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第十話「4K」です

「本当に愉快なお方ですね、ブランノワールさんは」

「王妃様の前で、粗相してしまって、も、申し訳ありません!」

「話が長くなってしまってごめんなさいね。聖女として語ると、説法のようで嫌ですね」


 尻餅を着いたまま謝罪をしたのは初めてかも知れない。


 私は震える膝に力を込めて、起立する。


 そして、ここに来た目的を思い出す。私は王妃様に伝えなければならないことがあった。


「王妃様、先程も申し上げたとおり、私には聖女様なんて務まりませんので、候補生というお話も、辞退させて頂きたいです」


 ところどころで言葉を切りながら、私は王妃様へと懇願する。


「ブランノワールさんのその力があれば、沢山の人を救うことが出来るというのに」

「王妃様も、ご覧になったと思いますが、私の魔法なんて火を強く灯すだけしか」

「それだけでは、ないでしょう?」


 口元の笑みを引っ込めて、王妃様が私の言葉を刺すように述べた。


「ブランノワールさんは魔法を使えないのではなく、使わないだけですよね」


 私にとってそこに大きい差はない。

 鍵が開かない宝箱の中身に、価値なんてない。


 しかしながら、そんな台詞を王妃様が口にするのには違和感がある。


「あれ程までの魔力を持った魔法が存在しようとは。まだまだ私も見聞が足りませんね」


 王妃様の揺れ動く唇に、頭が一瞬真っ白となって。


「幻鳥を二匹同時に撃ち抜いた魔法、お見事でした」

「え――」

「詠唱が少々ユニークだからという理由で魔法を使わないというのは、勿体無いのではないでしょうか?」」


 にんまりとして発する王妃様の言葉に、衝撃と緊張が同時に駆け巡る。


 顔を赤らめる前に、王妃様に確認をしておかねばならない。


「ど、どのタイミングからご覧になって、らっしゃいました?」

「オリーブさんがソレイユさんのピンチを私に知らせてくれてからなので、ブランノワールさんが詠唱を始めた辺りでしょうか?」


 確認完了。


 一先ずとして、顔を赤らめることとする。

 呻きを発する前に、王妃様に確認をしておかねばならない。


「えと、遠くからご覧になっていたのですよね、私が何を発していたかまでは」

「ああ、遠隔透視魔法を使いましたので、音声までバッチリ聞こえていましたよ」


 確認完了。


 なるほど、王妃様はそんな便利な魔法をお持ちなのですね。

 あの詠唱と呪文名を聞かれたのであれば、私は覚悟をしなければなりません。


「そうそう、その時の様子を私の魔法で描写することも出来ます。もちろん音声付きで」


 そう言って王妃様がすっと指を刺すと、薄暗い部屋の壁の一面が怪しく光り始める。


 そこに映し出された人影は、『私』らしき人物の映像だった。


『愛しき――』


 私が魔法を唱えていた時の再現をするように、壁の中で『私』と思われる人間が意味の分からない言葉を紡ぎ始めた。


「え、な、ひぎゃぁぁああ!!!」


 まるであの時を繰り返すように、魔物に向かって『私』らしき人物が確かに魔法を放っている。


 その意味不明な詠唱を口ずさむ姿は勇姿などではない。晒しているのは、醜態だ。

 

「まぁ落ち着いてくださいブランノワールさん、この記録魔法はなんと4K対応ですよ」

「なんですか、それ!?」

「ご存知ないですか? 4つの『K』ですよ。『きれい』、『ききとりやすい』、『きえない』……えー、後一つはなんでしたっけね」

「分かりました!! 『傷付ける』でしょ!?」


 訳の分からない詠唱をしている過去の私の横で、王妃様が訳の分からない事を口にした。


 その混沌に当てられた私もまた、訳の分からない事を口走っている。


 可憐な口元を袖で押さえて、王妃様が嬉しそうな声を出した。


「リピートモードにしてっと、それともうちょっと音を大きくしましょうか?」

「や、やめてください! 私が嫌がってるの分かってやってらっしゃいますよね王妃様!!」


 それは、先程の無礼な物言いへの当て付けだったのだろうか。


「では一時停止しましょう、ポチッとな」


 王妃様は壁に映し出された『私』と思われる映像に向かって、右手の人差し指で何かを押すような動作を見せた。


 私が魔法を放っている瞬間で、壁の映像は停止した。


「止めるのではなく消してください! なんなら現実の私ごとで構いませんから!」

「そんなことはしませんよ、まだしっかりお礼も言えていませんし」

「お礼なんて必要ありません!」

 

 それは謙遜でも自暴自棄になっている訳でもない。


 自分で勝手に危ない場所に飛び込んで、ソレイユ様を危険に晒してしまったのだから。

 

 だと言うのに、恥ずかしさを堪えられない私の暴走を抑えるかのように、王妃様の身体は私を抱きしめた。


「本当に、ありがとうございます」


 王妃様の身に纏うドレスがまるで「ふわっ」と音を立てた気がした。


 微かに香る花のような匂いが、とても良い匂いで――。


「っていやいや、そんな感動的風に抱擁されても誤魔化されません!」


「えーっと、では『私の大事なソレイユさんを守ってくれてありがとうございます』ではどうでしょう?」

「私の痴態を映し出す前であれば響いたかも知れませんねぇ!」

「まぁまぁ、喚くのを辞めないと話のテンポが悪くなりますよ?」


 そんなご都合的な事を仰られても。


 私の羞恥心の事も、忘れないであげてください。

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