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第四話「まちがい、聖女」

 私の叫び声に反応したのは、ヴィオラ様と司祭様だけではない。

 カーテンの隙間から頭を覗かせて、恨めしくソレイユ様が呟いた。


「だから、あんたも分からねぇ奴だな。喚くなら外でやってくれ」

「あ、ご、ごめんなさい、ソレイユ様!」


 私の謝罪を遮るように、ヴィオラ様が近づいて来る。


「それは良いとして、その手紙、どんな事が書いてあったんだい?」

「医者が医務室で騒ぐのを良しとすんなよ、ヴィオラ」


 ソレイユ様が毒を吐くように呟いて、恨めしそうな視線を送っていた。


 私が手にしていた王妃様からのメッセージに、ヴィオラ様は興味津々だった。


 そのちりちりとした視線を当てられたところで、私に理解出来ていることはほとんどなく、説明のしようがない。


「すみません、何が何だか、私にはよく分からない、です」


 私がそう呟くと、手紙の内容について司祭様が補足する。


「これは、命令ではなく要請じゃ。試験に来た立場からしてみれば、普通は断る理由もないはずじゃがな」


 司祭様が口に出した言葉の意味は、理解出来る。


 理解出来ていないのは、王妃様が見たと言う私の魔法という部分についてであり。

 聖女候補生への推薦という部分についてでもあり。

 やむを得ない事情というのが観光という部分についてでもあり。


 要するにもう過言でもなく、全ての部分について理解が出来ない。


 固まっていた私を見かねて、ヴィオラ様が提唱する。


「分からなければ私が読解してもいいが?」

「いえ、あいにくですがヴィオラ様が見ても理解出来ないと思います」


 私は首を振って提案を退けて、言葉を綴る。それは誰が聞いても、耳を疑うことだろう。


「私が聖女として推薦された、なんて」


 つい、うっかり。


「せ、聖女として推薦、だって!?」

「せ、聖女として推薦、だと!?」

「せ、聖女として推薦、じゃと!?」


 ソレイユ様、ヴィオラ様、司祭様が三者三様の声を上げて、私の発言を確かめるように繰り返す。


――あれ、なんで司祭様まで吃驚されているのだろう?


 先程、自分が呟いた言葉を辿る。大事な言葉が抜けていた。


「いやいや、お主が言い渡されたのは聖女ではなく聖女候補生じゃろ」

「あ、あ、そうでしゅ!」


 まちがい、聖女。

 せいかい、聖女候補生。


 慌てて返した言葉が子供の口調のようになって、私は顔を熱くさせる。

 それを聞いて納得したように、ヴィオラ様が口角を上げて頷いた。

 

「へぇ、この子を聖女候補生に推薦ねぇ。王妃もまた面白いことを」

「わしも驚いたが、王妃が言うからには何か理由があるんじゃろうよ」


 ヴィオラ様と司祭様の会話も、殆ど耳に入ってこないでいた。


「もし王妃の気まぐれって話なら、ソレイユ達は面白くないだろうねぇ」

「そうは言っても、聖女に携わる人事権は王妃が一任しとるからのぉ」


 ぼやぼやと語る二人の言葉なんて、隣を歩く街行く人の会話と同じに聞こえた。


 私は自分がうっかり漏らしてしまった言葉から漏れていた言葉によって、恥ずかしさに身体を囚われている。

 

 ソレイユ様を始めとする目の前聖女候補生様を差し置いて、聖女として推薦される訳がない。

 そもそも候補生という立場ですら、私には身に余る。


 そんな事は百も承知です。言い間違えたと言うか、言葉が足りなかっただけなのです。だからソレイユ様、そんな目で、見ないでください。


 まるで親の仇を見るような目で。


 って、何でそんな目で見ているんです――。


 ベッドを囲んだカーテンの間から身体を出して、殆ど肌着みたいな格好でソレイユ様が私へと詰め寄る。


「あんたが候補生って、どういうことだよ」


 小さくそう吠えたソレイユ様が、この部屋の時間を止めた。

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