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第3話 秘密(1)

「よっす岬! おは〜!」


「おはよう健人」


 教室に入ると黒板の辺りで健人が他のクラスメイトと話していた。


「か〜今日からまた部活始まんのか〜!」


「新入生の体験入部とかあるからしばらくは軽くだろ?」


「ま〜そ〜だけどよ〜」


 昨日渡された予定表では今日の練習は二時間だった。




「おはよう健人、岬!」


「おはよ〜」


「おはよう桜花」


 桜花は今日も縦巻きパーマをバッチリキメていた。この長さで毎朝アイロンするのに何時間かかっているのだろうと時々疑問に思う。


「アンタたちは自己紹介、ちゃんと考えてるの?」


「ま〜適当にだな〜」


「俺も適当だな。別に友達はバスケ部のも一年からの知り合いもいるし」


「はぁ……。アンタたちいつもそんな感じよね。──特に岬! もうちょっと髪型とか頑張ればすぐに彼女の一つや二つできそうなもんよ」


 桜花は腕を組んで軽くふんぞり返りながらそう言う。


「そうだぞ〜岬ぃ〜。昨日の女子たちなんてどうだ〜?」


「いや俺は別に彼女とかは……」


「アンタが身を固めてくれたら私ももっと健人といられるんだけど」


「はいはい……」


 桜花の強めな独占欲の矛先が俺に向いたところで、俺はその場を離脱して席に着いた。




 今日はなんと城崎さんが既に登校している。しかし今は突っ伏して完全に熟睡モードであり、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。


 彼女の寝顔を横目で盗み見るのはなんだか罪悪感が強かったが、健人の言う通り彼女はその目元だけで美人と分かるほどの美少女で、思わず見とれてしまう。

 俺はそんな悪事を誰かに悟られないようスマホで昨日の夜─YORU─さんの配信を見返すなどして誤魔化した。




「よーしお前ら席に着けー。朝の連絡始めるぞー」


 チャイムと共に入ってくるはまやん。その音で城崎さんも起きたようだ。


「──っと、今日はこんな感じでいくぞー。じゃあこのまま一時間目、まずは自己紹介だー。お前ら考えてきたよな? まあ名前と一言ずつ言ったり言わなかったりしてけー。右前からいくぞー。ファーストバッター吉田!」


 はまやんの適当ぶりは席順にも現れている。普通、席順は右前の席から出席番号だろうが、うちのクラスの場合は吉田だった。

 まあその適当な並びのおかげで俺と健人、桜花が横並びになるという奇跡が起きた訳だが。……それに色々と気になる城崎さんも。


「皆さんちわっす!! 自分は吉田政直(よしだまさなお)、野球部で一番やってます!」


「はははー。先生はな、これがやりたかったんだー!」


 思わずずっこけそうになったが、ここだけ適当ではなく意図的に仕込んでいたらしい。これがはまやんの愛される所以でもあるが。


「よしじゃー次、佐藤ー──」




 野球部の吉田以降は本当に適当なようでサクサクと進んでいった。


「次、斎藤ー」


「はいっ。私は斎藤桜花。部活はしてない。彼氏はコイツだから男子諸君は無駄な努力をしないように。以上、以後よろしく」


「はははー、斎藤は面白いなー。じゃー次、その小澤にやってもらおうかー」


「え、あ、うっす! 俺は小澤健人、バスケ部で〜す。あの、こう見えても悪いヤツではないんで、皆さん桜花とも仲良くしてやってください! これからおなしゃす!」


 ここで一言添えられるのが健人のいいところだ。当の桜花は顔を真っ赤にして震えているが。


「はははー、斎藤はいい彼氏を持ったなー。じゃー次──」




 それから少しして俺の番が回ってきた。


「じゃー次、神楽ー」


「はい。……神楽岬です。部活はバスケ部で、駅前の喫茶店でバイトしてます。良ければ来てください。これから一年よろしくお願いします」


 自己紹介は無難に行くのが一番だ。ここで一か八かの大勝負をするのは残り一年、あるいは残りの高校生活全てを吹き飛ばす悪手だ。

 まあ二つ隣の席に盛大にカマした女性がいらっしゃる訳だが……。


「神楽はアルバイターの鑑だなー。じゃー次──」




 そしていよいよ彼女の番が来た。


「じゃーラストだな。城崎ー」


「…………」


 城崎さんは無言ですっと立ち上がる。


「ん……。城崎夜宵(きさきやよい)……。よろしくお願いします……」


「え……この声って……」


 きっと俺だけしか聞こえなかった可愛い小さな咳払い。眠そうな彼女によく似合った夜宵という名前。

 そんなものを吹き飛ばすほどの衝撃が俺の中に走った。

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