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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第13話 危惧(3)

いつもありがとうございます!

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 俺は玄関の扉を完全に開ききり、さっき買った飲み物で固定する。


「悪い夜宵さん……」


 俺は靴のまま部屋に上がった。

 それもこれも父さんの教えだ。万が一の時すぐに逃げられるように備える。床の汚れなんて後で拭けばいい。




 俺は耳を澄ます。

 だが聞こえてきたのは苦しそうな呼吸音がひとつだけだった。


 玄関の物陰からそろりと部屋内を覗くと、そこにあったのは廊下の真ん中で横たわる夜宵さんの姿であった。


「──夜宵ッ!!! 大丈夫か夜宵! しっかりしろ!」


「ん……、岬くん……」


 俺は咄嗟に彼女の手を取る。その手は驚くほど熱く、俺の手を握り返す力も弱々しい。顔も真っ赤で肌にパジャマが張り付くほど汗をかいていた。


「酷い熱だ! 汗も凄い……。これは軽度な脱水もあるな……」


 俺は彼女をお姫様抱っこで持ち上げ、寝室まで運びベッドの上に寝かしつける。


「ちょっと待ってろ!」




 俺は走って玄関まで引き返し、ドアストッパーとして置いてきた飲み物を取って今度はちゃんと靴を脱いで部屋に戻る。


「とりあえずこれを飲め。一口でいい。……だけどここまで酷いとスポドリじゃ駄目だな。後で経口補水液買ってくる」


「ごめ……」


 俺は彼女の口元にキャップを開けたスポドリを傾けた当てたが、内容物はとくとくと彼女の口からこぼれ落ちていくだけだった。




「すまんが色々漁るぞ!」


 前に来た時からさほどものの位置は変わっていない。ならば一緒に片付けた俺には多少の土地勘のようなものはある。


「……あった、体温計。熱を計るんだ。俺は冷凍庫をみるぞ?」


 俺の記憶通り冷凍庫には保冷剤が六つあった。


「で熱はどうだ? ……38.7か。──夜宵、本当にごめん。後から煮るなり焼くなり殴るなり、好きにしてくれて構わない。パジャマの上、脱がすぞ」


「…………」


 彼女は恥ずかしがる余裕すらないまでに憔悴しきっている。




 俺は手早くパジャマのボタンを外す。たちまち彼女の白い肌と胸元のほくろ、薄ピンクの下着があらわになった。


「くっ……ごめん……!」


 俺はその光景からなるべく目を逸らし、タオルで彼女の上半身を軽く拭いた。そしてすぐに別のパジャマを着せる。




「保冷剤だ。首、脇、足の付け根にこれを置く」


 俺は冷凍庫から取り出した保冷剤にハンカチを巻き、それらの場所に置いた。


「今すぐにできるのはこのぐらいか……。色々買ってきたいが、近くのドラッグストアまでは走っても往復で三十分以上かかる……」


「はぁ……はぁ……」


「これは最悪救急車か──」


「それは……ダメッ……!」


 弱々しく彼女は俺の袖を掴んだ。


「大事に……しないで……。そんなことしたら……もうゲーム……やっていけなくなる……!」


「く……」


 ここでも迫られた究極の選択。夜─YORU─さんとしての活動を優先するか、城崎夜宵という一人の少女と向き合うべきか。

 倒れる直前までやっていたのであろうゲーム音がなるリビング兼配信部屋の方へ行き、パソコンをシャットダウンして考える。




 彼女が身を削り本気でゲームをやっているのは知っている。その実力がもうすぐ世界に届きそうだということも。

 それまでの過程に両親との衝突があったことも、全部知っている。


 だからこそ、俺は簡単に答えを出すことができなかった。


「……分かった。少し体温が下がったのか今のところ喋れているし救急車は呼ばない」


「……ありが──」


「だけどはまやんには今から電話する」


「え……」


 この現状、大人の力なしで乗り切るのは難しい。俺だって父さんから緊急時の知識は多少教え込まれているが完璧ではない。


 はまやんならきっと大丈夫だ。事情は知っているらしいし、あの人ならきっと上手いことやってくれる。


「それと、桜花にも声を掛けようと思う。斎藤桜花、分かるか?」


「うん……。でも……なんで……?」


「君の汗を拭いたり着替えを手伝ったりなんかは俺やあのおっさんは嫌だろ? 俺が気軽に声掛けられる女子は桜花ぐらいしかいないんだ」


「でもあの人……」


 まあ彼女の言わんとしていることは分かる。


「悪いやつじゃない、……とも言いきれないのが問題だが、桜花はこんな時にまでふざける人間じゃない」


「……分かった」







 それから夜宵さんの看病をしながら二十分ほど待つと、はまやんがやってきた。


「よお神楽、面倒事増やしやがってよ」


「すみません……」


「冗談だ冗談! 城崎に万が一のことがあった方が大変だ。今までの適切な処置、ここで俺に連絡する判断ができたのはお前だからだ。ありがとな」


 はまやんはどっさり買ってきた医薬品などを机の上に広げながらそう言った。




 はまやん到着から十分後、桜花も来てくれた。


「ふん! 私を召使いのように呼んで偉く図々しいわねぇ?」


「頼む桜花、今だけは力を貸してくれ」


「そのいつもはしてないみたいな言い方はやめなさい」


 着くなり桜花は俺とはまやんを追い出し彼女を着替えさせるなど文句も言わずやってくれた。




 こうした看病の甲斐あってか、彼女は少し動ける程度には回復した。気がつけばもう俺が来てから一時間半も経っていた。




「お前らは遅くなる前にもう帰れ。俺はこの後まだ開いてる病院に城崎を連れていく」


「なんか心配ね。本当に任せて大丈夫?」


「おい斎藤、残業代も出ないのにこんなにやってやってるんだぞ。……まあ後は大人に任せろ。これでも一応教師なんでな」


 いつもは頼りないはまやんが少しだけカッコよく見えた。

 俺と桜花はそんなはまやんの車で病院へ向かう夜宵さんを見送り解散となった。

お読みくださりありがとうございます!

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