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第十話「流れ星」です

 魔物が横たわり、ぷすぷすと音を立て、毛皮の焦げた匂いを漂わせている。

 空の暗雲は晴れることはなく、不気味に渦巻くような模様を描き始めていた。


「助けてやったのに面白くねぇな、やっぱり一発殴らせろ」

「それよりソレイユ様、何か近付いて来ているような気がするんですが、あそこ」


 襟を掴まれたまま、私はソレイユ様に訴える。


「離して欲しいからってそんな手には乗らねぇよ。子供じゃねぇんだから」

「だから、見てくださいって。ほら、あそこ!」


 抱いていた猫も私と同じ方向を向いて、にゃあと声を張り上げる。

 その様子を見てようやく、ソレイユ様は私の目線の先に視線を移す。


 ぽっかりと空いた暗雲の隙間に光る点が、少しずつ大きくなっていく。


「こんな時期に、流れ星ですか?」

「いや、流れ星なんかじゃねぇ……」

「しかも二つ?」


 私がそう発言すると、胸元を掴んでいたソレイユ様の手の力がやっと緩む。


 服が伸びてしまわないか心配していた私は、少し安心して息を吐いた。

 それとは裏腹に、ソレイユ様の呟きが再び緊張感を高める。

 

「やべぇ、さっきの幼体ごときに魔力を使いすぎた」


 じんわりと橙色の光を灯していたソレイユ様の身体の発光が、弱まる気がした。


「オリーブ、悪いが王妃に伝えてくれねぇか、今のあたしじゃあれは無理だ」

「えと、私の名前は、ブランですけど」

「あんたじゃねぇ、お前が手に抱えているそいつに言ったんだよ」


 私が手もとに抱いた猫に目をやると、にゃあとソレイユ様に向かって返事をした。

 手の力が緩んだ隙に、猫は私の腕からするりと身体を捩る。


「ぐえっ」


 そのまま私の腹を蹴っ飛ばし、勢いをつけて城の方向へ駆けていく。


 その痛みは大したこと無かったが、自分が呼ばれたと思って返事をしてしまった恥ずかしさが込み上げてくる。


 どうしてこれって、こんなに恥ずかしいのだろう。


「あ、あの猫、王妃様の飼い猫、だったんですか」

「あー、飼い猫ってか、犬っていうか。こういう時ぐらいしかあたしの言う事も聞かないな」


――犬? どう見ても猫だけど。ソレイユ様も変な事を仰るなぁ。


「おい! 早く下がれ、ここはもうあたしらの手には負えねぇ!」


 私の思考を取っ払うように、ソレイユ様が門の付近に屯していた兵士達へと声を張り上げた。


 その指示に従って、兵士達はどやどやと騒めきながら城へと引き上げていく。


「あんたもさっさと非難しろ。ギャグパートは終わりだ」


 ソレイユ様が門に背を向ける形で、動かなくなった魔物を方向を見つめる。


 私はずっと真剣だけれども、ソレイユ様にとってはお遊びみたいなものだったのだろう。


 しかし非難しろと言われても、どこに行けばいいものやら。門の下を潜って王国の敷居へと入る前に、私は言いそびれた事を思い出す。


「あの、ソレイユ様、助けてくれてありがとうございました。貴方の魔法、とってもかっこ良かったです」

「うるせぇ、二度とツラ見せんな」

「はい、またどこかでお会い出来たら光栄です」

「本当腹立つ奴だな、あんた」


 ソレイユ様にお辞儀をし、高くそびえる門を潜ろうとした瞬間、私は足を止める。


(あれ? 『あたしら』の手に負えないってどういうこと?)


 私が振り向いたその一瞬。


 月が落ちて来たかのような物凄い爆音と共に、黒雷が落ちた。

 私とソレイユ様が言葉を交わしていた、その場所に。

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