♰01 愛を信じられない。
20211123
真実の愛を語るけれど、自身の真実の愛を信じていない恋愛作家。
私は見事におひとり様人生を終えた。
そして、次の人生を迎えたのだ。
異世界転生ってあるのね。
しかも、ファンタジー世界の令嬢転生ときた。
私は令嬢なんて性に合わない。
その上、力のある子爵家で、キツイ稽古を強いられた。
貴族のたしなみというを仕込まれたのだ。
三人の兄妹の末っ子。私は比べられて、出来損ないと言われ続けた。
存在している魔法の覚えも悪い。だけれど、調合は得意だった。
私は「錬金術師」が向いているのかもしれない。
なんて、親切な家庭教師のお姉さんが言ってくれた。
錬金術師か。
どうせ遅かれ早かれ私は、政略結婚で嫁がされる。その前に逃げよう。
自身の真実の愛も信じられないのに、うわべだけの夫婦を演じるなんて出来るか。
しかし、そのためには、お金がいる。
私は仕方なく、筆をとった。
前世の特技を生かして、お金を得ることにしたのだ。
異世界でもウケるかどうかは不安だったけれど、杞憂だった。むしろ、こっちの方がウケがいい。
親切な家庭教師のお姉さんことリフリーさんのツテで紹介してもらった出版社の編集者。熱心で私のファンになってくれたと言い、宣伝しまくり謎の恋愛作家として私を推してくれた。巷で有名になって人気になったのだ。
リフリーさんに密かに錬金術師の基礎を教えてもらい、隙を見ては執筆をした。
私には、簡単だ。
白馬の王子が現れて真実の愛を知るお姫様の物語。そんな話を書くのは前世から得意だったし、ウケもよかった。
「なんでこんなっ! こんな素敵な話が書けるのですか!? そんな歳で!」
「前世からの才能かしら」
リフリーさんも本を買ってくれて、読んでくれたらしい。
毎回、熱烈な感想をくれる。
嬉しいが、正直困ってしまう。
なんで私はこういう話を書けてしまうのだろう。
真実の愛を語るけれど、自身の真実の愛を信じていない恋愛作家。
私は自虐的にそう思っていたけれど、別に嘘を書いているつもりはない。
ちゃんと幸せになってほしいと願い、物語を書いていた。
物語の中には、真実の愛がある。そして、現実世界だって、誰かが誰かを愛し愛することも、信じている。
素敵な話だとは思うけれど、でも、私は……私は自分のことを信じない。
誰かを愛せるとは思えなかったんだ。
誰かに愛さるとも思えなかった。
恋愛小説を書くくせに、どうしてだろうか。
本当は願っていたのかもしれない。物語の中のような真実の愛を見付けられること。
そして願いは、物語になっていたんだろう。
「ティラ嬢も、いつかこんな愛を見付けるのでしょうかね」
「そうだといいですがね」
私は微笑んで嘘をつく。
「ティラ嬢は美しい令嬢です。炎のような真っ赤な長い髪も同じ色の瞳にぴったりな、きっと情熱的な愛をもらえるのでしょう」
どうかな。きっと私は、金を持て余した不細工な貴族と婚約させられるだろう。
あいにく、出来損ないと紹介されて、私に言い寄る紳士はいない。
華やかな社交パーティーでは、私は壁の花。
どうにもパーティーで見栄を張る男性陣には、魅力を感じない。
私は壁の花になって、小説のネタになりそうな恋バナを拾い集めるだけ。
大していいネタは掴めなかったが、退屈している令嬢が特別な男性と出逢うという話なら思いついた。
それを書き上げて、出版してもらって少し経った、ある日のことだ。
ついに、私の結婚が決まった。
相手は同じ子爵の爵位を持っているニヤついた男性。名前は記憶に残してない。
もう三十になるはずなのに、十六歳になったばかりの私を欲していた。
気持ち悪いことこの上ない視線。舐め回すようなそれに鳥肌が立ったもの。
「いやぁ、うちの出来損ないをもらっていただけるなんて、うちは幸運ですよ」
「何を言いますか。前からお嬢さんの美しさには目を奪われてましたからね」
そんな会話をする私の父親と、気持ち悪い男性。
目を奪われたのではなく、目をつけていたの間違いだろう。
私はバカではない。父親が何の利益もなく私を嫁がせるわけがないのだ。
どうせ、金銭的な面で援助があったとか、はたまた直接お金を渡した可能性だってある。
父親はそういう貴族の人間だ。
そして母親も、愛のある結婚を、なんて言ってくれるような人ではなかった。
微笑みを浮かべる美しい人だったが、心は醜いのだ。
使用人にはきつく当たるし、私に優しく触れたこともない。
兄と姉は、私を侮辱する。今だってこんな気持ち悪い男との結婚が決まって、いい気味だと密かに笑っているのだ。
ああ、もう耐えられない。
こんな家族に売られるのも、若さと身体目当てで買われるのも。
絶対に認めるものか。
私は静かに立ち上がった。
「おや? どうしたんだい? ティラ」
「ティラ嬢?」
私を呼ぶ父親と男性に答えることなく、私は水の入ったグラスを持つ。
そして向かいに座る男性の顔面に、水をぶっかけた。
「ぶはっ! な、何をする!?」
「ティラ! なんの真似だ!!」
「私の答えですが、何か? 結婚はお断りです」
私は言い放つ。
「何をっ! お前に拒否権などないぞ!!」
父親は真っ赤になって、怒鳴ってきたが、そんな怒声には慣れっこだ。
「お前に決められる筋合いはないっ!!!」
そう初めて怒鳴り返してやれば、狼狽えた。
「私は私が生きたいように生きる!! お前達の利益になる結婚をするもんですか!! こんな性根の腐った家族、家族と認めていない!! どいつもこいつもクズばかり!!」
「なんだ、とっ!? 勘当されたいのか!?」
待ってました、とにっこりと笑う。
「どうぞ! お好きなように!! 私は勘当されようがされまいが、出ていきます!!! さようなら! どクズども!!!」
私はテーブルクロスを引っ張って、上にあったものを全てひっくり返した。
飲み物やお菓子がドレスを汚したと母親も姉も悲鳴を上げる。
兄と父親は何かを言っていたが、聞こうともせず、私は二階にある自分の部屋に戻った。
とっくに、逃げる準備は整えている。結婚出来る歳になる前からずっとこの日は遅かれ早かれ来るとわかっていたのだ。
リフリーさんにも、もしも私がいなくなった時のことを話してある。
そして、出版社にも、話はつけていた。
私はドレスの下にズボンを履いて、腰にベルトをつけて、スーツケース一つを持つ。
それから、二階の窓から外に出て、屋根を滑り降りて着地。
家の馬に跨り、今まで住んでいた家から逃げ出した。
ひゃっほー!!!
馬で風の中を駆けて、気分は最高によかった。
しかし、気を引き締めなくてはならない。
私はこれから危険な地へ、行くのだから。
私が住んでいたのは、人族ばかりが住み、人族の王が統治する人の王国。
向かう先は、多種族が住まう平等の国、竜人族の王が統治する竜王の国。
しかし、二つの国の間には、迷宮と呼ばれる魔物が溢れ出る危険地域があるのだ。
魔の生き物、魔物。
太古の昔、魔界へ堕とされた種族。
迷宮は魔界への入り口で、そこから魔物は溢れ出しては人々を襲い食らうそうだ。
言い換えれば、迷宮はダンジョン。
冒険者がお金をもらって退治したり、入り口から這い出る前に退治しに迷宮に入ったりするそうだ。
二つの国の間は、迷宮の地。そう呼ばれている。
魔界の入り口である迷宮の前を横切るつもりはないが、迷宮の地には足を踏み入れるつもりだ。
真っ直ぐ突っ切る方が最短ルート。
大丈夫。相当運が悪くなければ、魔物にも出くわさないだろう。
もしもいたとしても、万が一に備えて錬金術で道具を作ってある。魔物を撃退する錬金術の道具を。
ベルトにつけたポーチの中にそれらが入っている。
ちゃんと試したことはないが、リフリーさんのお墨付きがあるから、大丈夫だろう。
何もかも順調に思えた。
馬は一日中、走ってもらってから、解放してあげる。ちゃんと家に帰るだろう。
宿屋で一泊してから、また馬を借りて、一日ほど走ってもらった。
そしてようやく、迷宮の地と呼ばれる地域へと足を踏み入れる。
なんてことのない。
街は普通にあって、人々が暮らしている。
ただ、武器を持った人が目立つ。剣や弓矢、ハンマーまで。
冒険者だろうか。はたまた自己防衛のための装備かしら。
宿屋を回ったが、どこも満杯。
歩き回っていたら、子ども達に話しかけれた。
「困っているの? おねえさん」
「うん。泊まるところがなくて……どこかに泊まるところないかな?」
「あるよ!! 孤児院でいいなら!」
どうやら、孤児院の子ども達だったみたいだ。
ダメもとついていってみれば、街はずれの森の中に孤児院というか、教会が立っていた。
「シスター! このおねえさんが、泊まりたいって!」
やっぱりどちらかと言えば教会らしく、中に入れば長椅子が整列していて、奥には祭壇と大きな十字架が掲げてある。
年配の女性であるシスターは、少し困り顔になってしまった。
「泊めてあげたいのは山々ですが……ベッドに空きがありません」
「あ、いいんです。よければ椅子をお貸しください、そこで寝ますので。よければ、なんですが」
「それならば、大丈夫ですけれど」
「ありがとうございます! 屋根の下で寝れるだけで安心です。感謝します」
私は深々と頭を下げて、お礼を伝えておく。
「これ少ないですが、寄付させてください」
宿泊代のように、少額だけれど寄付した。
あまり大金は持ってきていない。竜王の国で落ち着いたら、残りのお金やこれから入ってくるお金を送ってもらうつもりだ。
大金を持ち歩いて旅をするのは、あまりにも無防備だものね。
「ありがとうございます、助かります。シスターレベッカと申します。あなたのお名前は?」
「私は……シティアです。ただのシティア」
私はペンネームを名乗った。元々この名で生きると決めていた。
「シティア? まぁ! なんて偶然!」
シスターレベッカは、先程まで読んでいたであろう本を取り出して、私に見せる。
「この本の作者もシティアという名前ですよ。私のバイブルです」
そう頬を赤らめて嬉しそうに話してくれた。私のファンがこんなところにも。
「すごい偶然ですね」
私は知らぬふりをして、本を手に取った。白馬の王子様がお姫様を迎えに来るお話だ。
「すっごくいい話なの!!」
女の子が私のドレスを引っ張って興奮気味に話した。
どうやら、シスターレベッカのバイブルを読み聞かせてもらったらしい。
まぁ子どもにも読んで聞かせていいとは思うけれども。
……過激な性的描写はいれてない、はず。
「おれはもっと戦う話がいいー」
「え? ぼくはいいと思うけれど」
男の子には、やっぱり退屈なお話だろうとは思ったけれど、一部は違うようだ。
この子はきっと女の子を大事にしそう。頭を撫でてあげた。
「ねぇ、そんなことより、ベルトにつけてるそれなに? お菓子?」
食いしん坊そうな男の子が、私のポーチを気にする。
「ごめんね、お菓子は持っていないんだ。これは錬金術の道具が入っているの」
「おねえさん、錬金術師なの!?」
子ども達は目を輝かせた。
「あー……見習いだよ。これから、なるつもり」
私は、はにかんだ。
「見せて見せてー」とせがまれたので、シスターレベッカの許可を得てから、危険ではないものを見せて上げた。
ライトになる錬金術の道具だ。
「どうして錬金術師になるの? おねえさん」
質問モンスターな子ども達に囲まれて、長椅子に座って話すことにした。
「んー、向いてるって言われたからかな。魔法より、錬金術の調合の方が得意だから」
得意なことを活かしていくのが、賢い生き方だと思う。
「魔法が苦手なの? おねえさん」
「うん、ちょっとね」
「アドバイスしてあげる!!」
女の子が明るく声を上げた。
「信じることがコツなんだって!」
誰かから聞いたのだろう。多分シスターレベッカ辺りだろう。
「信じることが、コツ……」
「うん! 出来るって信じると上手く出来るんだよ?」
「……そうなんだ」
私はちょっぴり悲しくなった。
どうやって信じればいいのだろう。
自身の愛を信じない。そしてきっと私は私を愛していない。
出来損ないと罵られて拍車がかかり、自分に自信はないのだ。
そんな私が、自信を持つことは、難しい。
自分自身を信じることは、難しい。
だからだったのか。魔法が不得意だったのは。
自分不信なところが、影響していた。
それからもお喋りを続ける。就寝時間になるまで。
私は毛布だけを借りて、長椅子の一つに横たわって眠った。




