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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第55話 迷走(3)

いつもありがとうございます!

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 家に帰ってからも俺は何となく落ち着かず、リビングでコーヒーを飲んでいた。


 別に見たい番組もなかったがテレビをつけた。一人しかいない空間に別の人間の声が悲しく響き渡る。

 天気予報では「明日、四十年振りのホワイトクリスマスが……」などとアナウンサーが笑顔で天気図を解説している。


 どいつもこいつも未来の話ばかりしていてうんざりした俺はテレビの電源を消してテーブルに突っ伏した。

 これだけカフェインを取ったというのに、職業病のようなもののせいかカフェインが効きづらい俺は睡魔が勝ち、気が付いた時にはもう眠ってしまっていた。







 それから俺はキッチンの方から聞こえてくる何かを焼く音と香ばしい醤油の匂いで目を覚ました。

 まさか夜宵が、などと思って視線を上げるとそこに居たのは父さんだった。


「起きたか、岬」


「父さん。帰って来られたんだ」


「ああ、久しぶりにな。……晩御飯にしよう」


 そう言われて時計を見るともう夜七時を過ぎていた。


「さあ食べよう」


「ふふ……」


 どんぶりを覆い尽くすような大きな照り焼きチキン──それも切ってすらいない──がドンとひとつ乗ったそれを見て思わず笑いがこぼれてしまった。


「どうだ、美味いか」


「ああ。美味しいよ」


 こうやって口の周りを汚しながら食べるのも悪くはない。

 たまにしか食べられないからこそ、父さんの作る男飯には独特の魅力があった。


 ──今度夜宵に作ってあげる時はこんな感じにしよう。


 そう思いついた瞬間、俺の表情から笑みがフッと失せる。


「……どうした。焦げてたか?」


「い、いや、大丈夫……」


「……話してみなさい」


 刑事である父さんの前で隠し事はできない。嘘も突き通すことはできない。

 どの道いつかは保護者と相談しなきゃならないことなのだ。


 せっかくの楽しい日にこんな話をするのは少し躊躇うが、俺はファイルから白紙の進路希望調査表を机の上に出した。


「実は、進路について悩んでて」


「……そうだったのか。話す時間が取れなくて悪かったな。……今は、将来の夢とかはないのか」


「……そうだね」


「金の心配は要らないぞ。もし、家を出るとしても家の心配も要らない。それでも、やりたいことはないのか」


「ないんだよね……」


「そうか……」


 父さんはふらっと立ち上がり冷蔵庫からノンアルコールビールを持ってくる。


「昔はよく、『父さんみたいなかっこいい警察官になる!』って言ってたのにな。ははは……」


 父さんはガラスのグラスに注がれた金色の液体を眺めながら、心底懐かしそうにそう呟いた。


「ごめん、今はもう……」


「高卒で行くなら警察学校は十ヶ月。それも全寮制だ。週末は届けを出せば外出ができないこともないが……お前の考えていることはわかるぞ。……城崎さん、だろ?」


「うん……」


 こんなこと誰にも言えなかった。誰にも相談できるはずがなかった。

 たった十ヶ月。いや、十ヶ月もの間夜宵と離れ離れの生活をしないといけなくなるなんて!


「はは! まあ警察学校もそれなりに厳しいからな。四月は外出禁止だし、その後もしばらくは訓練の疲れでとても遊びに出掛ける気力はないだろう。余裕ができる頃になったとしても、外泊は基本自宅のみ。……今のお前には少し酷か!」


「ま、まあ……」


 少々ガサツな父さんの歯に衣着せぬ物言いに、俺は顔を赤くする。


「まあそれでいいさ。そういうことも大事だからな。父さんはお前が警察官になるのは嬉しいが、それ以上にお前に幸せでいてくれる方が嬉しい。昔の話なんて気にするな」


「……ありがとう」


 アルコールは入ってないはずなのに、父さんは少し耳を赤くしてネクタイを緩めた。


「でも──いや、だからこそ迷ってるんだ。将来を考えた時、夜宵を守るために何ができるか。彼女の横を歩いて恥ずかしくない人はどんな奴なのか。そう考えた時、父さんのような立派な警察官は、俺にとって最高の選択肢に思える」


 自分で言っていて恥ずかしくなる。だが、この気持ちは嘘じゃない。

 俺が夜─YORU─さんのストーカーに刺された時、助けに来てくれた父さんの姿は、間違いなくこの世界で一番カッコよかった。父親としても、同じ男としても。


「そうかそうか! 普段は澄まし顔をして飄々としているのに、その実、熱い男だったんだな! ははは……!」


「父さん……!」


「いやすまん。……ただ、少し熱くなり過ぎてないか、岬。お前の人生は、もうお前だけのものじゃないんだろ?」


「…………!」


「話したいことがあるなら、後悔がないようしっかりと話しておくべきだと思うぞ。話したい時に話せないというのは……辛いぞ」


 どこか物憂げな目をしてそう語る父さんの姿に、あの日のことがフラッシュバックする。


 母さんの事故が起きた時、父さんは千葉県警の応援に駆り出されていた。戻って来れた時にはもう、母さんの意識はなかった。

「お前は大丈夫だったか」と俺を抱き締めた時の父さんの目は、こんな目をしていた。


 そうだ。決して手放してはならないものはある。ほんの一瞬目を離した瞬間、二度と触れることが叶わなくなるものもある。

 あの時、夜宵がストーカーに襲われた時、俺がいなければ彼女はどうなっていたか分からない。


「ご馳走様!」


 俺は空にした丼をシンクに放り投げ階段を駆け上がる。


 あの日、身を挺して夜宵を守った瞬間から、俺の人生は彼女に捧げると誓った。

 彼女のために何ができるか。彼女の傍にいるためにはどうしたらいいのか。


 答えのない答えを求め、俺はパソコンを起動した。

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