当なんだ」

落ち着いたこよりとオナチューに説明するボク。


「誤解されるような姿勢になってしまったな。申し訳ない」

パイセンも謝罪する。


「そこまでお兄ちゃんが言うなら信じる」

「そうっすよねー、境内暗いっすから!」


どうやら二人は納得してくれたようだ。


それにしても危なかった。パイセンに抱きつかれたボクは何もできずにいた。困ったパイセンが人の気配を感じて離れたとき、本当に転びそうになった。


転びかけたパイセンの体を両手で支えたところをこよりたちが目撃したというわけだ。セーフ。


その後、遅れて到着したパイセンのお姉さんと副部長の合法ロリ先輩組と合流して肝試しは終了した。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


わたしは海の家の経営者で店長。姫やパイセンと呼ばれる妹の姉だ。


このところ妹の様子がおかしい。もともと大人しい子ではあったけれど。アルバイトをしているときも、海で遊んでいるときも気がつくと一人の男の子を目で追っているのだ。


ようやく春がきたか。いまは夏真っ盛りだけどな。


あの子には幸せになってほしい。わたしのように結婚して数年で旦那と死別なんてないことを本気で祈っている。


どれ姉として少し探ってみるか。


夏祭りの日、五人を保護者として引率する。我が妹ながら浴衣がよく似合う。驚いたのは妹以外の女の子たち全員が粒ぞろいだった。


おかげで今年の夏は大いに稼がせてもらった。妹が想いを寄せる男子、オタクくんにもお礼をしないといけない。


そんなことを考えているうちに酒を飲みすぎてしまった。わたしも弱くなったものだ。祭りから帰宅し、フラフラと部屋に向かって歩いているとオタクくんが肩を貸してくれた。


「店長、飲みすぎですよ」

「あー、すまんすまん。でも酔ってないよー」

「それ酔っ払いの常套句じゃないですか」

「へへへ」

「明日も朝早いんですから早く寝てください」

「オーケーオーケー」


部屋に戻るとオタクくんが布団を敷いてくれた。なんだか男性に優しくしてもらえて嬉しくなる。


「じゃあ、ボクはこれで」


帰ろうとするオタクくんの手を引っ張って布団に転がす。そして彼の体に馬乗りになった。


「ゆっくりしていきなって。ちょっとお姉さんと遊んでいきなさい」

「なに言ってるんですか。この酔っ払い!冗談はやめてください!」


あ、こいつ可愛い。女を知らない童貞くんだ。酔っているせいもあるがこのままいただいてしまいたくなる。


「大丈夫、大丈夫。天井のシミを数えているうちに終わるから」

「なに言ってるんですか!むぐっ」


うるさいので彼の口を自分の口でふさぐ。ついでに舌で彼の口の中を味わう。何年ぶりかの男の味がした。


「むーむーむー」


さんざん彼の唇と口内を味わった後、口を離す。ぷはっ。


「大人のキスよ。さぁ続きをしましょう」


この子、顔を真っ赤にして本当に可愛いな。妹が惚れるのもわかる。ごめん妹、先にいただいちゃう悪いお姉ちゃんを許して。


ふっ・・・そこでわたしの意識は途切れた。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「あー、なんか大変な夏だったなー」

「ほんと、こよりも疲れたよー」


副業部の部活動でもある海の家のアルバイトを終えて、ボクとこよりの兄弟は自宅に戻る途中だった。


それにしてもあの酔っ払い店長。人を襲ってチューだけして寝落ちするとは。しかも翌日なにも覚えてないときた。


ボクにとって異性とのファーストキスがまさかパイセンのお姉さんとは。これ誰にも言えないヤツじゃん。


「え?キスがどうしたって、お兄ちゃん?」

「な、なんでもない」


家族だからノーカンだけど、こよりにもチューしてるんだよなボク。いいや、あれは人工呼吸だからノーカンノーカン。


「お兄ちゃんはボクとしかチューしちゃダメなんだからね!」

「恐ろしいことを平気で言うな」

「だってボクはお兄ちゃんしか知らないし、知ろうとも思わないもん」

「おまえ学校でもモテるだろうに」


じっさいこよりは男子だけでなく女子からもよく告白されている。陽キャすごい。


「というわけで、ボクにはお兄ちゃんがボク以外とチューすることを止める権利があるのです」

(なんだよ、そのひどい権利)


あれ?家の前にこよりと同じ制服の女子中学生が立っているぞ。


「こより、お前の友達か」

「ううん、制服は同じだけど知らない子だよ」


そんな話をしていたら、その女子中学生がこちらに気がつく。まるでパッと花が咲いたような笑顔だ。


「こよりくん!」

(え?)

「あ、もしかして百合ちゃん?」

「そう百合。五年ぶりだね!わたし、こよりちゃんのお嫁さんになるために帰ってきたよ!」


「「え」」


驚くボクとこより。百合ちゃんはうれし泣きしながらこよりに抱きついてチューをした。


はたから見ると女子どうしの百合にしか見えないのが兄としては困る。


ボクら兄弟はこの夏おたがいに別のひととセカンドキスを経験することになった。


人生ってほんと読めない。


あざといエピソードタイトルをつけてみました。異世界シニアです。


わたしはノーマルです。でも、こよりみたいな弟がいたら彼を選んでしまうかもしれません。


まさしく小悪魔。魔性の弟。


まあ現実にリアルでホンモノの美少女に勝てる美少年なんていませんけどね。夢見るくらいはいいじゃないですか。


さて今回は新キャラクターが二人も登場しました。パイセンの姉とこよりの幼なじみ百合ちゃん。


とくに百合ちゃんはこよりラブなので外観をまったく気にしない無敵の人。はたから見れば完全に百合です。


意外性のある展開を・・と考えていたら百合にたどりついたのはここだけの秘密ですよ。


次は百合ちゃんで話を広げていこうかと考えております。


地球滅亡まであと365 日。



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