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隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ  作者: 駄作ハル


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第10話 信頼(3)

いつもありがとうございます!

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「まあ話すと長くからかなり端折って話すが……、二年前、俺の母さんは交通事故で死んだ。俺の剣道二段昇段試験の帰りだった」


「え……」


「ああ、剣道はもうやめちやったけど、警察官の父さんの影響でね。父さんは昔から警察で忙しく働いている。だから今は俺が家で料理をしているってことさ」


 高校では全く関係ないバスケを始めたのは、剣道を続けると当時のトラウマが蘇るからでもあり、崩壊した父親との関係が強調される気がして続ける気持ちも起きなくなったからだ。




 俺は切ったベーコンを油を引き温めたフライパンに投入して火にかける。

 やたらと饒舌になっているのは料理をしているからだけではない。彼女が夜─YORU─その人であるからだ。


「二年前ってことは……」


「そうだね。ちょうど君が活動を始めた時期だ。あの時俺は、俺たち家族は終わっていた。ある日突然、いつもそこにいたはずの家族がふっといなくなった。ぽっかりと空いた胸の傷は埋まることはなかった」




 ベーコンにある程度火が通ったところで野菜を混ぜ合わせる。そして調味料に塩と胡椒を加えて全体にもう一度軽く火を通す。


「そんな時見つけたのが君の配信だった。口下手な夜─YORU─さんだけど、あの時はそれが良かった。誰かからかけられる同情の言葉が、一番辛かったから。ただ黙って自分のプレーを見せてくれる君の配信は、確かに俺を救ってくれた。勝手に救われていた」


「…………」


「まあ、声が可愛かったからとか、このPC周りの雰囲気が好きだったとか、そんな単純なことだったかもしれないけどね」


 そうだ。俺がここまで全てを打ち明けられるのは、辛い二年を一緒に過ごした夜─YORU─さんだからだ。




 俺は完成した野菜炒めを大皿に盛り付ける。


「……ってごめん。重い話だよね。それに君からしたらただの画面に表示されて流れていく文字。そんな想いを勝手に託されて、聞きたくなかったよね」


 俺は予めレンジにかけておいたパックご飯を茶碗によそう。そして完成した質素な料理を床に置かれたローテーブルに並べた。


「──さ、食べよう。って言っても、全部君の食材なんだけどね」


「うん……」


 城崎さんは黙って料理に箸を伸ばす。俺に何も言わないのは、先に言葉をかけられないように俺が釘を刺したからだ。

 だが、先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。




「……今から話すのは……神楽くんの話とは関係ない……個人的な話……」


「……うん」


 人目を気にすることなく夜─YORU─さんが自分の話をできるのは家だけだ。家の中の彼女はほんの少しだけ饒舌だった。




「あれはそう……、二年前よりちょっと後……。私が小さな大会で入賞してスポンサーが付いた頃。あの時は私の所属するチームの運営も、私を売り出したい時期だった」


 そこまで彼女が言って、俺は何となくどの事件か察した。


「プロゲーマーの“仏陀”さんと“スナイパーペンギン”、通称“砂ペン”さんとのコラボだね」


「……! ……覚えていてくれたんだ。……うん、そう」


「あの配信は荒れたよなー」


 仏陀さんも砂ペンさんも当時から大物プロゲーマー、ストリーマーとして活躍していた。そんなところに突如現れた夜─YORU─さん。それも正体不明の、まだ大した実績もない女子プロゲーマーだ。

 大物二人のリスナーたちの夜─YORU─さんへの心象は芳しいものではなかった。


 運営のゴリ押しだとか、売れたい夜─YORU─さんの枕営業だとか、根も葉もない噂が囁かれた。

 そうした雰囲気はコメント欄にも現れる。鳩や荒らしは数え切れないほどだったと記憶している。夜─YORU─さんがミスをする度に「やっぱ女はゲームが下手w」「これでプロ?」「早く辞めろwww」と心ないコメントが埋めつくした。


 それからだろう。デビュー当時は拙いながらも比較的コメントに返答していた夜─YORU─さんが、一切コメントを読まなくなったのは。




「でもそんな中、ずっと応援のコメントを送り続けてくれていた人がいたの……。その人がいたから、今も私は活動できてる」


「……そっか。俺は君に救われて、君は知らない誰かに救われたんだね」


 俺は一心不乱に野菜炒めでご飯をかき込む。慣れない場所で作る料理は、少し、しょっぱかった。






俺たちは食べ終わった料理を片付け、俺が手土産に持ってきたお菓子をつまみながら他愛のない話をした。

 配信の話。部活やバイトの話。ゲームの話。勉強の話。一人暮らしの話。友達との話。


 気がついた時には夕暮れ時になっていた。


「……そろそろ行こうかな」


「……ん」


「今日はありがとう。色々話ができてよかった」


「こちらこそ、ありがとう……」


「それじゃ──」


 俺が彼女の部屋を後にしようとした時、彼女は俺の袖を掴んだ。


「また……今度……。バイト頑張って……」


「おう! 城崎さんも大会の練習頑張って!」




「夜宵でいい……」


「……!」


「その方が、夜─YORU─に近い……でしょ?」


「……分かった。じゃあ俺も岬で! またね夜宵さん」


「うん……! じゃあね……、岬くん……!」

お読みくださりありがとうございます!

完結まで毎日投稿実施中!

少しでも面白いと思った方は是非お気軽に評価をお願いします!感想、レビューもお待ちしております!

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