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11 麗しのダンス

 管弦楽団の音色が甘く夜に溶け込んでいる。

 どうせならいつものように壁際に張り付いていたかったのだがそれも今日は叶わない。近衛騎士団長サイラス・エルドラン卿の一挙手一投足に誰もが注目しているのだ。

 さほど華美ではない騎士の礼装は上質な仕立ての礼服を身に纏っているかのごとくサイラス様の美貌を引き立てている。

 豪奢なシャンデリアの下でダンスを踊る相手がわたしではなかったら完璧だったのに、と思う。どうせならわたしも一観客として眺めていたかった。


「あの……サイラス様、どうしてそんなに嬉しそうなのですか」

「当然です。あなたとこうして踊ることのできる栄誉を頂けたのですから」


 わたしが間違えても目立たないように力強くリードしてくれる。やはりダンスも運動ごとのうちだから、サイラス様はお得意なのだろう。対してわたしは圧倒的に経験が足りていない。基礎的な動きぐらいは練習しているが、それさえもたどたどしかった。


「わっ!」

「大丈夫ですか?」


 躓きかけても優しく抱きとめてくれる。きゃあ、という女性たちの悲鳴が上がった。ちくちくと刺すような視線を浴びてはいたがもはや殺意にも近いぎらぎらどろどろした感情を向けられて、背筋がぞくっとした。


「……サイラス様といるといつか誰かに殺されてしまいそうです」

「――」


 ぼそりと呟いた一言で、一瞬、サイラス様の表情が曇ったような気がした。


「安心してください、俺があなたを守りますから」

「はは、それはありがたいです」


 そう言ってわたしは微笑んでみせた。他愛もない会話のはずなのに、何故か真剣みを帯びてしまったことに違和感をおぼえていた。


 ダンスを終えるとサイラス様に連れられて彼がお仕えする王子殿下のもとに挨拶に伺った。サイラス様とわたしの婚約を喜んでくれているようで、わたしの拙い挨拶にも笑顔で対応してくれる素晴らしいひとだった。


「サイラス、少し来週からの公務について相談があるんだが――リーリエ嬢、少しこいつを借りても構わないかな?」

「殿下いまは困ります」


 思いの外冷たい口調で拒否しかけたサイラス様を見てわたしは勢いよく首を横に振って、サイラス様の背中を押した。


「いえいえ、あの、どうぞ……わたしはせっかくなので軽食を頂いています」

「ああ、ぜひ楽しんでいてくれ」


 にっこり微笑むと、殿下はサイラス様を連れて行ってしまった。

 振り返りながらもサイラス様が「リーリエ……申し訳ありません」と言っていたのを律義だな、と思っていたときだった。


「リーリエ様、どうしてあなたがサイラス様と婚約なさったのですか」

「信じられませんわ」

「どうせ姑息な手段でもお使いになったのでしょう」


 どっと淑女たちがわたしにむかって押し寄せてきた。

 どうやらサイラス様の熱烈な信奉者のようである。ひえ、と蒼褪めているとわたしのすぐ後ろから近衛騎士の礼装姿の人物が彼女たちとの間に割って入った。


「落ち着いてください、皆さま」


 聞き覚えのある静かな声音に顔を向けると、そこに立っていたのは長い髪を一つに束ねた女性だった。騎士、なのだろうけれど……わたしは茫然とした。


「あ、あなた様は――」

「ベッキー様! ベッキー様よ! 今日も素敵だわ」


 いつもとは異なる騎士の装いに身を包んだエルドラン家のメイド、レベッカの姿がそこにはあった。

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