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第五話「直談判」です

「あたしが、どれだけ」


 続きの言葉をぐっと詰まらせて、ソレイユ様が包帯を巻いていない方の手で髪の毛を掻き毟った。


「ソレイユ、事務室で泣いたり喚いたりするのは良いが、暴れるのは容認出来ないねぇ」


 その感情を慰めるとも煽るとも取れるような台詞を、ヴィオラ様が告げる。


「ソレイユ、これは王妃が決めたことじゃ」

「あーはいはい、分かってますって。分かっちゃいるが、認められる訳ねぇ」


 ソレイユ様が司祭様の言葉を興味なさそうに聞き流して、私を見つめた。


 私はそんなソレイユ様の姿を見る事が出来なかった。


 殆ど肌着みたいなその格好をしているからという理由ではなく、痛々しい左手の包帯を直視出来ないという理由でもない。


 見ただけでは判別出来ない、その奥秘めた感情に。

 小さな身体に、圧倒されそうになっていた。


「おい、あんた」

「ご、ごめんなさい」

「何であんたが謝るんだよ」


 こんなことを口にしたい訳ではないのに。私はいつも自然と、謝罪を口にしてしまう。


 父にも昔、自分が悪くない時に謝るなと言われていたことを思い出す。


「謝るのはあたしの方だ」

「えっ」


 私は混乱している。


「悪いがあんたがあたし達と肩を並べられるタマだとは思えねぇ」


 混乱している私に鋭い目線を這わせて、ソレイユ様が宣言した。


「だから王妃に撤回して貰うわ。あんたの推薦」


 反射的に口を衝いた言葉は――。


「あ、ありがとうございます」

「何であんたが礼を言うんだよ」


 結果的にソレイユ様が述べた事は、私が願っていたことだった。

 誰よりもそれを撤回して貰いたいのは、私に他ならない。


 おもむろにソレイユ様が包帯の巻かれた手で自分のケープフードをベッドから掴み取り、残った手で私の腕を掴む。


「じゃあ、行くぞ」

「え、行くってどこにですか?」

「そりゃ王妃のとこだよ。あんたも隣で聞いておけ」

「でも、王妃様は今夜この国を出られると」


 手紙に記されていた一文が、私の脳裏を過ぎる。


「良いんだよ、すぐ済ませるから」

「そんな、王妃様だって出発前のご準備があるでしょう」

「知ったことか」


 恐らくだけれど、ソレイユ様はこういう時に自分の意見を曲げない人なのだと思う。

 

 しかしこれは渡に船、王妃様に直談判という恐れの多さはあれど、ソレイユ様が付いてくれているのなら若干の心配も薄れるというものだ。

 

 それならば、今回はお言葉に甘えてしまおう。


「あ、待ってくださいソレイユ様」

「あぁ?」

「私、司祭様にお渡ししないといけないものがあって」


 ソレイユ様へそう伝えて、私は空いた手でポシェットの口を開ける。


「だから、今じゃないじゃろ! また今度でいいんじゃ!」


 カツラに手を伸ばそうとするや否や、司祭様は必死の形相でそれを静止する。


「野暮用なら後でいいだろ、行くぞ」

「あ、あ、ちょっとソレイユさまぁ」


 私には事を済ませる猶予もなく。

 細い腕からは想像出来ない力で、私の身体が引っ張られる。


「ポシェットに黒い髪の毛の、カツラだって……?」


 顎に手を当てながらヴィオラ様がそんな事を口ずさんでいたが、私はそのまま手を引かれ、医務室の扉の奥へと連れ去られる。



――この時、ヴィオラ様に対して、私は何か弁明出来る事があったのかも知れない。

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