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第2話 新学期(2)

「よーし、始業式の次は適当にプリント配るぞー。大切なのもあるから無くすなよー」


 新学期初日というのはドキドキワクワクが詰まっているように感じるが、いざ始まってみればやることは大してない。


「今日やらないといけないのはこんなもんだなー。明日は自己紹介とか委員決めとかやるから考えとけー。じゃーこれにて解散! きりーつ、さよーならー」


 本当は他のクラスなんかは先生から話がされるところだが、はまやんにそんな常識は通用しない。

 そして生徒たちもそんなものは特に望んでいないので、教室はガヤガヤ友達と話す人、すぐに帰る人と十人十色だ。





「よし行くか健人──」


「だから〜すぐ終わるから待っててって!」


「何時から何時よ!」


「ん〜、十時から十一時だったかな〜」


「まだ結構あるじゃない」


 右の方では健人たちが何やらお取り込み中のようだった。


 部活の集まりも急ぐほどじゃない。俺はせっかくなので何人か新たなクラスメイトに話しかけてみようと思った。

 となると真っ先に浮かぶのが、この謎の美少女である。彼女は“氷の眠り姫”の二つ名に違わず、こんなうるさい教室の中でも片肘をついてぐっすりおやすみのご様子だ。


 起こすのも悪い気がしたが、挨拶のついでにもう全ての授業が終わったことを教えようと思ったその時だった。


「ねえ君──」


「神楽くん!」


「え?」


「ねーねー神楽くんクラスのグループまだ入ってないよね? 連絡先交換しよー」


「あ、おっけー。ありがと」


「私も貰っていい?」


「あーうん、大丈夫だよ」


 別にグループは後からバスケ部の奴に入れてもらえば良いやぐらいに考えていたのだが、結局俺の元にやって来た女子二人と連絡先を交換して追加してもらった。


「ありがとう神楽くん! また明日ね!」


「じゃあねー」


 俺はさっそく送られてきたスタンプに対して適当なスタンプで返し、スマホをしまう。




「──で城崎さん! ……って、あれ?」


「もう帰っちまったぜ」


「え……」


「お前が別の女にうつつを抜かしてるから〜」


「それはいつものアンタでしょ」


「痛い痛い!」


 俺の左にはポツンと取り残された空席だけがあった。


「んで岬、まだ集まりまで時間あるから近くのファミレスで時間潰そうぜ〜。春休みの間とか積もる話もあるだろ〜?」

「そうするか」






 それから俺たちは時間までファミレスで駄べり、顔合わせ適度の部活の集まりを終え解散となった。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






「ただいまー」


 家に帰ると誰も居なかった。スマホを確認すると父さんからは「遅くなる」とだけメッセージが来ている。




 俺はシャワーを浴び適当に昼食を済ませてベッドに身を投げ出した。たまにはこうして平日の昼間からゴロゴロするのも悪くない。

 そして何となくスマホの画面を見る。するとそこには「夜─YORU─」さんが配信を開始した旨の通知が来ていた。


「珍しいなこんな時間から」


 年に数回あるこういう突発的な配信は、夜─YORU─さんは大抵無言である。

 それでもそのプレイスキルと華麗な手さばきだけで、平日の昼間なのに同接は2000を超えていた。


「おはようございます! 今日は珍しい時間から始めてますね……っと」


 ただでさえコメントを読み上げない夜─YORU─さんが、無言配信で俺のコメントを読んでくれるとは思ってもいなかった。だがこの時は違った。


『あ……うん。今日は時間あったから……』


「え……! 今の俺のコメントに対してだよな!?」


 俺は思わずコメント欄をスクロールしまくる。しかしそこにあった俺以外のコメントは「そこ右だよ!」「リロードしないの?」などと、愚かにも夜─YORU─さんにアドバイスをする指示厨ばかりだった。


「夜─YORU─さんが俺のコメントを……」


 夜─YORU─さんの配信を見始めて二年ぐらい、コメントをし始めて約一年。彼女が俺のコメントを読んでくれたのはこれが二度目だった。


「へへへ……」


 変な笑い声が漏れてしまうほど嬉しかった。

 一日中独りで過ごすとつい嫌なことを考えてしまうため夜が少し憂鬱だったが、そんなもやもやも全て吹き飛ぶような出来事だった。





 その日は結局それから八時間も続く配信を見ているうちに、いつの間にか寝落ちしていた。

お読みくださりありがとうございます!

完結まで毎日投稿実施中!

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