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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第51話 修学旅行(1)

いつもありがとうございます!

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「よーし、それじゃあ、はぐれないようにちゃんと着いてこいよー」


 各担任引率の元、まずは真面目な研修が始まった。


「あれがかの有名な清水寺だなー。清水の舞台から飛び降りる、なんて言うが、割とイケそうな高さだよなー」


 もっとちゃんと説明して欲しいものだが、生徒たちは各々パンフレットを読むなり記念撮影に興じるなど好きにやっていた。


「夜宵はこういう歴史系は好き?」


「ん……あんまり……。歴史の授業は……眠くなるから……」


「はは……」


「岬くんは……?」


「結構好きだよ。千年前の人もここに来てたんだ──とか勝手に思いを馳せたり」


「ふうん……」


 彼女は心なしか感慨深そうな面持ちで木の手すりを撫で始めた。

 清水寺は幾度も火災に遭っているので恐らくその木は近年のものだろうが、彼女なりに楽しんでいるようなので笑顔で後ろから眺めていた。


「──次は三十三間堂だぞー。国宝だから絶対に触るなよー」


 お坊さんのありがたい話は正直よく分からなかったが、荘厳な千手観音像の数々と美しい庭園を見ると、心が洗われたような気持ちになった。


 そうしたものを見た後に聞いた話を思い返すと途端に深いものに感じられるから不思議だ。

 昔の人もきっと同じような気持ちでこの場所を建てたのだろう。







「よーし、昼食後はお待ちかねの自主研修だー。ちゃんと班で回れよー」


 歴史好きな人ならともかく、多くの生徒にとってはこちらの方が楽しみだったことだろう。

 そんなマジョリティーな男がここに一人いる。


「早く抹茶と団子食べに行こうぜ〜!」


「ちょっと落ち着きなさい。先に着物レンタルに行く予定でしょ」


 娯楽系はこのカップルに任せとけばいい、という安心感がある。


「──おお、岬お前似合うな〜!」


「そうか?」


 紋袴なんか着たこともなかったが、意外と自分でもしっくりきた。

 着付けに合わせてヘアセットもしてくれたので、ここはいつだかの夜宵のリクエストに応えてオールバックでなんちゃって武士感を演出する。


「めっちゃいい……!」


 どうやら俺の思惑通り、彼女からは高評価を得た。


「夜宵も似合ってるよ」


 お祭りで浴衣姿は見たが、着物姿の夜宵は初めて見た。彼女は白を貴重に金と黒で花をあしらった着物に、いつものヘアピンに代わって髪飾り、そして下駄というスタイルだった。

 元より色白で目鼻立ちの整った彼女だが、着物を纏うと和風美人の印象がより際立つ。


「あら、そこに二人並んでみなさい」


 桜花は俺と夜宵を古民家の前へ移動させた。


「ん? なんだよ」


「ほら、見なさい健人、まるで新婚みたいだわ」


「はは! ガチでお似合いだな〜!」


「け、けっ……!」


「ちょ! 桜花! 健人!」


 言われてみれば和婚に見えなくもないな、なんて自分でもちょっと思った。

 だがそんなことを言い出せる訳もなく、顔を真っ赤にする夜宵の代わりに俺は健人と桜花を小突いた。


 そんな茶番を演じつつ、俺たちは京都の街並みを満喫した。


 お茶や団子を嗜んだり、何となく小さな神社にお参りしたり、お土産店を眺めたりした。


 街を歩いていると舞妓さんとすれ違った。まさか本物が見れるとは思っていなかったので思わず俺と健人は振り返ってしまい、それぞれ桜花と夜宵にしばかれるという珍事件も起きたりした。







 一通りの研修が終わり時間になると俺たちはバスに乗りこみ京都らしい旅館風なホテルへと向かった。


 夕食に出た本格的な和食も美味しかったし、温泉も気持ちよかった。

 そして夜になると男子は十人ずつ二つの大部屋に布団を敷いて雑魚寝という、修学旅行ならではの光景にワクワクした。


「寝る前にゲームしようぜ!」


 教師の目を盗み携帯ゲーム機を持ってくる奴もいれば、大量のお菓子を広げる奴もいて部屋は大騒ぎだった。


「あーあー……。こりゃ流石のはまやんでも怒るぞ……」


「俺は抜け出すぜ〜」


「どこ行くんだ健人」


「どこって、こんなに綺麗な夜景なのに彼女と過ごさなくていいのか?」


「ああ、そういう……」


 こっちは東京と違って空気が澄んで星もよく見える。


 意気揚々と部屋を出ていった健人の後ろ姿を見送り、俺は急いで夜宵にメッセージを送る。

 送ってからこの時間は丁度女子の入浴時間だったと気付いたが、以外にもすぐに快諾の返信が来た。


 バルコニーのあるラウンジスペースに向かうと、似たような考えのカップルに混じって浴衣姿の夜宵がいた。

 彼女は風呂を上がったばかりなのか、髪は少し湿り肌に張り付き頬は僅かに紅潮している。


「ごめんね、急に呼び出して」


「ううん……、私も会いたかったから……」


「そ、そっか……」


 俺たちは何となく手を繋ぎ、何となくバルコニーのソファに座った。


「大丈夫? 寒くない?」


「ん……。涼しくて……気持ちいい……」


 ふう、と息をつく彼女の妖艶な横顔に、じっと見惚れてしまう。そよ風が運ぶ彼女の甘い匂いに蕩けてしまいそうになる。


 スマホを持ってこなかったことを後悔した。せめてこの瞬間を切り取って絵画にしたい。そうすればこの光景を永遠のものにできるのに。


「ん……?」


 彼女がふとこちらに顔を向けると俺は何故か顔を逸らしてしまい、見てもなかった夜空に視線を上げた。


「ああいや……。──月が、綺麗だね」


「ん……そうだね……」


 I love youを夏目漱石がこう訳したとか訳さなかったとか聞いたことがあるが、この言葉は今の俺たちにとってI love you以上の意味があった。


「また来たいな……」


「そうだね」


 今度は誰にも邪魔されずに、二人で来よう。柔らかく微笑む彼女の横顔に、俺はそう誓った。

お読みくださりありがとうございます!

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