とある学級委員長の話
本当に驚きましたよ、まさか井上が先生を殺すなんて。全然そんな奴に見えなかったので。井上は認めてるんですか? ……そうなんですね。
はい、井上とは去年から同じクラスで、……あの、これも記事に書かれますか? 井上と二年間同じクラスなのは僕とあと数名なので、わかる人になら僕だってバレてしまうんです。
はい。少年Aのクラスメート、とでも書いておいてください。
あ、大丈夫です。昼食は家で食べてきたので。……ありがとうございます。じゃあ、オレンジジュースで。
僕と井上の関係ですか? うーん、そうですね。そんなに仲が良かったわけじゃありません。というより、井上に特定の仲のいい人はいなかったと思いますよ。いつも一人でいる奴でした。
たまたま僕が学級委員長で、先生に頼まれて話しかけたりしてただけなんで。……あ、僕が学級委員長ってことも伏せてくださいね。
はい、そうです。その先生が、殺され、……。すみません、ちょっとまだ信じられなくて。平気なフリしてますけど、やっぱりショックで……。
……いえ、もう大丈夫です。続けましょう。
井上の学校での様子かぁ。本当に目立たないやつだったんで、あまり思い出せませんね。しかも、あまり学校に来てない時期もありましたし。
はい、孤立してました。記者さんの学生時代にもいませんでしたか? いつも一人でいて、何考えてるかわからない奴。あいつがまさに、そういう奴です。
一応言っておきますが、いじめは一切ありませんでしたよ。まあ、僕が知っている限りでは、ですけど。井上はいじめられるようなタイプじゃなかったですし。
うーん、何というか、僕が思うに一人でいる奴にも二パターンいるんですよ。本当は誰かと一緒にいたい奴と、自分から一人でいようとする奴。井上は多分後者でした。一人が好きだったんですかね。
そうですね、人当たりはよかったです。向こうから話しかけてくることはありませんでしたけど、こっちが話しかけると何かしらは返してくれていました。
……でも、先生はいろいろ気にかけていたなぁ。
……先生は、白石先生は、今年からこの学校に来て、僕らのクラスの担任になりました。
気が強くて、何でもはっきりというタイプでした。結構強い口調でものを話す人で、些細なことでもよく怒っているような感じでした。ヒステリックっていうんですかね。まあ、よくいる女教師って感じでした。
でも教師としてはそんなに悪い人ではなかったと思いますよ。「クラスの一体感」を大事にしてるみたいでした。一人でも欠けることは許さない、ってよく言ってましたね。一人が好きな井上にはキツかったのかな。でも、そんなことで人を殺しませんよね?
いえ、嫌われてたってことはないです。ウザいけどそんなに嫌いじゃないっていうのが大半の意見だと思いますよ。そうですね、僕もそんなに嫌いじゃなかったです。
井上はどうだったか? うーん、どうなんだろうなあ。さっきも言ったように、特別仲が良かったわけじゃないので。でも、井上が誰かを嫌っているところは想像できないな。人との関わりが少ないだけで、良い奴だったので。
……あ、そういえば。先生はいつも強い口調で喋ってたけど、井上に対しては少し違っていました。なんというか、猫撫で声? みたいな。普段より柔らかい話し方でした。
かなり気にかけていましたよ、井上のこと。友達のいない井上のために、いろいろ気遣ってやってたみたいです。
例えば、ですか。……詳しいことはわからないんですけど、先生はよく井上のことを呼び出していました。「井上君、後で職員室に」みたいな感じで。
これは僕の想像なんですけど、きっと学校生活について話してたんですよ。一人でいるのが好きな人でも、ずっと一人でいるのって普通ないですよね? だから、多分井上は一人が好きなのもあるけど、交友関係を築くのが苦手っていうのもあったんだろうなーって。
井上は自分から相談するのは苦手なタイプだと思うので、先生の方から声をかけてたんだと思います。井上が不登校気味だったときも、わざわざ家にまで行ってあげていたらしいですよ。
だから、井上が先生を嫌うはずありませんよ。だって、真剣に相談に乗ってくれていた人、嫌いになるはずがありません。
……本当最低ですよ。あんなに親身に思ってくれていた先生を殺すなんて!
どうせサイコパスとか、そう言った類位です。残虐な事件を起こした犯人は、学生時代に孤立していたって聞きますし。許せない。そんな自分の快楽のために人を殺めるなんて!
……すみません、つい。
いえ。こちらこそありがとうございました。事件のことでモヤモヤしてたので、話せてすっきりしました。
他に彼のことを知っていそうな人ですか、……何人か接点がありそうな人はいますけど、話すことは僕とそう変わらないと思いますよ。
……わかりました。連絡先教えてもいいか聞くので、OKもらえたらまた連絡しますね。
はい。では、
7/5・少年のクラスメート
×××××
休み時間、いつものように図書館で本を読んでいると、後ろから肩を叩かれた。
人がほとんどいない図書館で俺に話しかけてくる奴なんていないと思っていたから、少し驚いて振り向くと、アイツが立っていた。
二年生になってから三週間は経ったが、こうやって向き合うのは初めてだった。
面食らって声を出せないでいる俺に向かって、アイツは「ちょっと話そう」やけに神妙な声で言った。
普段の甲高い声からは想像できないほどの、甘ったるい声だった。