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第8話 信頼(1)

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 もし今電話を掛ければ城崎さんの正体が暴ける。

 仮に違ったならば、友達が欲しい故の可愛い嘘。もし本当に夜─YORU─さんならばそれが確定され、更に一ファンである俺が電話という形で彼女の配信に映り込めるのだ。




 そんな邪心に心を支配されかけたその時、夜─YORU─さんはまた珍しく誰かのコメントを読み上げた。


『「今日は楽しそうですね」──ん……、初めて友達できた……』


「……!」


 彼女が今週のことを振り返って発言しているのなら、ほぼ俺のことだろう。彼女は俺のことを友達として認識してくれていた。厄介なファンの心理が勝手に俺の話だと思い込ませているのかもしれないが、俺にとってはそれでも十分だった。


 今はただ、スマホの向こうにいる夜─YORU─の姿を想像して配信を楽しむリスナーでいればいい。明日城崎さんに会った時は友達として、こっそり配信の感想を伝えよう。




 そんなことを考えていると、俺はいつも通り彼女の配信を見ながらいつの間にか寝落ちしていた。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「よっす岬! おは〜」


「おはよう健人」


「お? 土日の部活もまだ変な顔したり不安だったが今日は大丈夫そうだな〜!」


「はは……」


 あれは城崎さんの連絡先を手に入れてにやけてただけだ。




「おはようアンタたち!」


「おはよ〜」


「おはよう桜花」


 教室に入ってくる桜花の方を振り返った俺は目を疑った。

 仁王立ちする桜花の後ろには城崎さんがいるではないか! こんなチャイム前に彼女がいるなんて初めてのことだ。


「ん……、おはよ……神楽くん……」


「おはよう……」


 すれ違いざまに俺に囁く城崎さん。その大胆な行動に俺は固まってしまった。


「おい! おいおいおい岬ぃ〜! なんだなんだ〜!?」


「ふーん! アンタそういうことね!」


「ちょ! ちょっと二人ともこっち来い!」


 この二人は間違いなくこのクラスで最も顔が広いタイプ、そして声がデカい二人だ。余計なことを口走られるのは何より城崎さんに悪い。




「今はなんと言うか、慎重にいきたい時期なんだよ! な? 分かってくれるよな……?」


 俺は健人と桜花を廊下に追いやり、そう詰め寄る。


「分かった分かった〜! そっとしておくよ!」


「まだ学校が始まって七日……。アンタも手が早いのねぇ? しかもお相手はあの“氷の眠り姫”様とは……」


「はいはい桜花〜、その辺にしといてやってよ〜」


 健人のお陰でその場は収まった。




 それから二人と別れ、俺は自分の席に着く。目的はもちろん城崎さんだ。


「昨日は配信お疲れ様」


「ん……ありがと……」


「昨日はいつもより楽しそうだったね」


「うん……」


 城崎さんはマスクの上から口を押さえて「ふふ……」と笑い声を漏らした。

 その時見えた右手の人差し指にあるほくろ。それは間違いなく配信に映る夜─YORU─さんのものと同じだった。


 昨日の夜、少しでも疑った自分自身が憎い。

 そうだ、この俺が彼女の声を聞き間違えるはずはない。彼女の白く細い小さな手も、喋り方も、確かに夜─YORU─さんだ。




「昔はあんまり配信も乗り気じゃなかったよね」


「うん……。あれはマネージャー側からやれって言われてただけだから……」


 大会の賞金やスポンサーとの契約で収入を得るというのがプロゲーマーの定義だ。契約内容によっては商品の紹介や、商品を実際に使った配信が必要になるのだろう。


「それに……パソコン周りのものは高いから……収益も大事……」


「確かによる……君のレベルならそれなりに稼げるよね。なんでもっと配信しないの?」


「……私は競技者。配信者(ストリーマー)じゃない……。毎日配信していない時は一人で練習している……」


「そうなんだ。なんかごめん……」


 彼女のプロ意識に対して俺は目先の金のことしか考えていなかった。浅ましい自分の考えが恥ずかしい。


「ん……。だけど皆の気持ちも分かる……。今度の予選大会が終わったらもっと配信も増やそうかな……」


「……! そうなんだ! 楽しみにしてる!」


 自分の行動が夜─YORU─さんに影響を与えているという事実に心が揺れた。




「でもあんまり根を詰めすぎないようにね。今日は間に合ってるけど、いつも遅刻か遅刻ギリギリだし、授業中も寝てるし……」


 俺は笑いながら、冗談めかしてそう言った。配信をしている人間は総じて生活習慣が終わっている。それに一日のほとんどをゲームの練習に費やすプロゲーマーと学生生活の両立は厳しいだろう。


「今言うと言い訳にしか聞こえないけど……、実は私……一人暮らししてるの……」


「え、そうなんだ」


「ん……。遅くまでゲームするのは家族に迷惑だし……、身バレした時大変なことになるから……」


「でも、全部で一人でやるとなると、大変だよな」


「うん……」


「もし何かあれば──」


 流石にそれは差し出がましい申し出だな思ったその時、チャイムが鳴ってはまやんが登場した。




 それにしても今日は城崎さんが早く登校していたので長く話せてよかった。

 これからもこうやってもっとお話ができたらいいのにな、なんて考えている俺は、きっと夜─YORU─さんへの憧れがそのまま城崎さんへの好意に変わってしまったのだろうと、少しずつ自覚していた。

お読みくださりありがとうございます!

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