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第二話「ヘンテコな呪文の魔法」です

「や、やっぱり、変な名前だから笑って、しまいますよね、王様も」

「いや失敬、笑ったのではない、不敵に口角を上げてしまっただけだ」

「それは、笑うを格好付けて、言っただけではないですか?」


 咄嗟に、私は王様にそんな言葉を掛けていた。


 王様がぽかんと不思議そうな顔で私を見つめ返しているのを見て、はっと我に帰る。


 緊張が度を超えると、私はいらない一言をついうっかり出してしまうらしい。村を出る前に母からも気を付けなさいと注意されたばかりだというのに。


「あ、ごめんなさい、余計な事言ってしまって」


 その時、私の後ろから私と同年代くらいの女性の笑い声が聞こえた気がした。


 王様を守る為の兵士ならまだしも、私くらいの女性が謁見の間に居るはずもない。


 どうやら緊張と恥ずかしさで幻聴まで聞こえてきているようだ。


「まぁ、あまり気にするでない。名前も重要ではあるが、それよりも大事な魔法を見せてみろ。一番自信があるやつをな」

「は、はひ」


 簡単な返事すら下唇を噛んでしまって、上手く発音出来ずに居る。


 こんな状況で、呪文なんて述べられるのだろうか。


 私は立ち上がって、今から唱えるべき呪文を思い出す。


 この世には生まれながらに、神様から魔法を与えられる人間が居る。


 神様に魔法を与えられた人間は、本人にしか読む事が出来ない『聖書』と呼ばれる紙を授かり、そこに記してある呪文を読み上げる事で魔法を使う事が出来るのだ。


 しかし、こんな時には決まってその呪文を忘れてしまう。


「あの、すみません。呪文を忘れてしまったので自分の聖書を見ても良いですか?」

「なんと、聖書を暗記していないのか?」

「はい、要領が悪くてすみません」


 私は目を閉じて、脳内に保存してある聖書を捲る。何ページ目だったか、数少ない私が使える魔法がそこに記してある。


(見つけた、これなら、なんとか、読み上げる事が出来る。さっき練習したみたいに)


 目を開いて、私は深呼吸をした。


 深く吸って、吐いて。もう一度、深く吸って、吐いて。


 こういう時は集中してはいけない。なんてことなく読み上げればいい。気楽に。


 そして、魔法が使えるという事実を見せた上で辞退しよう。

 嘘ではなかった、それだけの証明の為に私は、一生分の恥をかきます。


 最後にもう一度、深く息を吸って。私は唱える。


真紅の光よ(プルプルリヒト)真に紅く(プルプルン)


 詠唱を終えると、天井から吊るされている燭台に灯っていた灯火が一段と明るく謁見の間を照らす。


 そして三秒くらいの静寂。左右の兵士達は示し合わせたように兜を深く被って、俯いた。

 更にその後ろから、別の兵士達のどよめきが聞こえて来る。


「なんだ、今のヘンテコな呪文の魔法」

「おい、聞こえるぞ。あの子も真剣に——ぶっ」

「お前だって笑ってるじゃないか」

「だってよ、あの子顔真っ赤にして、も、もう、だめだ」


 一人の兵士が声を上げて笑い出すと、それを皮切りに謁見の間に爆笑が起きる。

 王様ですら、目を手で覆って小刻みに震えている。


(——分かってる。分かってるから、これ以上私を笑わないでください)


 それが私の聖書の中に記してある、人前でも読み上げられそうな唯一の魔法だった。


 顔が熱いのは、魔法で頭上の灯火を強くしたから。恥ずかしいからなんかじゃ、ない。


 そうやって自分に言い聞かせます。これ以上の事は耳を塞いでいる私には聞こえないし、目をぐっと瞑った私には見えません。


 そう、知らない周りの人達の笑いなんて目にも耳にも入りません。私の耳も目も顔も、真っ赤になんてなっていません。


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