第53話 迷走(1)
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「いいかーお前らー。修学旅行も終わってもうすぐ十二月。冬休みが終われば三年生もすぐそこだー。よって進路希望調査を行うぞー。受験が多いとは思うが、就職という選択肢の人もいるだろう。まあ提出期限は冬休み明けだから、保護者の方とよく相談するんだぞー」
教室は阿鼻叫喚の叫びに包まれた。
学校祭、修学旅行という楽しいイベントが終わり叩きつけられる「受験」の二文字を前に、生徒たちは絶望の表情を浮かべている。
「もう来年には受験か〜!」
「健人は受験なんだな」
「まあな〜。今の時代、進学が安牌だからな〜。T医大の保健学科が今のところの第一志望だぜ」
「桜花は?」
「私はO女子大の教育学部ね。あんたは?」
「俺は……」
具体的にちゃんと考えている二人を見て、どこの大学かすらろくに考えていなかった俺は若干の焦りを覚えた。
今までの模試でも、適当に自分の偏差値に合っているというだけで興味もない大学の名前を連ねてきた。
「まだ、悩み中……かな」
「早く決めときなさいよ。ただフラフラ走るより、ゴールを決めて走った方が人間は頑張れるものよ」
「おう……」
いきなりさあ決めろと言われても難しい。
いや、今まで調べる時間や講演会などがあったのに目を逸らしてここまで来たのは誰でもない自分自身だ。自業自得以外の何物でもない。
「──夜宵は、どうするの?」
「私は就職……というか、何もしない……。今まで以上に……活動に専念する……予定……」
「そっか」
まあそれはそうだろう。聞いては見たものの、そうだろうと自分でも分かっていた。
だが、もし彼女が進学するのなら俺もそこにしよう、なんて単純なことを考えてしまうぐらいに俺の心は迷走していた。
「なんだ岬迷ってるのか〜? 親父さんの背中を追うもんだとばかり思ってたぜ。剣道も警察でやるんだろ?」
「それも考えてはいたんだけどな……」
もちろん警察学校という選択肢もある。だがそれは別に高卒でなくともいい。大学卒業後でも、三十五歳までなら警察学校に入り警察官になれる。
そもそも、こんなに迷っている覚悟も信念もない人間が気軽に足を踏み入れていい領域でないのは、父さんの姿を見ている俺が一番よく分かっている。
「冬休みの間にゆっくり考えれば大丈夫だって。そんな心配そうな顔するなよ〜」
「まあ、そうだな……」
その日の夜、父さんは帰って来なかった。
夜宵も年明けの大会に向けて徐々に忙しくなりつつあり、一人で夜を過ごした。
昔はこれが当たり前だったのに、当たり前だった頃はなんとも思わなかったのに、今は無性に孤独を感じてしまう。
土曜日の剣道も気持ちが入らないままで、師匠にも素振りをしていろと言われる始末だった。
日曜日の夜、俺はいつもの様に夜─YORU─さんの配信を見ていた。
当然の如く一人で。
『そうなんです……! 大会……出れることになって……! そう……前回の大会は体調不良で……。だけどその分の参加権を今回ので……シード枠として……! 本当に……運営さんに感謝です……!』
楽しそうに配信する夜─YORU─さん。彼女の明るい声が人生の支えであったはずなのに、今は何故か気に触る。
きっとやるべき目の前のことも、そして将来も決まっている彼女の姿に嫉妬しているのだ。
くだらない自分の器の小ささに吐き気がした。
結局配信を見続ける気にもなれず、コメントも残さずにスマホの電源を消して眠りについた。
次の日、学校で夜宵と会った時、どことなく気まずかった。
原因は俺にあるというのに、気を遣って彼女の方から話しかけてくれる。だがその返事は素っ気ないものしか返せない。
「具合……悪い……?」
「大丈夫」
「そう……」
「悩んでることがあったら……相談してね……。力になれるか分からないけど……話、聞くことなら……できるから……」
「ありがとう。大丈夫」
ああ、またこのパターンだ。そう思った。
母さんが事故で死んだ時、周りからの優しさがむしろ俺を苦しめた。優しい言葉も、同情の眼差しも、所詮は幸せな人間が可哀想な俺に向けているものだと思うと素直に笑顔で受け取ることができなかった。そしてそんな下らない自分の姿を鏡で見て自己嫌悪に陥る。
あの時と全く同じことが、また今の俺に起きていた。
「君が輝くほど、俺の影はより濃くなる」そんなこと彼女に言えるはずもない。
まだ卒業まで一年以上ある。本気でやることが見つからなかったら、最悪浪人したって父さんは許してくれるだろう。
それなのに何故俺はこんなにも思い詰めているんだ? 何故俺はこんなにも苦しんでいるんだ?
何が俺の足にまとわりついているのかも分からぬまま時間だけが過ぎ、白紙の進路希望調査と共に冬休みを迎えた。
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