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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者パーティーを追放されそうになった盗賊。彼は盗むことのスペシャリストだった

作者: ローリエ

「余計なことを言いやがってっ! お前なんかもうこのパーティーから消えろ!」



 自然豊かな温かさのある渓谷地帯。

 穏やかな季節も相まって心地よい場所に、似つかわしくない怒声が広がった。



 憤慨しているのは、勇者パーティーの中心人物である勇者だ。

「ちょっと待って、落ち着いてよ。こいつがいなくなったら、誰が斥候を務めるのよ」

「そんなの勇者であるこの俺がやってやるよっ!」

「お前には無理だ。隠ぺいのスキルを持ってないのに、どうやってやるんだよ?」


 

 勇者の言葉を否定するのは、盗賊。先ほど勇者が怒鳴った人物だ。その言葉は真っ当であったが、だからこそ勇者に火に油を注ぐことになった。



「んだとっ! 盗賊風情が勇者であるこの俺に生意気言うな! 殺すぞっ!」

「はー、もうこれは鎮静魔法を使うしかないわね」

 今にも殴り掛かりそうな形相な勇者を宥めるのは、魔法使いの女。彼女が何やら呟き手の功を勇者に向けると、彼は「悪い」と冷静な表情で謝った。



「しかし、この盗賊のせいでパーティーが瓦解したのは事実だろ」

「確かに発端はオレだな。だが、正式な彼女である魔法使いがいるのに僧侶と剣士を弄んだのは、それも事実だろ」

「……それでも合意の上だったんだよ。それが、急に今になってパーティーを抜けた。どう考えても第三者が介入しているだろ? こいつが何か余計なことを言ったに違いない」



 先ほどとは打って変わって怒りを露わにしない勇者だが、その瞳にはまだ盗賊に殺意を向けていた。

「おー、怖い怖い。分かったよ、お前のパーティーを抜けてやるよ。その代わりに、金を半分くれ」

「半分だと? まだお前は反省してないようだな。お前なんか金貨一枚で十分だろ」

「それはないだろ。斥候ってかなり危険な仕事なんだぞ。納得できないな」

「だったらどうする? 力ずくで奪ってみせるか? この勇者である俺から軟弱な盗賊のお前が?」


 

 馬鹿にするように、実際馬鹿にする視線で盗賊を見る。勇者と盗賊、同じレベルなら圧倒的な勇者に軍配が上がる。その上こちらには魔法使い。盗賊に勝てるどおりはない。仮に、盗賊のスキルでお金を盗まれ身を隠されようとも、魔法使いの索敵からは逃れられないのだから。



 しかし、盗賊は笑った。

 強がりだ、そう考える勇者。次の瞬間、彼の頭の中は、なぜで埋め尽くされた。

「盗賊ってさ、盗むことに特化した職業なのは誰もが知ってる。なのに人の心も対象だということを知らない連中が多い。なんでかって? そりゃあ、みんな隠すんからだよ。オレだってこんなキモイやつを傍に置いておきたくないしな。お前はどう思う?」


 

「私も同感だよ。盗賊に心を盗まれたって、盗まれた今でも気持ち悪いし」

 背後から勇者に拘束魔法を放った魔法使いが嫌な顔で質問に答える。



「なぜ? なぜだ? なぜ、そんなスキルが盗賊なんかに」

「悪いけど、そんな特殊なスキルじゃないらしいわよ。彼曰く、相手の心が読めるだけらしいし。まあ、だからこそ本当に気持ち悪いんだけど」

「だったらなぜ。なぜ、俺を裏切ったんだ?」

「そんなの当たり前じゃん。浮気して、それを謝らず、その上こいつを追い出して、僧侶と剣士を追いかける予定だったでしょ。さすがの私ももう無理よ。あなたのことは本当に素敵だと思っていたけど、もう冷めた。あなたとの子供ができないことを切実に願うくらい」



 昨夜も勇者と同衾したことを後悔する魔法使い。それでも、自分はマシだと思った。

「僧侶と戦士は、あんたの子供を身ごもった。彼女たちは本気の本気であんたを愛していたわ。自分たちのわがままを叶えてくれたって。もう少ししか力になってあげられないけど、これまで以上にあんたを支えようって」



 遠い目をした彼女は、そこで一区切りつくと声色を変えた。それは、とても冷めたものだった。

「それでも彼女たちは、パーティーを抜けた。それはね、あんたは裏切ったから。よりにもよって敵である魔族にさえ手を出した。私の、彼女たちの親の仇を」



 物事を映像として保管できる魔道具を取り出して見せる。そこには、勇者と女の魔族がよろしくやっているのがはっきりと映っていた。

「そ、それは、君だって望んでいただろ。人類と魔族、争わず共存の道はないかって。だから俺は」

「そうね。あんたがもっと誠実な男だったら何の問題もなかったでしょうね。でもね、あんたは私たち女の敵よ。今は、それ以上もそれ以下もない」



「最後の話は終わったか? で、誰がこいつを殺す? 昨日、話し合ったんだろ?」

 盗賊からの問いに魔法使いが頷く。彼女が答える前に、勇者が話に割り込んだ。



「俺を殺す? 勇者である俺が死ねば、邪神は倒せない。邪神は、勇者のみが扱えるこの聖剣じゃないと傷さえ与えられない。それにあれは、魔族と違って対話すらできないだろ? 俺が死ねば人類は必ず滅ぶぞ。結局、勇者である俺様に人類も魔族も従う運命なんだよ。そんな特別な俺を裏切ったお前らを俺は許さない。盗賊は、ゆっくりとじわじわと殺し。女共は、性処理道具として使って――」



 それから先、勇者が話すことはなかった。



「にしても、勇者ほどの強い魔法耐性をよくこんな脆くできたわね。盗賊ってこんなに強かったのね」

「そこまでじゃないぞ。耐性なんかは、少しずつ少しずつしか奪えないからな。それもこれもお前の鎮静魔法で感覚を鈍くしてくれたおかげだし」

「えへへ、嬉しいわ。あなたみたいに純粋に褒められることなんて久しくなかったから。それより、あれはちゃんと使えるんでしょうね」



 心の臓を貫かれて死んだ勇者が埋められた墓。立てかけられた彼の聖剣を指さす魔法使い。



「ああ、安心しろ。ちょっと前に、ちゃんと実験済みだ」

 そう言って盗賊は、鞘から剣を抜いて魔力を注ぐ。すると、聖剣は――勇者にしか応じないはずのその武具は、盗賊を主と認めるかのように光り輝いた。

「技術を盗むのも、盗賊の力なのね。本当にすごい、それでいてすごく勿体ないわね」

「ん? なにが勿体ないんだ?」



 本当に疑問に思っている盗賊に、彼女は呆れた。

「だって、あなた女じゃんか。男だったら最高だったのに、ほんと、優良物件よね」

「いや、オレが男だったらお前みたいなヤリ〇ンはお断りなんだけど」

「誰がヤリ〇ンよ。黒歴史だけど、まだ勇者としかやってないし」

「はいはい、とりあえず仲間を集めよう。新勇者パーティーの結成を急がないとな」



 それから、新たな勇者になった盗賊が邪神を滅ぼし、新勇者パーティーは魔族と和解し戦いを終わらせたらしい。


 

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王道的ざまぁですが、それがいい。
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