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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第18話 プレゼント(2)

いつもありがとうございます!

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 今日一日、彼女と出掛けて分かった。やはり俺と彼女では住む世界が違う。

 彼女は手を伸ばせば世界にも手が届くような有名プロゲーマー。若くして年収四桁万円の天才プロゲーマー。どこにでもいるような男子高校生の俺なんて、彼女の横を歩いていい人間ではないのだ。


「そ、そうだ! あっちの店見てみようよ!」


「うん……」


 俺は夜宵さんを連れて雑貨屋に入った。ここならまだ、俺でもなんとかなりそうな値段設定だ。


「何か気に入ったものはある? ……このハンカチとかどう?」


「ん……、 岬くんが選んでくれたものなら……なんでも嬉しい……」


 彼女は気を遣ってそう言う。しかしそれはかえって俺を苦しめた。


「で、でもあれか! 夜宵さんはあんまり出掛けないから、別のがいいね!」


「ん……そう……?」


 彼女は酷く困惑していた。俺のぶっきらぼうな態度におろおろしている。

 俺はこの時、最低な考えが頭に浮かんだ。どうせならこのまま彼女を困らせてやろうと思った。




「これはどう?」


「ん……これは……」


 俺が手に取ったのは指輪だ。


 プロゲーマーである彼女にとっての商売道具であり、夜─YORU─さんが唯一配信で見せる彼女の手に、指輪をつけさせる。それはささやかな俺の独占欲の現れだった。

 指輪をつけた跡なんかが配信に映れば大騒ぎになるだろう。




「ん……どの指がいいかな……?」


「え……」


 一瞬の逡巡はあったものの、彼女は俺の選んだ指輪を嬉しそうに受け取った。


「……右手の薬指で」


「ん……」


 ひねくれた今の俺でも、流石に左手の薬指を選ぶことはできなかった。


「ぴったりだ……。これがいいな……」


「じ、じゃあこれ買ってくるね……」


「うん……」


 俺は彼女の体温が残った指輪を受け取りレジに持っていく。

 たいしたデザイン性もない三千円の指輪は、全てが完璧な彼女には相応しくないだろう。俺の限界が現れたその指輪は、俺にとって敗北の象徴にすら思えた。


「はいこれ」


 会計を済ませた俺は彼女に指輪を渡す。


「ん……。も、もしよかったら……岬くんにつけて欲しい……」


「え……」


 その意外な要望に俺は驚いた。しかしいいものはプレゼントできなくとも、誕生日の少女の小さな願いぐらいは叶えてあげたかった。


「手、出して……」


「ん……」




 俺はいつも画面越しに、そして隣の席から見ている彼女の細く白い、小さな手にそっと触れ、買った指輪をはめた。


「誕生日、おめでとう」


「ん……、ありがと……。嬉しい……」


 そう言って笑う夜宵さんは俺の意地悪など気づいてもいないようで、至って純真無垢そのものだった。


「さ、さあ! もう帰ろうか! プレゼントも買えたし、この後配信の準備もあるだろうし!」


「……う、うん」


 彼女はその右手で俺の安物の服の裾を掴んだが、すぐに離して歩き始めた。






 帰りの電車、俺たちはずっと無言だった。

 ただ俺の隣で心底嬉しそうに指輪を眺めて指でそっとなぞる彼女の姿に、俺の心が酷く痛んだ。


「私……この駅だ……」


「うん。じゃあね」


「今日は本当にありがと……。お礼のはずが逆にプレゼントまで……」


「うん。誕生日おめでとう」


「じゃあ、また……」


「うん」


 結局俺は最後まで素っ気ないまま、彼女と別れてしまった。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 家に帰りシャワーを浴びるなどして冷静になってから、俺は先程までの醜態を酷く恥じた。そしてこれから始まるであろう夜─YORU─さんの配信に影響が出ないか不安になってきた。

 夜─YORU─さんクラスとなると厄介なファンも増え、細かい変化まで妙に勘ぐりして掲示板に変な書き込みをするものだ。


 ……今回ばかりは言い訳のしようがないぐらい俺の落ち度なのだが。




 俺は後味の悪い、最悪な気分でスマホの電源をつける。

 すると、なんとそこには「城崎 夜宵さんから1件のメッセージが届いています。」との通知があった。


 様々な考えが頭をよぎり、ドキドキしながらその内容を確認する。しかしそれはそんな心配とは裏腹に「今日の配信絶対みて!」という単純なものだった。

 俺がそれに「分かった」と返すと、すぐに既読が付き、夜─YORU─さんの配信が始まった。




『──ん……。あーあー……、皆さんこんばんわ……。突然の配信ごめんなさい……』


「えっ……」


 画面に映る彼女の右手薬指には、俺がはめてあげたままの指輪があった。


『体調不良で大会は辞退となりました……。応援してくださってたファンの方々には申し訳ありません……』


 俺は急いで「そんなことないです! 体調第一で夜さんなりのペースで頑張ってください!」とコメントを打つ。

 他のコメントも、こんな日は「おかえりなさい!」だとか「誕生日おめでとうございます!」といったものばかりだった。




『ちょっとごめんなさい……』


 夜─YORU─さんは一瞬配信を落とした。

 そして配信サイトを開いている俺のスマホ画面の上にメッセージアプリからの通知が表示される。「城崎 夜宵:みてる!?」それはあの指輪が彼女のうっかりなどではなく、俺に見せるためにあえてやっていることだと分かった。


「見てるよ! まずいよ流石に!」


「大丈夫大丈夫。逆に変に跡ついてるほうが怪しいから」


 俺の胸は信じられないほど高鳴っている。

 それは俺が思い描いた通りの独占欲を果たせたからか、それとも彼女に対する罪悪感からか。




『……ごめんなさいお待たせしました。……これからもこうやって突然配信を中断したり、配信自体が不定期になると思いますが……どうかよろしくお願いします』


 その日の夜、またろくに眠れなかったのは言うまでもない。


お読みくださりありがとうございます!

完結まで毎日投稿実施中!

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