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第十三話「会った人達を、おさらいします」です

 ミモザさんを扉の外に押し退けて、一先ずとして必要なものは揃った。


 後は隙を見て、この部屋から抜け出すだけだ。 


「このサイズなら、ポシェットに全部入るかな?」


 一本の蝋燭と取手のついた燭台、そしてマッチ箱が一つ。


 ポシェットを開くと、中からは司祭様のカツラの一部が見える。


 いっそどこかに置いておいてしまおうか。


「いやいや、さすがにそれはマズイよね」


 カツラなんて高価なもの、捨てる訳にもいかない。やはり司祭様に返すべきだと思いを改める。


 ポシェットの中に入ったカツラの上から蝋燭グッズを押し込んで、何とか口を閉める。


「よし、とりあえずしばらく待機していよう」


 すぐに部屋を出ると、ミモザさんに出会してしまう可能性がある。


 出来るだけ無駄な接触を断つために、夜が更けるのを待つ事にしよう。


 魔法のランプにゆっくり触れると、あっという間に部屋の中は真っ暗になった。


 暗い部屋をフラつきながら歩いて、ベッドへと倒れ込む。


「うー、疲れた」


 それでも眠れる訳はない。状況的にではなく、気持ち的にだ。

 身体や脳は興奮しきっていて、頬だって熱いままな気配さえする。


 あんな魔法を私が――。

 いけない。そんな事を考えてしまうと、思考を正常に保てなくなってしまう。


 こんな時には、そうだ。


「会った人達を、おさらいします」


〜〜


 その一、ソレイユ様。聖女候補生兼、王宮騎士団長って言ったっけ。


 緋色の髪色で、肩ぐらいまである髪の片方を結った髪型。

 くっきりとした目で、王妃様も言うとおり愛らしい顔をしている。


 年は私と同じくらいかな。

 身長は私より少し低め。言葉遣いがちょっと乱暴で、性格も乱暴そう。


 でもきっと、優しい方何だと思う。素直じゃないだけで。

 橙色の暖かい魔法で、身体の能力を高めたりする魔法を使っていた。



 その二、ヴィオラ様。聖女候補生兼、王宮医師って言ってたっけ。


 菫色の髪を後に束ねていて、医師らしく白衣みたいな格好をされていた。

 年齢は私より上だと思うけど、口調程に年齢を重ねている訳ではないはず。


 肌も綺麗でまつ毛もすらっと伸びていて、身長もそこそこにあって、女性が憧れる容姿を持ち合わせている。


 揺れるようなウェーブがかった髪も、大人っぽさを醸し出す。


 研究熱心で色々な事に興味津々なお方何だと思う。

 少し怖さも感じたけど、お医者様に悪い人は居ないからきっと良い人。


 聖女候補生ということは魔法を使えるのだと思うけど、まだその魔法は見ておらず。



 その三、シルヴァディア=アルクアンシエル様。このシルヴァディア王国の王妃様であり、大聖女様。


 修道女のケープとドレスを組み合わせたようなお召し物を羽織われていて、いつもレースで目線を隠すフードをすっぽりと被っているものだから、お顔は拝見出来ていない。


 妖艶な唇で飄々と言葉を並べられると、そのまま王妃様のペースにされてしまう。

 まぁ相手は王妃様だから当たり前なのだけれど。


 私やソレイユ様を試すような口振りをしたり、急に褒めてみたり、得体が知れないお方。


 そして私の魔法の詠唱を聞いた事がある唯一の人。このまま弱味を握られて、私はどうなってしまうのでしょうか。



 その四、ミモザさん。よく分からない給仕長さん。


 品のある茶色のワンピースの色と落ち着いた口調、それに対して丁寧に編み込まれた金色の髪を装飾するリボン、エプロンの可愛らしいフリルが対照的で、独特な雰囲気を醸し出している。


 給仕係にあるまじき言動を何度か聞いた気がするけれど、仕事は早い。早すぎる。


 その理由は、時間を操作する魔法によるもの。

 もっとも、本人は魔法を使っていると認めはしなかったけど。


 でも舌打ちする人は総じて怖いです。



 その五、王様。


 茶色の髪と髭、私の想像の上の王様そのものというお方だった。


 私の名前も、魔法も、可笑しいと笑った。


 まぁ、当たり前か。それが一般的な反応だと思う。


 私の名前や魔法を聞いて笑わない人なんて――。


 いけない、最後に王様を思い出したのは失敗だった。


 このままでは『恥ずかし殺し』を発動してしまうことになる。


 まだミモザさんが外に待機している可能性があるので、変な声は出さないようにしよう。

 

 えっと、その六、クロ――じゃなくて、オリーブ、くん。


 結果として私をこんな状況に追い込んだ黒幕――じゃなくて、黒猫。性別は不明。


 緑色のスカーフを首に巻いている王妃様の飼い猫。

 私達のピンチを王妃様に伝えに行くだとか、どうやら頭が良いらしい。


 クロみたいに肉球をふにふにさせてくれる子だったら、今度お願いしてみよう。

 

 今日を振り返ることで時間が経つのを待ちながら、私はクロの事を思い返していた。


 ところが、ベッドの沈み心地が良くて。相性ばっちりで。


 私は微睡む。少しだけ寝てしまおうかなと、欠伸をした。


 どうせ、夜は、長いのだから。


 少しくらい、ね。


 誰かの事を、忘れている気がしたけれど、まぁいいか。

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