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09 王宮からの招待状

 山のように届けられる手紙にわたしが辟易していた頃に、サイラスが屋敷に戻ってきた。疲弊したようすだったがわたしを一目見た途端、ぱっと端正な顔がさらに輝きを増した。




 そういう顔を、するのはずるい。




「リーリエ、ただいま帰りました――!」


「お、おかえりなさい……」




 玄関ホールまで迎えに出たのが災いしたのか、むぎゅうっと抱きしめられて息が苦しくなった。


 いまも彼が何を考えているのかまったくわからないまま過ぎていく日々にわたしは焦りと共に不安をおぼえている。


 それなのにサイラス様ときたら無邪気そのもので困惑してしまうのだ。ただひたすらにわたしが「好き」だという感情が滲み出ている。




「今日もずっとあなたに会いたくてたまらなかった……」




 その言葉が大げさでもなく偽りでもなく、本心であるとその表情や仕草の端々からわかってしまう。だからこそ恐怖をおぼえる。


 何が彼をそうまでさせるのかわたしには理解不能であるからだ。




 わたし自身に魅力などないことぐらい自分が一番よく知っているのに。


 ありふれた容姿であるし、天使のような慈善の心などもない。サイラス様ほどの方に少々おかしくなるくらいに愛される理由などどこにもないのだから。




「……サイラス様は相変わらずおかしな方ですね」


「ええ、すべてあなたのせいですよ、リーリエ」




 こんな無礼なことを言えるようになるほどにはこの謎の執愛にも慣れつつはあった。




「あの……」


「どうしましたか、リーリエ?」




 だが漫然と流れていく毎日の中、今日こそは、と声を上げることにした。




「わたし、もういい加減に外出がしたいのです」


「わかりました」


「い、いくらサイラス様が反対しても今度こそは……って、え?」




 いま、なんとおっしゃいましたか。思わず尋ねるとサイラス様は深く息を吐いて言ったのだった。




「許可します」


「えっ」


「ちょうどあなたに話さなくてはと思っていたのです」




 サイラス様がわたしに差し出したのは、この屋敷に滞在するようになって数日で見飽きてしまった招待状の類だった。


 来週開催される夜会に、サイラス様とその婚約者であるわたしを招きたいという趣旨の内容が書かれている。いままで何通か似たような文面を目にしているのでこの程度で驚きはしない、本来は。


 ただし差出人はオディール王家――国王、となっている。わたしは一瞬で青ざめた。




「他は幾らでも無視ができるのですが、さすがに陛下からの手紙を放置するわけにはいかないので」


「わ、わたしが行きたいと言ったのは、ちょっとした街歩きとかであってこういうような堅苦しい場ではありません!」




 それくらいなら家に引きこもっていた方が百倍マシだ。


 良い思いをした記憶もないし、わたしは茶会や夜会が特別好きなわけではない。わたしの「出かけたい」は不自由さを感じず外を歩きたい、ぐらいの意味しかなかったのに。




 いまサイラス様と婚約したという明らかに人目を引く状況下でそのような場所に赴きでもしたら――いままでの比ではないほどの誹謗中傷の嵐が吹き荒れることが想像に難くなかった。




「大丈夫です、あなたのことはわたしが守りますから」


「いやいやそういう問題でもなくてですね」




 たかだか夜会で何かが起きて身の危険が及ぶような言い方をしないでほしい、怖くなるから。ところがサイラス様は大まじめな顔で当日の警護計画などをぶつぶつと検討し始めてしまった。

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