私は道を間違えていなかった
[番外ショート][ラブコメ][コメディ]
頂いた感想からネタを起こした短編です。
シンデレラ嬢への感想、ありがとうございます!
「私は道を間違えたのかもしれない」
昼下がりのお茶の時間。
久々に都合のついたエイベル殿下を加え、レティアータ様、アラン、私の四人は、花が咲き誇る庭園の四阿の下、ひとつの丸いテーブルを囲んでいた。テーブルの上にはアフタヌーンティー用の三段のケーキスタンドのほか、色とりどりの菓子が並んでいる。侍女に淹れてもらった紅茶は黄金色。香りの良い春摘みだ。
カップを手に取り紅茶を口に含んでいたアランは、先程私が発言した際に何故か誤嚥したようで、今は屈み込んで苦しそうに咳をしている。
「どうしてそう思いますの?」
ティーカップを手に、おっとりと首を傾げて不思議そうに聞いてくるレティアータ様は、今日はエイベル殿下の目の色を基調としたドレスに身を包んでいる。発言の真意を聞かれた私は、さっくりそう思った理由を言った。
「レティ様と一緒にいられる時間が減ったからですかね。王太子妃と王子妃って、それぞれやることもあるし、先触れを出したりとかのアレコレが思ってたより面倒くさいかな」
「あら、まぁ」
「今も充分に一緒にいると思うけど? 朝食、午前のお茶、昼下がりのお茶、夕食、その他自由時間。ココノ、全部レティと一緒にいるよね?」
地を這うような声が差し挟まれる。このところ少し仕事の忙しいエイベル王太子殿下。レティアータ様と一緒にいる時間が減ってしまって、ちょっとご機嫌斜めらしい。妬みを含ませた目線がじとりとこちらに向けられる。そんな目で見られても私が何とか出来るわけないじゃないですか。殿下自身がお仕事頑張りゃいいんですよ、ファイト、ファイト。
「学園にいた時は、朝教室に入ってから昼下がりに授業が終わるまでずーーーっとレティ様と一緒にいられたし。それに比べるとどうも最近物足りない気がしてしまって」
「あらあら、ココノったら。授業はちゃんと聞いていましたの?」
「聞いてませんでしたね!」
「それであの成績だったの!?」
誤嚥から復活したアランが突っ込みを入れたあと、マジかよ、と呟いた。一応言っておく、意味を間違えて捉えないように。私は成績優秀者だ。
最終試験の順位表では、私はエイベル殿下とアランよりも上に陣取っていたのは確かな話。(なお、レティアータ様は首席なので私などお呼びではない)
授業を真面目に受けていないのに何故そんな成績が取れていたのかって? そんなのは、簡単な事だ。授業中、先生よりもレティアータ様を見ているために、私はレティアータ様と離れている時間を全て予習と復習にあてていただけだ。
ねっ? ほら、簡単な話でしょ?
予習と復習だけでなんとかしていた、と言うと、レティアータ様はココノは冗談がお上手ね、と鈴を転がすように笑った。尊い。エイベル殿下とアランの顔が引きつっているように見えるのは気のせいだろう。
「話を戻そうか。なんで道を間違えたって話になったんだい? 本当は何になりたかったのかな」
エイベル殿下がサンドイッチをつまみながら脱線した話を元に戻した。本当になりたかったもの? そんなのレティアータ様の部屋の壁紙に決まってるじゃないですか。天井でもまあいいですよ。カーテンは昼間は折り畳まれてしまうので、ちょっとダメですね。
なんてそのまま言ったら多分気が狂ってると思われるので、うーん、うーんと考えて、代替になる答えを絞り出した。
「侍女...ですかね、レティ様の」
「侍女かい? そりゃまた思い切った案だね」
エイベル殿下は感心したように目を丸くし、隣のアランはなんともいえない顔をした。レティアータ様を交えたお茶会では、アランは私の横で、何故かとても表情豊かに過ごしている。その真意は分からないが。
「だって、専属侍女になれば、レティ様のおはようからおやすみまで、ほとんど一緒に過ごせますでしょ?」
ニコと笑った私を、アランが胡散臭いものを見るような目で見てきた。だから、その顔、ほんとになんなんだよ? たまにするそれ、その顔。私が楽しい話をしてる時いつもその顔すんのやめろ。
「専属侍女になったら、朝はレティを起こして、お茶を淹れて、身支度を整えるのを手伝って、ドレスを選んで、メイク、着替え、自由時間には付き添い、昼下がりにはティータイムの準備と給仕、午後にまた着替えの手伝い、夕食の後は入浴、肌と髪の手入れ、夜着を着せて...って感じ...って、どうしたんだい、ココノ」
エイベル殿下が言うまま想像していたら、あまりにもご褒美すぎる仕事の数々にちょっとはしたないことになりましたわ。鼻から零れる赤いものを隠すために、私はハンカチを顔の下半分に押し当てた。エイベル殿下が怪訝そうにこちらを見ているが、これはあなたのせいですよ。
「ハンカチはお気になさらず。専属侍女、いい案だと思ったんですけど。私、一日持たずに天に召されそうですね」
予想される死因は、多分出血多量だ。
アランがこちらを見ながら溜息と共に行儀悪く頬杖をつく。彼の手元のカップは空に近くなっていた。気付いた私は手際よくポットからティーコジーを外し、その器に程よく黄金色を注ぎ足した。
「そんなにレティアータ様の侍女の方が魅力的?」
カップ片手のアランに呆れたような声音で言われ、私は首を横に振った。多分侍女は無理だ。レティアータ様に一生を尽くしつきる以前に、一日で多分尽きる。私の血液が。
「考え直しました。もう少し別の案を捻ります」
「そうだね、そうしてもらえると俺も助かるよ」
なんだそれ。
キョトンと首を傾げてアランを見返すと、一瞬気を良くしたような表情の後に、いつものイタズラっ子の笑みが浮かんだ。あ、これヤバいやつだ。
「兄貴の嫁の侍女捕まえてハグしたりキスしたりしてたら、王宮での俺の居場所が無くなっちまうもんなあ」
ニヤリと笑ったアランに追従するように、エイベル殿下も似たような表情を作りこちらを見る。勝手に赤くなる顔を両手でおさえて、私は俯いた。くそ、覚えてろ、性悪双子め。
「あらあら、まぁ」
レティアータ様が微笑ましいものを見たわ、と口元に麗しい手指をあて小さく笑う。立ち上がったアランが私の後ろに回り込み、肩口に腕を回して首元に顔を寄せ...近い! アラン! ここ外です! エイベル殿下もレティアータ様もいらっしゃいます! ちかいちかいちかい!
「王子妃なんだから、たまにはココノからも俺の事構ってよ」
耳元で囁かれ、その瞬間思考がショートした私は、閉じた扇子で勢い任せに肩口を払った。バチン!となかなかにいい音がしたと思う。
「アラン、ココノ嬢をからかうのは部屋の中だけにしとけ」
呆れたような声はエイベル殿下だ。そうだそうだ、部屋の中だけに...いや、部屋の中でもダメだ、侍女とかがいる時がある。二人っきりだけの時だけにしろ。いや、むしろ...。
「アラン、私前言撤回する」
「え?」
「レティ様の侍女になります」
「は???」
突然の方向転換に、頬に赤い扇子痕をつけたアランが慌てる。ちょっと待て、と聞こえてくるが、待ってたまるかコンチクショウ。
「そうしたら、物分りのいいアラン殿下は、兄貴の嫁の侍女捕まえてからかったりセクハラしたりイタズラしたりハグしたりキスしたり出来なくなりますよね!?!」
あちゃー、という顔のエイベル殿下が額をおさえて上を向き、レティアータ様は分かってるんだかそうじゃないんだか、ニコニコと笑っている。
アランは私の横に膝をついた。私の手を握ろうとするが、私はひょいと手を退けてしまう。
「ごめん」
「知りません!」
「俺が悪かった、考え直して」
「直しません!」
「もうやんないから」
「それ聞くの何度目ですかね!?」
「言い直す。次からは外ではやらないから」
「そういう問題じゃないから!」
白状します。私の心の準備の問題です。ほんとはね、ハグもキスも嫌いじゃないんだよ。嫌いじゃないけど、恥ずかしいんだよ。二人きりのときですら恥ずかしすぎて思考が飛ぶのに、人前でなんてとんでもない。...本人には言わないけどね。
私たちが言い合いをしている横で、レティアータ様はマカロンをもぐもぐしている。何かお考えのようだ。紅茶で流し込んで、話し始めた。
「ココノがわたくしの侍女になってくれたら、それはそれで楽しそうだけれど」
でしょう!でしょう!そうでしょう!
私は目をきらめかせて、レティアータ様の次の言葉を待った。隣のアランが死にそうな顔色してるけど、知らん。
「でもわたくし、ココノが妹じゃなくなるの、嫌だわ」
「王子妃、続投します!」
ふんわり笑顔のレティアータ様にそうと言われて、逆らえるか!そんなわけない!従うのが当たり前だ!従わない奴はモグリのレティアータファンだ!
妹と違って侍女とはお茶もお食事もお話もお出掛けも出来ないわ、と続けるレティアータ様に、そうですよねー、そうですよねー、と相槌を打つ。
私は道を間違えていなかった。
これで良かったのだ。
アランはいつの間にかエイベル殿下の側に移動していた。まだ勝てない、ボソリと呟いたその声は、エイベル殿下の耳にしか届かなかった。
お読み頂きありがとうございます!
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ひゅうがちなつ様、
感想でのネタ提供ありがとうございました!
有難く使わせて頂きました!
またこういう短編書きたいな。