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12 ジェレミア・ロレル

「れ、レベッカ……その服装はどうしたの?」


 わたしが間の抜けた質問をすると、ちら、と彼女は此方を一瞥した。女性用騎士団服がよくお似合いである――メイド服も良く似合ってはいるのだが。


「見てのとおりです。私は近衛騎士でもあるので……今日の祝宴には参加するように言われています。団長にも許可は得ているので問題ないでしょう」


 色々気になることはあるのだが、レベッカは「いまのうちに」とわたしに合図した。ついさっきまでわたしに詰め寄って来た令嬢たちはいまやレベッカを取り囲んできゃあきゃあ騒いでいる。かなり人気があるようだ。


「ありがとう、レベッカ!」


 さささ、と夜会参加者の中に紛れてしまうと結局、令嬢たちは誰も追いかけて来なかった。それにしてもレベッカが騎士だったとは――それが何故、エルドラン卿の屋敷でメイドなんてやっているのだろう。

 そんなふうに考えながらひとの少ない方へとじりじり移動していたとき、正面から歩いてきた人物とぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい」

「いえ――お怪我はありませんか」


 にこ、と微笑まれてどきっとした。

 すらりと背の高い男性がわたしの目の前に立っている。好みにもよるだろうがサイラス様とおなじくらいの美男子である。暗色の髪が落ち着いた印象を与えていて、サイラスが真昼の太陽であるとすればこのひとは夜半の月のような美しさを誇っていた。


「……せっかくなので、一曲いかがでしょうか」

「えっ」


 ちょうど曲が途切れたときだった。おなじ夜会で二度もダンスをするなんて、こうした華やかな場であっても地味に隅っこの方で生きてきたわたしにとってはありえないことだ。

 だからといってお断りするのはさすがに――にっこりと微笑まれて差し出された手を無視するなんて所業はとてもじゃないが出来なかった。これ以上目立つのは避けたいのだが、仕方ないことだ、と自分で自分に言い訳する。


「よろしく、お願いいたします」


 一度踊っているからかステップを間違えることなくダンスをすることが出来ている。「お上手ですね」とお世辞なのは明らかなお誉めの言葉をもらったが、上手なのは彼の方だった。動き一つ一つが洗練されていて優雅なのだ。

 なんとか一曲踊り終えると、ふうと浅く息を吐いた。緊張した……と思っていると彼がなかなか手を放してくれなかった。


「あの……?」

「私はジェレミア・ロレルと申します」

「あ……リーリエ・エルドランです」


 彼はロレル侯爵家の方のようだった。ジェレミアというのは――確か侯爵家の長男の名前だったはずだ……つまりは次期侯爵ということ。ぼんやりしていると「リーリエ、いいお名前ですね」とジェレミア様は微笑んだ。


「リーリエ!」


 そのとき、サイラス様がわたしの肩を掴んで振り向かせた。思いの外、焦っているような表情だったことに驚く。

 わたしがジェレミア様から距離を取って離れると、サイラス様は安堵の息を吐いた。


「これはこれは……サイラス・エルドラン卿ではないですか」

「ジェレミア様、俺の婚約者に何か御用ですか」


 いつになく冷ややかな声音でサイラス様は言った――敵意すら感じるような醒めた物言いにぎくりとする。


「いえ、素敵なお嬢さんだと思っていただけですよ。それにしてもふふ、エルドラン卿の婚約者であったとは」


 すうっと目が細められ、ジェレミア様の視線がわたしにじっと向けられた。居心地の悪さに思わずサイラス様の背中に隠れるとおかしそうに喉を鳴らして笑ってみせた。


「では、私はこれにて失礼いたします。またお会いしましょう、リーリエ嬢」

「は……はい」


 リーリエ、と鋭くサイラス様に呼ばれて顔を上げると険しい表情でジェレマイア様を睨んでいた。


「どうしてあの方と踊ったのですか」

「えっ、あの……わたしが考え事をしていてぶつかってしまって――そのあとにダンスに誘われたので断りづらくて」


 言い訳がましい言葉だとは思うが実際そうなのだから他に言い様がなかった。サイラス様はジェレミア様を射殺さんばかりに見ている。


「ご、ごめんなさい……軽率でした。婚約者であるあなたの許可も得ずにダンスだなんて」


 なんだか怖くなってしまい、反射的に謝っていた。するとはっとしたようにサイラス様はわたしの方を見た。


「いえ、あなたが謝る必要などありません――ただの醜い嫉妬と笑ってください」

「嫉妬、ですか」


 それにしては過剰すぎるような気がしたのだが、深く追求することは憚られたのだった。

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