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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第49話 学校祭(5)

いつもありがとうございます!

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 次の日、俺は重い腰で夜宵と共に学校へ向かった。


 本祭二日目。今日は執事カフェだから、今度は俺の番だ。


 控え室に行き、父さんから借りたパーティー用のスーツを身に纏う。

 こんな上等なものを着て行く場があるなんて、父さんはどんな任務をやっているのかなどと思いつつネクタイを締めた。


「どう?」


「いい感じ……。だけど髪の毛もやろ……」


 昨日のエプロン姿でコーヒーの用意をしていた夜宵は、腕を捲りどこからともなくヘアワックスを取り出した。

 彼女の用意の良さにはもう驚かない。


「岬くんも小澤くんみたいに前髪分けたらいいのに……。目元、好きだよ……。見せなよ……」


 彼女はベタベタとワックスを塗りたくり俺の前髪を後ろへ持っていく。


「これでも剣道の為に結構切ったんだけどね」


「これ以上切らなくていいから……分けて……」


「検討しておこう」


 俺の髪は彼女の手によりガチガチに固められ見事なオールバックが完成した。


「行ってらっしゃい……!」


「おう」


 入念な準備を終えた頃チャイムが鳴り、学校祭が始まった。


「いらっしゃいませ。お、お嬢様……」


「えー! 神楽くん似合うねー!」


「はは……。どうも……。メニューはこちらに」


 俺が女子と話す度に背中に鋭い視線が注がれるのが分かった。


「じゃあこのサンドイッチで」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 これはバイトとやることが大して変わらないな、などと思いつつ俺は淡々と仕事をこなす。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


「ねー、写真撮っていー?」


「はい、どうぞ」


 そんなにこの何の変哲もないサンドイッチが気に入ったのか?

 そう疑問に思っていたがそれは見当違いであった。


「はいピース!」


「えっ──」


 突然スマホを向けられ、俺は言われるがまま咄嗟にピースをしてしまった。


「ありがとー!」


「ああ、はい……」


 この時、俺はこの一枚の写真があのような事態を招くことになるとは思ってもいなかった……。








「いらっしゃいませ──って、はまやんか……」


「よおー、儲かってるかー」


「見ての通りですよ……」


 どこかの経路で例の写真を見た全学年全クラスの女子が執事カフェを見に押し寄せていた。

 桜花の狙い通りかどうかは知らないが、とてつもなく盛況だ。


「忙しすぎます。バイト代出してください」


「残念ながら売り上げは全部来年の予算行きだー。まー、売り上げ一位のクラスにはお菓子が貰えるからそれで我慢してくれー」


「はあ……。で、何にしますか」


「んー、アイスコーヒー、ブラックで頼もー」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください」


 ああ言いつつも忙しいのは別にどうでもいい。


「はい……」


「あ、ありがとう」


 むしろやたらとツーショットを求められるなどしている内に夜宵の機嫌が悪くなっている方がマズイ。品物を受け取りに行く度にどんどん彼女の頬が膨らんでいく。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


 そんなこともあり生きた心地はしなかったが、忙しい分時間が過ぎるのも早く感じるものだ。


 はまやんが帰る頃にはもう午前のシフトを終える時間となった。


「お疲れ様……」


「夜宵もお疲れ様。コーヒー、上手に淹れられるようになったね」


「ん……。いつも教えて貰ってるから……」


「そうだね。──今日は昨日行けなかったところ回ろうか」


「うん……」


 今日は他クラスの出し物を回ることにした。


 隣のクラスでは射的や輪投げなど、夏祭りで見るようなものをやっていた。

 また別のクラスでは俺たちのクラスと似たようなカフェをやっていたが、客をうちが持っていったからか閑古鳥が鳴いているようだった。


 三年のクラスは集大成ということもあり面白いものが多かった。

 特に二クラス合同でのお化け屋敷は列になるほど賑わっていた。俺たちも数分並び、薄暗い屋敷に足を踏み入れる。


「き、きゃあー……」


「ん?」


「こ、怖いなー……」


 ゾンビに扮した生徒が前を横切ると夜宵そう呟く。

 だが俺は知っている。夜─YORU─さんは案件でやるホラゲーも声一つ出さずにクリアするような人だし、ゾンビゲーも怖がるどころかRTAに挑戦するぐらい余裕だ。


 だから、彼女の言わんとすることはすぐに分かった。


「お嬢様、お手を」


「ん……」


 俺は彼女の手を取り、エスコートしながらお化け屋敷をサクサクと歩いた。


 お化け屋敷を出てからも手は握ったまま、彼女が行きたいと言ったところに付き従い、欲しいと言ったものを与え、一日彼女の執事として務めた。


 昨日彼女の気分が上がっていたのも分かるぐらい、俺も執事としてのロールプレイを楽しんだ。

 だが楽しい時間は過ぎるのも早い。


 やがて日は暮れ、本祭の終わりを告げるチャイムが鳴る。


『間もなく、後夜祭が始まります。生徒の皆さんは、グラウンドへ、移動してください』


「行きましょうか、お嬢様」


「ええ……」


 グラウンドのステージはライトに照らされ、そこで軽音部がライブをやっていた。

 街中で何百回と聞いたような陳腐なラブソングですら横にいる夜宵がいるだけで、その全てが自分たちのことを指しているような小っ恥ずかしい気分になった。


 最後の楽曲に拍手が鳴り響く。それに合わせ、特大の花火が一つ空に打ち上がった。「わあ!」という生徒たちの声に合わせるかのように、俺の腕に抱きつく夜宵の手にぐっと力が籠るのが伝わる。


 花火が散るとグラウンド皆が息を飲むような静寂さに包まれ、軽音部がはけた物寂しいステージに数名の生徒が登壇する。

 そして三日間を総括するような実行委員の挨拶で学校祭が終わった。


 楽しい学校祭も、終わりは呆気ないものだ。


「帰ろうか、夜宵」


「…………」


「──帰りましょう、お嬢様」


「ええ……」


 彼女は家に着くまでずっとこんな調子だった。

 いや、その日の夜もずっとこの調子だったのだが、それは例え健人にも話せるような内容ではない。


 次の日、学校祭の後片付けに赴いた俺は腰を痛めており、全く使い物にならず桜花にドヤされる羽目になったというのはまた別のお話だ。






かくして、俺の青春の一ページは幕を下ろした。

お読みくださりありがとうございます!

完結まで毎日投稿実施中!

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