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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第46話 学校祭(2)

いつもありがとうございます!

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「衣装はこれがいいんじゃない?」

「予算オーバーだよ。こっちのシンプルなのを買って自分たちで裁縫した方が良さそう」


「なあこれ、スーツって父ちゃんの借りればいいのか?」

「でも執事ってこの()()()服ってやつっしょ?」


 準備が進めば次第に学校祭の実感が湧いてくるものだ。クラスの中には揚々とした空気が満ちていた。


「そーいえば、神楽くんってカフェでバイトしてたよね?」


「ああ、うん」


 いつだか連絡先を交換したきりだった女子が話しかけに来た。


「てことは軽食とか作れるよね」


「まあ、そうだね」


 まずい流れだ。俺の脳裏には延々と調理室に幽閉される姿が手に取るように浮かぶ。


「良かった! それならこの映そうなトロトロのオムライスとかパフェ作って欲しいんだけど……」


 コイツらは材料費や手間のことを分かって言っているのか?

 いや、素人にはそれも分からないのだろう。時に無知は罪だ。


「ん……、もっと簡単なものがいいんじゃないかな……」


「え、城崎さん?」


 普段は絶対に俺たち以外とは話さない夜宵が割って入ってきた。


「メインは……執事とメイドだから……。料理は……材料にお金かけるより……衣装に使った方が……みんな喜ぶと思う……」


「…………」


 親しくもない人間に意見するというのは相当にメンタルを削られる行為だ。

 それに加え彼女にとっては信じられないほどの勇気を振り絞った行動だっただろう。


 その思いが伝わったのか、女子も食い下がることはなかった。


「それもそうだね! じゃあ何がいいかな!」


「まあコーヒーと紅茶淹れるのは教室でもできるしいいよね。あとどうしても軽食も出したいなら調理が要らないサンドイッチならいいんじゃないかな」


「いいかも! それでこっちで話してみるねー!」


「うん。じゃあよろしく」


 女子は後ろ手に手を振って元いた集団へ戻っていった。


「ありがとう夜宵。助けてくれて」


「ううん……。岬くんが忙しくなったら一緒に回れないから……」


 そう言って彼女は俺の袖を引く。


「……うん。そうだね」


 誰かのために何かをやる。それは素晴らしく尊いことだろう。

 だが誰かの自己犠牲で成り立つ幸せなんて簡単に崩れ去る幻想に過ぎない。


「作業に戻ろ……」


「うん」


 俺が看板の下絵を描き、夜宵が色を塗る。

 なんでもないこの単純作業を一緒にやるだけで、俺たちは十分に幸せだった。


「コーヒーは八百円でいけるわ。サンドイッチはその二倍でね!」


「斉藤さん……。それちょっとぼったくりじゃないかな……?」


「そんなことないわよ。その分のサービスを提供するんだからいいの!」


「はは……。桜花も中々強気なことやってるな……」


 多少の衝突も含めての学校祭だ。そうした中での学びがあるから学校で授業としてやっているのだ。

 なんて考えながら作業をしている俺は、無駄に達観し過ぎていてつまらない人間なのだろう。


「でも……プロが淹れるなら……そのぐらいでもいいんじゃない……?」


「プロって……。確かにカフェではあの価格帯だけど、それは店長の腕前と信頼があってのことだから」


「岬くんのご飯もコーヒーも美味しいのに……」


「ちょ──」


 夜宵は最近人前でこういう話をするようになった。誰かに聞かれたら変な噂になりかねない。

 だが彼女はそんな慌てる俺を見てクスクス笑う、見た目に似合わず悪戯な女の子だ。


「いつもありがとう」


「う、うん……」


 面と向かってそんなことを言われると危ういことを口走る彼女を咎めることはできない。そこまで分かってやっているズルい女ってやつだ。


「よっす〜、クラスの方はどんな進捗だ〜?」


 バスケ部の方をやってきたであろう健人は頬にペンキを付けてやってきた。


「よお健人、そっち手伝ってくれ。看板の装飾だ。俺はセンスの求められる仕事は苦手なんだ」


「いいぜ〜。こういうのは得意だからな〜」


 健人が来ると桜花もこっちに来る。


「ほらそこは赤にして目立つようにしなさいよ」


「俺の好きにさせてくれよ〜」


「ダメよ。私は責任者(リーダー)なんだから」


 自分の意見をハッキリ言える桜花はリーダーに向いている方だろう。人の意見に耳を傾けないのは悪いところだが。


「岬くん……」


「ん?」


「それとって……」


 大きな看板の上に手を乗せ四つん這いになる夜宵。制服の隙間から見えた胸元のホクロに、俺はふと目を逸らす。


 そんなこと恋人の俺たちにとっては今更ではあるが、だがそれはそれ、これはこれである。

 学校で制服姿の彼女も、配信画面で見る夜─YORU─さんとしての彼女も、デートの時に見る彼女も、その全てが不可分のイコールで結ばれるのと同時に全くの別物にも思える。

 どれも良いし、どれも好きだ。


「どうしたの……?」


「あ、ああいや……。はい」


「ん……ありがと……」


 柔らかい笑みを浮かべる彼女もまた特別な可愛さを誇っている。


 ……この支離滅裂なのろけも、学校祭を前にして俺も浮かれているからなのだろう、などと思った。

お読みくださりありがとうございます!

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