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第九話「見えてもいいやつ」です

「自分の無力を何かの所為にしたり、自分を強く見せたがる気持ちも理解出来ない訳じゃねぇけどさ」


 腕組みをしたソレイユ様が、背中越しに語る。


「出来ない事を出来るって誤魔化し続けるって方が、あたしは何よりも恥ずかしいと思うぜ」


 お腹のところで、猫が「ここから出せ」と暴れている事に気付かないくらいに、私はソレイユ様の言葉に身体を打たれていた。


「――神よ、あたしに力を貸してくれ」


 ソレイユ様が詠唱を始めると、目の前で橙色の光を放ち始める。


 堂々たる言葉の粒とどこか暖かい輝きに、私は目を奪われる。


身体強化オールバフ・プレゼント


(今のが、ソレイユ様の魔法)


 その橙色の発光から目を離せなかった。

 ソレイユ様の身体や服から立ち登る蒸気のようなゆらゆらとしたその光が、見ているだけで暖かそうだったから。


(詠唱も呪文名もシンプルですごく、か、かっこいい――)


 私の魔法の呪文名や詠唱とは全然違う。昔母に聞いたことがある魔法使いのそれだった。

 大地からソレイユ様の身体へ、魔力が吸い上がっていくのが見て取れる。


「あんた、よく見とけよ。聖女を目指すチカラってのはこういうもんだ」


 そう言ってソレイユ様は、羽織っていたケープコートを脱ぎ捨てた。

 動きやすさを重視しているのか、両肩と腹、更には脚を露出させた肌着のような装いが露わになる。


 私は即座にソレイユ様から目を離して、地面に目線をやった。

 

「今日はムカついてるから思いっきりやらせてもらう」


 その言葉が聞こえたと同時に、思いっきり素振りをした時みたいな空気を切る音が私の頭上から聞こえた。


 私はずっと地面を見つめていた。その間も頭上ではソレイユ様の掛け声が響き、魔物が鳥のような鳴き声を上げている。


「おい、ちゃんとあたしの魔法の使い方を見ろって!」


 遠くで聞こえるソレイユ様の声には聞こえない振りをして、退治するのを待つ。


 その後、ソレイユ様がトドメの魔法を詠唱したところで、ズズンと魔物が倒れたような地響きを感じる。


 私の後ろ側で兵士達が歓声を上げているのが聞こえて、ソレイユ様が勝利したのだと確認出来た。


 直後、ソレイユ様が私へと猛スピードで近寄って、地に伏せるようにしていた私の服の襟を掴んで立ち上がらせる。


 私は猫を抱いたまま、目を瞑ったまま、ソレイユ様へ尋ねる。


「えと、ソレイユ様、終わりましたか?」

「終わりましたかじゃなくて、なんで全然見てねぇんだよ!」

「だって、そのぉ」


 そう言いながらゆっくりと目を開けた。


 私はソレイユ様の顔から目線を外して、口ごもる。


「今の場面はあたしの魔法の強さとか、倒す過程をじっくり観察するところだろうが!」


 そんなご都合的な事を仰られても、そんな風に怒られても、困ります。


「だって、ソレイユ様のお召し物、肌着みたいで、スカートだし目のやり場に」

「こ、これぐらい普通だよ! それに中には見えても良いやつ履いてるっての!」

「じ、女性のスカートの中に『見えても良いやつ』なんてもの、存在しません!!」 


 私の主張は間違っていないはず。

 手の中の猫は暴れる事を止めて、諦めたように項垂れていた。

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