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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第39話 それぞれの舞台(1)

いつもありがとうございます!

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 夏休みが明けてから、夜宵は夜─YORU─さんとしての活動を徐々に増やしていった。

 と言うのも、九月の中旬にある大会に彼女が出場することになったのだ。


 そのため彼女はまた毎日忙しそうにパソコンと向かい合っている。彼女も、個人勢は全部一人でやらないといけなくて大変だが、だからこそ自由にできて楽しいと頑張っている。

 デートに行ったりはあまりできないが、それよりも夜─YORU─さんの活躍を一番近くで見守れるのは何よりの幸せだった。


「──おはよう夜宵」


「ん……おは──ふぁぁ……」


 学校では朝からずっとこんな様子だが、ご飯はちゃんと食べていると毎朝写真が送られてくる。それを楽しみに待つのも、夜─YORU─さんの配信に加えていつしか俺の日課となっていた。


「よっす岬ぃ〜! おは〜」


「おはよう健人」


 部活を辞めてからはバスケ部の連中と話すことも減ったが、健人はこうして変わらず話し掛けに来てくれる。


「――おはよう桜花」


「おはよう岬。ネクタイが十度ぐらい傾いている以外は完璧ね」


「はは……」


 桜花も桜花で相変わらずだ。ただし、明確に一つ変わったことがある。

 それは彼女に頭が上がらなくなってしまった事だ。


 俺と夜宵が付き合えたのはひとえに彼女の力添えに依る所が大きい。背中を押してくれたのも、絶好のチャンスを提供してくれたのも全て桜花だ。

 そのため俺は自分から挨拶をしに行くなどの小さなご機嫌取りを欠かさずにしているのであった。


「──よーしお前ら席に着けー。朝の連絡始めるぞー」






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






「──よーし、それじゃあ気をつけて帰れよー」


「じゃあまた明日」


「ん……岬くん、今日オフだったよね……?」


「ああ、うん」


 怪我の具合も良くなってきたので俺は剣道もバイトも増やしていった。

 だがまだ無理は良くないという父さんの言葉と、剣道の師範から休息はしっかりとるようにという指導により、剣道もバイトもないオフの日を設けることにしたのだ。

 そんな休みの日は夜─YORU─さんの配信を見て過ごす。


「確認しただけ……。じゃあね……」


「え、あ、うん。じゃあ……」


 それなりに一緒にいるはずだが、まだ時々彼女の考えていることが分からないことがある。







「ただいまー」


 誰もいない家にそう告げ、俺はベッドの上に身を投げ出した。

 そしてスマホを取り出し配信アプリを開く。

 夜─YORU─さんは既に配信を始めていた。タイトルには「大会に向け練習」とある。


 彼女がプレイしているのはOPEX(オーぺックス)サージェンター。通称オーぺックス、または略してオペ。

 異世界に集められた外科医たちが戦うバトルロイヤルゲームだ。


『んー……。今日はちょっと調子が悪いですね……。ちょっと離席します……』



 夜─YORU─さんはやけにハッキリそう呟いた。だが長年ファンをやっている俺の目には調子が悪いようには見えなかった。

 配信画面が待機画面に切り替わる。何かあったのかと不安に思っていると、スマホに一通の通知が届いた。アイコンは夜宵だった。


『パソコン付けて』


 バックグラウンドで配信画面を開いたまま「え?」ととりあえず返し、俺は夜宵からのメッセージに従い俺はパソコンを起動する。


「つけたよ」


『OPEX開いて』

『やってるよね?』


 俺も立派なファンだ。夜─YORU─さんとマッチする可能性を考えて少しだけやっていたこともあった。そんな話をいつだか彼女にもしたっけ。

 言われるがままにOPEXを開くと、さっきまでの夜─YORU─とは比べ物にならない程低いランクのデータが立ち上がった。


「開いたけど……」


『ZU2K9J』


「え? 何それ?」


 俺からのメッセージに返信が無いまま、今度は夜─YORU─さんの配信画面が動き始めた。


『ん……、お待たせしました……。今日は気分を変えてカジュアルで参加型やっていこうと思います……』


「え……!?」


『今からコード出すので早い者勝ちで……』


 そう言って夜─YORU─さんはカチャカチャとルームを開いた。

 俺は反射的にコードを入力しルームを検索する。


「あった……」


 そこには確かに夜─YORU─さんのアカウントが作成したプライベートルームがあった。


『それじゃあコードを公開します……』


 配信画面にコードが表示された瞬間、俺はEnterキーを押した。

 当然事前にコードを知り他の人よりもずっと早くルームを見つけていた俺は一番にルームに入れた。


 モニターには俺と夜─YORU─さん、そしてもう一人知らない人のキャラが並んでいる。

 配信のコメント欄では「入れなかったァァァ!」「みんな早すぎw」「てかゴットファンさんじゃんwさすが古参w」などと騒がれていた。


 普段の夜宵からは想像も付かないが、彼女はこういう危ない遊びが大好きだ。例の事件もあって冷や冷やしている俺とは裏腹に、彼女は今もカメラに映っていない所で満面の笑みを浮かべているのだろう。


『ふふ……。それじゃあ始めます……』


 裏で一緒にやるよりはこうして大っぴらにやる方が良いでしょ? という彼女の策略もあるのだろう。

 その日、夜─YORU─さんは終始満足気な声色でゆったりカジュアルマッチを遊んで配信を終えた。

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