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第十二話「魔神射止めし零度の弓弩」……で、です

 そうして、私の脳内にある聖書のページを捲り始める。


 覚える必要もなく、唱える可能性も存在しないはずだった、その聖書。


 光を灯すだけの魔法――ではない、それ以外のページに書いてある魔法。


「えと、魔神を穿つ程度の魔力弾を放つ魔法? これなら、足止めくらい出来るかな」


 聖書には呪文と魔法名。そして、その魔法についての説明が記入されている。


 魔神を穿つ威力というのがどういったものか想定出来ないが、ソレイユ様から注意を逸らす事ぐらいは出来るかも知れない。


 魔物の注意を引いて城の方まで誘導すれば、王妃様や他の聖女候補生様に退治して貰えるかも知れない。


「い、いとしき――」


 脳内に浮かんだ聖書の呪文を見ることすらままならない。

 自分が書いた訳でもないのに、どうしてこんな恥ずかしいんだろう。


 こんなの呪文として成立しているのだろうか。もしこれが、唱えても何も起こらなかったとしたら、私はきっと「恥ずか死」することになるだろう。


 いや、仮に何か起きたとしても、私は気を失ってしまうかも知れない。


 こんな恥ずかしい詠唱を、呪文を唱えてしまったという事実を受け入れられないかも知れない。


――でもこんな状況で、そんなこと言ってられないよ、ブラン。


 私はゆっくりと立ち上がって、自分の頬を叩く。そして、もう一度聖書を読み直す。


 脳内に浮かんだその聖書の文字の一字一句、言葉を読み上げながら記憶していく。


「い、い、いとしき、ひ、はにぃ、わたひは、その、ぷ、ぷりてぃ?」 


『――なんだあのヘンテコな呪文』


「ぷ、ぷりてい、さに、とわらわ、れて、しまった、か、かなしき、ま、もんす、もんすたぁ」


『――あの子、顔を真っ赤にして』


「この、こがれし、たま、たまひい、あなた、の、せ、せ、せっぷ、せっ、ぷんで、ひゃし、いとめ、て、くれない、か」


 いつだったか、詠唱のない簡単な魔法ですら、笑われていた自分の姿が脳裏を過ぎる。


 自分のチカラを誰かに見せつける為に使う魔法は、とっても恥ずかしいと感じるものだった。魔法を使うところなんて見て欲しくなんてなかった。

 

 でも今なら恥ずかしくなんて、ない。ここには私しかいない。

 目の前には助けないといけない人がいる。どうってことない。


――どうってこと、ない!


「このまま黙って見ていることより、恥ずかしいことなんて絶対、ない!!」


 詠唱は覚えた。後は、繋げて口に出すだけ。


 少しだけで良い。ほんの少しだけ、ソレイユ様から魔物の意識をそらすだけで。


「愛しき人よ(ハニー)、私はその可憐プリティさに囚われてしまった悲しき魔物モンスター。この焦がれし魂を、貴方の接吻で冷やし射止めてくれないか!」


 言葉はもう途切らせない。詠唱は終わった。


 これで誰かを救えるなら、一生分の恥をかきます。


 私は、息継ぎするために少しだけ息を吸って、心を落ち着いて最後の呪文を唱える。

 

 両手を掲げて、目を瞑ったままで。


 私を黒い光が包んでいる事には、気付かないままで。


魔神射止アイアムめし零度の弓弩(プリティハンター)


 私の立つ少し後ろから、強力な魔力の渦が生まれる。


 オーブンの中で焦がされているような、氷の中に閉じ込められているような、肌の感覚が麻痺する程の強力な魔力の波が渦から広がっていく。

 

 その魔力の渦の中から、黒い塊が捻り出された。


 高音を轟かせ、城門を支えている柱を抉りながら、魔物に向かっていく。


 弾丸とも言えるその塊は、倒れたソレイユ様に雷を浴びせようとしていた二匹目の魔物に向かっていき、その一直線の軌道で穿つ。


 瞬きを許す暇も与えず、黒い塊は鋭角に軌道を三匹目の魔物に向け、あっという間にその弾丸は魔物の身体を貫通させた。


 その黒い塊は稲妻のごとく軌道を小刻みに切り替えながら、私の生み出した魔力の渦へと還っていく。


 ほんの少しだけ時間を置いて、魔物は二匹とも糸が切られた人形のように地面に倒れ込む。



 私は再び、その場にへなへなと座り込んだ。


 お尻のあたりが、砂だらけ。


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