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死んだり蹴ったり

作者: SNEO

 私は昨日死んだ。誰もそれに気付かないでいるので、そろそろ苛立っている次第である。会社にはもう6年は無遅刻無欠勤であるからして、死んでからも出社しなければいかんというのもまた、酷な話である。

 会社に行ってもお昼時なんかは頗る極まりが悪い。キーボードをたたく音が止んだかと思うと、昼飯だと言って、みんなが席を立つ。私もそれに付いていくが、何を食べると聞かれてみても、食べるという習慣が無いので答えられない。みんなも私が死んだことに気付いておれば、こんな愚かしい質問はしないだろうが、一向気付く気配もない。そうして不審な顔を浮かべ、ダイエットかね、とか病気かと聞くが、死人にはダイエットも病気もない。ただ、腐敗するのをぼんやりと待つだけなのだ。出来ることなら太りたいくらいである。

 私も女のはしくれであるからして、化粧はする。しかし毎朝ファンデーションを乗っけるのに苦心するのは、いい加減うんざりだ。細かい粉が青いテーブルに、パラパラとこぼれるのを何となく寂しい心持で眺める。店で見たときは、めっぽうお洒落に見えたテーブルも、死んでから見ると、しけた色目でダックスフンドみたく短足なんだから、やぼったくて仕方がない。

 朝食も当然取らないので、その分長く寝ていられる。疲れるかと言われるとなんだかよくわからないのだが、目を開けているのが思いのほかしんどいのだ。それで棺に入られた方々、生きている人に目を閉じていただくのです。

 死んだら楽になるもんだとばかり思っていたが、そうでもないらしい。鞄を持つのも一苦労で、あんなに重いものが肩にかかっては、肉がぼろりとこそげ落ちるので困っている。かと言って手ぶらというわけにも行かず、見栄っ張りのように空っぽうの鞄を持って外出するのが慣例となった。

 たまに外で同じように死人に会うことがある。今日会った人はやたらと物知りなもんだから、色々と聞きたくてカフェに入って話した。異国の地で日本人に会ったような心持であるからして、妙な親近感を抱くのである。しかしテーブルに付いたはいいが、注文を聞かれても、少し待ってくださいとしか言えないんで、いちいちばつが悪い。

 備え付けられた小瓶のふくよかに広がった面を、つやつやと触ってみた。そうしながらこっそりとその人の顔を見る。その人は、名を「知恵によって溢れたる小瓶・安静なる眠りに深し」とか言うが、聞いたこともない宗派のお坊さんにつけられた戒名だそうだ。本当は8文字程の漢字だったが、忘れてしまって意味だけしか分からないと話していた。私はいまだに戒名を頂いてすらいないので、うらやましい限りだが、何となく夏目漱石の小説のようで赴きがあると勝手に考えている。知恵によって溢れたる小瓶・安静なる云々とは長くて仕方ないので、筋骨隆々丸と呼んだ。それも面倒になったので、やがて筋丸とした。生前はさぞもてたであろう。私もまだ生きていたら、と思わざるを得ない。

 改めて筋丸の顔を見た。もうぼんやりとしか残っていないが、鼻筋は通っており、筋肉も発達しているのが目に見えているのでよく分かる。上腕二頭筋をうっとりと眺める。赤と青の血管が何重にも織り込まれ、しなやかで、かつ力強いものだった。私より大分腐敗が進んでいるので、死んでからもう1年程経っているのだろう。

 筋丸が死んだのは女に刺されたからで、彼女が親交のあったやくざに依頼して、彼をロッカーに放り込んだ後、コンクリートに埋めてしまったらしい。生憎そのコンクリートというのがビルの壁面で、1ヶ月程前に取り壊されてしまったのだ。その衝撃で彼は目覚めたのだと言う。上手い具合にコンクリートに切れ目が入ったんで、そこから這い出し、街を彷徨っていたところを両親に見つけられたのだ。彼には放浪癖があるらしく、棺に入れられた晩にこっそり抜け出して、今私の前に座っているということなのだ。そんなわけで今は空っぽの棺が土に埋まっているんだと。しかし彼は嘘つきだから、それも本当かどうかは怪しいものだ。いずれにせよ彼が物知りなことに変わりはない。

いい加減ウェイトレスがせかすもんだから、飲みもしないのに茶を頼んだ。ご飯の湯気が天に届くというが、おそらく天上人もそれを眺めるよりほかないと思われる。ただし、それにより自分の愛されていることを知るのは幸せなことのように思う。

私は彼に様々のことを聞いた。実は我々は鼻の穴は健在だが、嗅覚は頗る鈍っており、自分の腐敗臭すら分からないんだそうで、あるとき蝿がたかるので気が付いたそうだ。また、ある人など肺に穴があいてもそのまんま気付かずに半年は過ごしていたそうだから、実質我々は呼吸を必要としないんだと。彼はこれらを全て人伝いに聞いたそうだ。

重要な話も聞いた。なんと我々の魂は個人差こそあるが、一年ほどしか持たぬらしいのだ。これも人伝いらしいのだが、それはもうすっかりこちらの世界では常識になっているようだ。現世で言うところの寿命のような感覚らしい。筋丸は死んでからすっかり眠っていたんで、長くこちらにいられるのだそうだ。私はもう死んでから半年くらいは経っているような気がする。死んだときのことも何故死んだのかもはっきりとはしない。あとどれだけ生きられるのだろう、いや死んでいられるのだろう。

 楽しい時間はあっという間に過ぎた。久々にOLに戻った気分だ。後ろ髪を引かれる思いではあったが、引き止めても彼の放浪を止めることは自分には到底出来ないので、店を出て見送った。店員は二人が茶に少しも口をつけないのを見て、少々首を傾げた。それ以降、筋丸を見ることは無かったので、お先に天上人になったか、沖縄に行きたいとか言っていたので、そこを目指して筏にでも乗っているか、大方そのようなものだ。

 それから、母親には悪いことをした。電話があっても私が律儀に出るもんだから、まだ死んだことを知らない。声がかすれているわね、とか言っているが、私の喉にあいた細い隙間を見たら腰を抜かすのではないだろうか。真実を告げるのは、同性愛者よりも辛いように思う。

 近頃私の腐敗は目覚しい。初めの内は何度か自分の死んだことを人に伝えようとしていたが、最近は誰も近づいてすら来ない。そんな風だから、会社でも手持ち無沙汰でただぽつねんとしているよりほかは無いのだ。その内、出社するのが頗る苦痛になった。そうなると、朝起きてから会社に行くことを考えるだけで、吐き気がする。もう半年以上何も食べていないので、出るのは所々から入ってきた空気だけだが。

それに冬だというのに、コートも着ていられない。この前お気に入りのミンクのコートを勢いよく羽織ったら、肩の骨にすれて痛くて仕方がなかった。後で見ると、肩の肉がもうすっかり取れてしまっていた。背の方も同時に大分持っていかれたのだから、困ったものである。もっとも死人ゆえ寒くはないので、外出の折は軽いジャンパーを腕にかけることに決めた。

 会社の人は鈍感で、そんな様子を見ても、彼女妙なクスリにでも手を出したんだろう、とか噂しているので、もはや失笑に至る。私は死んだと感づかれた方が幾分都合がよいように考えていながらも、なんだかそれを暴露するのは恥ずかしい心持もあり、隠せるなら隠そうと考えていた。もう気付いて欲しいのやら、気付いて欲しくないのやら、複雑なる乙女心に揺れている。

 めっきり寒くなってきて、月で言うと2月にさしかかった頃に、雪の降った日があった。雪はまさにしんしんと降り続いていた。それをぼんやりと眺めていると、急に馬鹿らしくなって、久々に会社を休んだ。それで昼真っから炬燵でごろりと寝返りなど打って遊んでやった。炬燵の淵に毛が40は挟まって、ごそっと抜けた。もうそれが最後の髪の毛だった。

 女の髪が無くなるというのは、悲しいもので、いよいよ自分が女でないような気がした。化粧も出来ず、髪も無い。胸だって数ヶ月前にどこかに落っことしてしまった。唯一自慢だった、ふくよかな唇が残っているのは嬉しいが、かさかさとしている。そんな有様を見て、どうして女と認めることが出来ようかと考えると、もうやるせなくなって、藁にもすがる思いで、リップクリームを唇に押し付け、せわしなく左右に動かした。すると、ついに唇はびよんという間抜けな音を鳴らして落っこちた。灰色の暖かそうな絨毯の上に、薄くかすれた明度のない赤い唇が、ただ、ある。私は憐れになって、ぽろぽろと涙を流した。それはどうしたことか、からからの涙腺より流れ落ちたもんだから、びっくりしてしまったが、すぐに合点がいった。ついに私も天上人になったようです。


 思った以上に何もなかった。見渡してみると、ぼんやりとした白い玉が大小問わずばらばらとたくさん浮いている。真珠のようなものもあれば、30センチくらいのもある。私は真っ白なその空間でしばらくたたずんでいたが、その玉に規則性があることに俄に気が付いた。あまりにも要領を得ないので分からなかったが、それは広い幅で一列に並んでいる。それはともすると10キロくらい続いていた。私はすることもないのでそこに加わった。列は少しずつ前に進んだが、その先頭が見えるようになるまでは1ヶ月くらいかかった。先頭には何やら人に似たものの姿が三つ程ある。それがこの列を少しずつ進ませている。その姿がはっきりと見えてくるまでに百以上の湯気を見たが、それが誰に上げられたものなのか分からないもんだから、みんなそれが自分のものだと主張せんばかりに、一挙に何十ものめそめそという泣き声が発せられた。

 それから1ヶ月してようやく私の番が来た。白い人型は私に話した。

「ここはもうご存知かもしれないが、死後の世界だ。周りに見えるのは人魂。君も周囲からは同じように白い玉に見えている。小さいのは虫で、大きいのは君と同じ人間だ。ここまでで何か質問は?」

 あまりに淡々としているので、少し萎縮してしまった。よく私を叱った部長を思い出す。ここに来るまでよいことなど無かったもんだから、勝手に天上では優遇されるものだとばかり思っていた。私がまごついていると、人型はすぐにまた話し始めた。

「質問が無いようなので、続ける。国籍は日本。死因は自殺。間違いないな」

 そう言われて、自殺したことをようやく思い出した。もっとも自殺した理由は頭をひねっても出てこないんで、大したことではないように思う。

「自殺に関して特別弁護したいことはあるか。自殺は一等まずい死に方だから、弁護することを勧める」

 弁護した方がよいことだけはわかるが、弁護する内容も見当たらないので、ありませんと弱々しく答える。なんだかこの先よいことにはならないような気がしてきたので、頗る落ち込む。

「では前にある列の、右より6番目に並べ」

「今から私はどうなるのでしょうか?」

 このまま流れ作業で勝手に処理されても困るので、私はついに勇気を振り絞って聞いた。永遠の安らぎを得られる算段であったが、雲行きが頗る怪しい。どうも私はこれから何か悪刑を受けなければならなそうだ。

「まず死んだ理由により、百に分けられる。ここでは、自責が重いのが悪とされる。つまり最低を自殺。自殺だけでも10は分かれる。そして最も罪の無いのは善人の事故死だ。お前は、外的要因はあったものの簡単に死を選んだことから、下から6番目に悪い死に方と判断された。そのような経緯で、今から指示した列に並べ。処罰は追って指示する」

「処罰とはどのようなものでしょうか?」

「右端の列に並びたくなければ早くいくがよい」

 人型はそう言うと、次の玉を相手にした。

 何たる理不尽だろうか。私はもうしくしくと泣きながら、百はあるだろう列を右の方に歩いた。それから3時間は歩いて、列に並んだ。さっきの人型の話で、右端の列がよくないことは分かったので、そっちを見てみたが何ひとつこちらと違った様子は無い。

列には大きい玉ばかりあり、幾分狭苦しい。先頭はやはり見えなかったが、10日もすると同じように人型が見えてきた。今度は先ほどのような好奇心はかけらもなく、どのような処罰があるのだろうという、憂鬱しか生まれなかった。ここでは、どんなにしゃべってみても、誰も呼応しない。しゃべっている者もいないので、きっとしゃべっても周囲には聞こえないのだろうと思う。誰にも話せないもんだから、じいと一人で考えるしかないのである。暇だから、時々上がる湯気に皆にならって泣いてみたりする。泣き声だけは聞こえるんだから不思議なものだ。

 また10日程経った頃に私の番が来た。もうすっかり覚悟していたので毅然とした態度を取ることが出来た。今度の人型は優しい口調だったので、いくらかましだった。地獄に仏とはよく言ったものである。

「あんたも若いのに命は粗末にするもんじゃない。もう何人もそんな人を見てきて、段々と事務的になってくのが嫌でな。時々、こうやって話をするんだ。それでも何百人に一人って割合でな。近頃はめっきり忙しくなっちまって」

 人型は嘆くようにそんなことを話した。何とか助けてもらえはしないかと、私も調子を合わせては愛想笑いなどをして見せた。

「ここでは自殺が一番悪いことだと聞いたんですが、殺人やなんかの方がましというのはおかしいように思うんですが」

「そいつは勘違いだ。人殺しをしたヤツは皆真っ暗な世界に千年は入れられるんだよ。だもんで戦争があったときなんかは、真っ暗の場所がパンク寸前になるのさ。最も、こちらもパンク寸前に相違ないんだが。まったく、どうして人間なんてもんを作っちまったんだろうな」

「あなたは人間ではないんですか」

「いや、わしは違う。作った方に近い。あれを作ったのはもっと偉い方なんだがね、わしもそのはしくれなんだよ。まあ君らで言うところの神様ってものに近い。まあ偉い方が自分に似せたもんだから、君らとわしらの違いなんてそうあったもんじゃないんだがね」

「そんなものですか」

 私がこの現実味の無い話に、感嘆にも似たなんとも間の抜けた声を出すもんだから、人型は思わず噴出してしまった。彼を人型というのもおかしいような気がして、私が神型なんだろうな、などとぼんやり考えた。

「少し時間を食いすぎた。後がつまってるもんだから、早く済まそう。今の心境はどうだ。後悔してるとか、そういったことで。つまり自殺したことについて、思ってることが聞きたいんだ」

「はあ。そう言われても、あまり覚えてないんですよ」

 彼はまた噴出した。

「たまにそういうのもあるが、大事なことだ真剣に答えてくれ」

 そうは言われても、覚えてないものは覚えてないのですっかり口ごもってしまった。

「本当に覚えてないのであれば、口頭でも構わん。反省してると言いなさい。実のところ、我々は君らの心を読めるもんだから、分かってしまうんだよ。だけれども一応形式として口頭の確認が必要なんで聞いている。つまり君の反省の弁さえ聞くことができれば、それを通してやれるのだ」

 彼は親しげな笑みを浮かべたので、私は申し訳なさそうに反省しているの弁を述べた。

「よし、では5つある内の左端に並びなさい。そこは一等ましなところだ」

 私はほっと胸を撫で下ろし、その列へ並んだ。順番を待っている時にふと、後ろを振り返った。彼はまた違う玉を相手にしている。話は聞き取れないが、私は彼の言葉に嘘がないか気になって仕方なかった。というのも、彼が読心術を持っているのなら、彼を抱き込もうという下卑た考えもお見通しということになる。それを知って、心中では怒り、私の嘘の証言を盾に、最も悪い列に並ばせたのかもしれないと不安になったのだ。それからの数日は心配で気が気ではなかった。結局のところ、いらぬ心配であった。

同じようにまた人型が隣についた。違うのは、目前に急に門が二つ現れたことだ。

「自殺6列において、ここはもっともよい場所だ。これからお前は二つの門を選ぶこととなる。一つは輪廻転生・現世に舞い戻る門だ。次の一生は、バッタということになっておる。何、これは既に決まっていることだ。これより下にはみじんこや便所虫なんてのもある。家畜というのもあったかな。もっとも他についてはあまり知らんのだが。勿論バッタになるにも、手順がある。まず二百年ばかし君の体を切り刻む作業になる。これは痛みを伴うが、ショック死するほどのものでもない。君の体をそのままバッタにする訳にもいかないので、一度細かくして組織を作り直すのだ。ばらばらになった君の細胞をそのまま百年とちょっと寝かして、バッタの細胞になるのを待つ。その際、君は動かずにじっとしているのと、各部の痛みに耐えなければならないのだが、これもだいたい40年くらいで分からなくなる。もうすっかりバッタになってしまって、人間だったことを忘れてしまうからだ。その後に、それをすっかり凝縮して球状になったところで、目ぼしいバッタの卵を探すわけだ。タイミングがよければ50年、悪ければ二百年はかかるな。ある年なんかバッタが大量に産まれたもんだから、1年と待たずに出て行ったこともあった。それが輪廻転生の門だ。もう一つは、魂償却の門。ここでは現世の業を全て償い、魂を浄化して、全てを無くしてしまう。それにはおよそ六百年の償いが必要で、業火で身を焼くというのと、体を数万本の刃が貫くのと、水中で窒息するのをそれぞれ百回は繰り返さねばならん。それは辛いことだが、最後には想像を絶する快楽と共に無に帰すのである。ちなみに水生生物の場合は、水中の変わりに電気を流す。電気うなぎはうんねん…」

 人型は、他にもいくつか例を挙げたが、だいたいこのようなことを言った。どれも信じられないくらいの処罰だったので、血の気が引いた。およそ人間の受ける処罰ではない。私はなんとか逃れる策を考えて、自殺しようと思ったが、あたりに首を吊るすことのできるものは無く、また舌を噛んで見ても痛いだけで死ぬことは出来なかった。

「ここでまた自殺をしようとしたら、刑が長くなるだけだぞ。一度死のうと試みたんで、今のところお前の刑罰は50年は増えた」

 私は冗談ではないが、自分の行動で首をしめる結果となったことに苦笑した。そうしてもうなん百回と自殺したことを悔いているが、中でも一番に悔いた。出来ることならやり直したいのだが、やり直すにも大きな苦痛のかかることを知っている。私はどうすることも出来ずに、うなだれながらも魂償却の門を選んだ。

「ではやり遺したことはないか」

 私はそう言われたので、急いでこれを書いて、先程の人型に届けてくれ、と言った。人型は、悪いがあちらの人型とは交流が無いんで渡せないかもしれない、と弱気になっているので、人型にもいろいろあるのだなと妙に達観した心持になった。結局、人型がそれを渡したのかどうかは私には分からない。

 私は今まさに償却されようとしている。ふと後ろを振り返ると、やはり真っ白な空間に白い玉が頗る要領悪く列をなしている。聞こえないとはしても、なんだか最後に言ってやりたくて言葉を捜したが見つからず、意味もなく大声で、お前の母ちゃんでべそ、と悪態をついたら、刑期がまた10年ほど延びた。

 門の中は何とも形容しがたい光景で、夏目漱石や芥川龍之介でも筆を落とすものと思われる。私はまずは炎に身を投じる様子である。熱風で頬が痛い。

それではさようなら。最後に筋丸よりほかに浮かぶ顔はなかった。ちくしょうめ。

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[一言] 読まさせていただいたので僭越ながら評価などをさせていただきます。 文章評価ですが、中々に変わった書き方をされているようですねぇ。OLがそんな喋り方をするか、と言われれば答えは当然ながらNO…
[一言] 掲示板よりうかがいました香住です。 地の文が男性的で、「女のはしくれであるから」というところまで読まないと、主人公が女性であることがわかりません。いかん・昼飯・茶・悪態の付き方などの言葉…
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