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第十五話「vs」です


「つーか早く支度して王妃からの手紙を読めよ、あんまあたしを待たせんな」


 ベッドから立ち上がって、結った髪の先を指でいじりながら、ソレイユ様が促す。


 対して怒っていないその様子を見るに、私がしてしまったとんでも無いことは、あくまで夢の中での話だったのだろう。


 胸を撫で下ろして、ソレイユ様の言葉を思い返してみる。


「私、ソレイユ様と何か約束してましたっけ?」

「んな訳あるか。王妃の命だよ」


 王妃様の命。そうだ、私はそれから逃げようとして昨日――。


 計画が台無しである。まさか、寝過ごしてしまうだなんて。


「えーと、状況が良く理解出来ないんですけど」

「だからとりあえずそこから出てこい」


 腕を掴まれて、私はベッドから引き摺り下ろされる。

 その時に袖下から見えたソレイユ様の腕には、包帯が巻かれていなかった。


「ソレイユ様、腕の怪我はもう大丈夫なのですか?」

「あー、腕の骨が折れたくらいならヴィオラんとこで一晩寝てりゃ治る」


 ソレイユ様はそう言って見せつけるように袖を捲った。

 その腕にはぱちぱちと、紫色の光がはじけているのが見える。


「それ、ヴィオラ様の魔法、ですか。その魔法でどうやって治療をしてるんですかね?」

「さぁ。よくわかんねーけど、少し痺れは残ってるな」


 紫色の光から導き出される魔法、それは――。


「なるほど、敢えて微弱な雷魔法を流し続けることで、細胞分裂を促して、再生力を加速させてるってことですかね」

「あ?」

「それだけじゃなくて雷魔法で直接折れた骨を動かして骨折部分を焼き付ける、ぐらいの処置はしてあるのかなぁ?」

「あんた、こんな微かな魔法痕だけでそんなことまで分かるのか?」


 ソレイユ様の指摘に、ハッと我に返って口を覆った。

 誰かの魔法を見る機会なんて殆ど無かったから、気付かなかった事実がある。


 それは、私の聖書に載っている魔法と同じ種類の魔法ならば、大体の使用法が分かるのだということ。


 昨夜に見たミモザさんの魔法についても同様に、何となくの感覚でどんな魔法を使ったか、推測出来た。


 そして王妃様が使っていた魔法については仕組みが全く分からなかった。


 壁に絵を写したり、遠くの声を聞いてみたり、過去の出来事を記録してみたり。そんな魔法は、私が持っている聖書には載っていない魔法ばかりだ。


 ソレイユ様の身体強化、ミモザさんの時間操作、ヴィオラ様の電流を操る、といった魔法達。

 それは私の聖書に似たような魔法が載っているので、原理がおぼろげながらに浮かんでくる。


 もちろんしっかり裏を取った訳ではないので、その推測は怪しいものではあるけれど。


「あ、えっと、何となくそう思っただけです。えへ」

「なんつーか得体が知れねぇな、あんた」


 適当に誤魔化して、私は机に目をやった。

 そこには、昨日はなかったはずの封筒が置かれている。


「それよりソレイユ様、私あの手紙を読まないと」

「あたしが邪魔してるかのように言うな、最初からそうしろって言ってんだろ」


 靴に足を通して、ぱたぱたと駆けて手紙を手に取った。


 昨日と同じ光を帯びた封緘がされているその手紙は、誰が差出人かを示している。


 ポシェットからナイフを取り外して、封緘を剥がした。


「えっと、なになに……」



〜 親愛なる ブランノワールさんへ 〜


 昨日は良く眠れましたか?

 この手紙を読んで居る頃、私は既に王国を旅立っていることでしょう。


 王妃として、命じます。


 貴方に下す命は、龍穴にて発生している魔力の乱れの原因の調査を行い、『ソレイユさんに聖女を目指す為に必要なものを示すこと』です。


 また、この命の内容は、誰にも伝えてはなりません。

 ご承知おき下さいますよう、お願い申し上げます。


 PS、ブランノワールさんvsソレイユさん。


〜 シルヴァディア王国王妃 大聖女 シルヴァディア=アルカンシエルより 〜


 色々と思うところはあるけれど。

 私は手紙を掴んだまま、一人叫ぶ。


「最後の、何!?」


 王妃様、私はソレイユ様と戦っても勝てる訳がありません。

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