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第一話「モンブラン・ブランノワール」です

「では、今から王の前でお主の魔法を見せてもらうぞ」

「む、無理です、私は魔法なんて、使えません。しかも王様の前でなんて」


 その時私は、真っ黒いフサフサな髪の毛の王国司祭様に、強引に謁見の間に連れ込まれそうになっていた。

 私は肩まで伸びた白色の髪を揺らし、王国司祭様に掴まれた手を力一杯振り解こうとする。

 母から譲り受けた一張羅の、黒いケープコートが傷んでしまいそうなことにも気付かずに。


「だから、今になって出来ませんは無理じゃ、お主が志願したのであろう!?」

「違うんです、違うんです! あれは母と妹が勝手に応募しただけなんです!」


『聖書持ちのあなたへ あなたも私達と共に聖女となって平和の支えになりませんか シルヴァディア王国教会一同』


 そんな言葉が書かれた紙が、私の脳裏を過ぎる。

 私の住むパステル村から馬車で二日程掛かるシルヴァディア王国、その王宮。

 どうして私がこんな所に居るのかと言えば、私が私に問いたい。


「大丈夫じゃって! すぐ終わるから! お主が魔法をぱぱっと見せればそれで終わりじゃから!」

「無理です、無理です! 司祭様の前ですら一回成功させるのがやっとだったのに、知らない人の前でなんて絶対、無理!」


 既に顔から火が出そうになっていた。

 大勢の人の前で魔法を詠唱するなんて、無理に決まっている。私の心が耐えられない。


「良いか、良く聞け。今の状況でお主が出来ませんと言ってしまえば、王の時間をいたずらに奪った罰としてお主は打首になる可能性もあるぞ」

「それで良いです、あんな恥ずかしい魔法を唱えるくらいなら、私は死にます」

「それならお主の母と妹も同罪じゃな。お主が魔法を使えると嘘を吐いたのは、そやつらじゃろ?」


 脅しのような言葉を聞いて、ついに私は観念する。


「あ、悪魔ぁ……」

「失敬な、我々は聖職者じゃぞ。悪魔や魔物と対抗する為の存在じゃ」


 今の私にとっては、どちらも似たようなものだ。私を地獄へ連れて行こうとする、悪い人。そして地獄へ送り込もうと企てた、母と妹についても同罪である。


 目の前では冥界への門——否、謁見の間への扉が開かんとしている。


 二人の兵士が門の取手を開く。二人掛かりでないと開けられないなんて、中に閉じ込められたらどうするのだろうか、と現実から目を逸らす事を考えていた。


 そこから、王様の前までの事はあまり覚えていない。


 王様の前に至るまでに、室内には他に何人もの人が居たのだろうと思う。


 だろう、と表現したのは、私は緊張で目の前に現れた厳つい茶髭を蓄えた王様と、その横に優雅に佇む王妃様の姿しか目に映らなかったからだ。


 王妃様の目元はレースのベールで覆われてしっかりと拝見出来なかったが、薄らと漂う口元の笑みが、私を歓迎しているように見えた。


「ふむ、白色の髪に黒の目か。どちらもここらじゃ見ない色だな」


 王様が自分の髭を指で摘みながら、独り言のように零す。

 その視線に目を合わす事は出来ないまま、王様の足元に向かって私は声を絞り出す。


「お初にお目に、掛かります。私の、名前は、ブランです。北のパステル村から来ました、えっと、聖書は十歳くらいの時に、授かり、ました」

「ブラン……? フルネームは何という?」


 王様の問いに、言葉がすぐに返せない。

 口の中は乾いているというのに、唾を飲み込もうとして喉を鳴らす。

 緊張すると声が出にくくなるのは、子供の頃から変わっていない。


「えっ、と、私の、名前は、モンブラン・ブランノワール」


 私が名前を言い終わるよりも前に、王様の髭の隙間から「ふぐっ」と音が漏れたのが聞こえる。

 私の少し後ろで、兵士達のこそこそとした話し声も聞こえてくる。

 

「ブ、ブランブラン? 変な名前だな」

「おい、聞こえるぞ」


 王様や兵士を責めるつもりにはならない。


 そんな権利など無いのは言うまでもないのだ。

 私の名前の語感がどうしたって、何かをぶら下げているように聞こえる事は否めない。


 今更、名前を名乗る事で笑われるくらいどうってことない。


 どうってこと、ない。


――はずなのに、私は既に顔が熱くなっていた。

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