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悪役令嬢に転生したおっさんだけれど、やっぱり王子より女の子の方がいいよね  作者: 於田縫紀
第7章 逆恨みの戦塵

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第84話 思わぬ救援

 状況は膠着状態だ。

 元枢機卿からはあれ以降攻撃は無い。それはそれで楽なのだが、MPがジワジワと増えてきているのが嫌だ。時間と共に回復しているという事だろう。


 あの最強攻撃魔法を撃ってこられると私でも対処できない。MP的にまだまだ撃ってこないとは思うけれど。


 今のところ魔物の群れは街の方へは行っていない。どうやら元枢機卿は街より私を倒す方を重視しているようだ。そういう意味ではリリア達や街は安心だ。


 でもそれは同時に全ての魔物が私の方へと向かっているという事でもある。今回初射撃、いや起動の曲射用疑似榴弾発射魔法、通称ハンマーで広範囲に叩いているのだがきりがない。


 しかも集まっては仲間を踏み越え、土壁を乗り越えてこようとする。そのたびに魔法で周囲の魔物をぶっ飛ばさなければならない。だからちっとも休まらない。あと魔力ポーションまずい。


 あたりはすっかり暗くなった。まだ空間は乱れたままだ。戦況も変化なし。自在袋に入れておいた非常用のサンドイッチをぱくつく。魔力ポーションのおかげでもはや味がわからない、


 あとどれ位耐えれば状況は変化するだろうか。サクラエ教官とかA級冒険者とか、まっとうな連中が助けに来てくれるだろうか。


 ワレンティーナさんも強そうだったよな。A級程度の腕はあるだろう。でもユーダルは決して近くない。しかもあそこのギルドの責任者だ。おいそれと離れられない。無理か。


 そんな事を思いつつ作業のように敵を倒してはポーションを飲みを繰り返している時だった。


 やばい魔法の気配がした。元枢機卿の魔性アルコーンではない。でも明らかにヤバい威力の魔法だ。私はとっさに常時展開自動防御魔法(パーツィバル)に全力で魔力を回し、中級魔力ポーションを開ける。


 すぐに衝撃はやってきた。空から叩きつける大小の隕石群。

 間違いない。この魔法は五番目の月(フィフス・ルナ)。これを使うのはこの国では1人しかいない。血統的に受け継いでいる筈のインバラ侯爵家でも現在1人だけだ。


 周囲の魔物の気配が急減する。ここを脱出できるか。一瞬そう思ったが無理そうだ。安全圏が遠すぎる。魔物の後続がまだまだ続いている。


 それにしても何故マリアンネ様の超級魔法が。そう思った時だった。

 

『アン、聞こえるか。大丈夫か』


 やな奴から伝達魔法が入った。でも涙が出る程ありがたい。孤軍奮闘といえば聞こえがいいが実情は雪隠詰めだ。涙が出てくる。


『聞こえますわ』

『遅くなってすまない。今、そっちに向かっている』


 無茶苦茶ありがたい。有り難すぎて涙がとまらない。でもちょっと待って欲しい。ここは魔獣がわんさかいる戦場だ。


『まずいですわ。殿下がこんな危険な場所に来ては』

『僕だけではない。リリア、ナタリア、リュネット、ナージャ、それにマリアンネとアニーもいる』


 やばい、涙が駄々洩れ状態だ。でも何でこうなったのだ。マリアンネ様がいるのは魔法でわかっている。でも状況がわからない。


『あと半時間(30分)程度でそこまで行く。それまで耐えてくれ』


 それくらいなら大丈夫、耐えられる。そう思って、そして少し冷静になる。

 助けに来てくれたのは本当に嬉しい。でも嬉しいばかり思っていてはいけない。奴らは私にとって大切な連中なのだ。背後にあるカワルマタの街、いや私にとってはこの世界で一番に。


 だからあえて期待とは逆の事を伝達する。

『危険ですわ。敵はかなり強力な遠隔攻撃魔法を撃ってきます。私1人でも耐えるのがやっとの威力です。狙われないうちに急いで撤退して下さい。私は当分大丈夫ですから』


 私1人ならあのやたら強い攻撃以外は耐えられる。でも皆の魔力だと危険だ。私1人ぎりぎりの範囲で常時展開自動防御魔法(パーツィバル)を起動して耐えてもMPが300近く減ったのだ。

 大人数で食らったらMPも倍以上は必要な筈だ。リリアの魔力が完全でもMPが足りない。


『心配ない。僕の魔力をリリアに完全連結している。この状態でリリアが常時展開自動防御魔法(パーツィバル)を起動していれば何とかなる筈だ。リュネットもいつでも回復魔法を起動できる。アンが耐えられる攻撃ならこれで何とかなるはずだ』


 そうか、その手があったかと思う。確かにリリアと殿下を足せば私に近い魔力量になるな。そう思った時だ。


『お姉さま1人で無茶しないで下さい!』


 リリアが割り込んできた。


『襲撃してくる魔物を1人で抑えるなんて、いくらお姉さまでも無茶です。無茶過ぎますわ!』


 確かに自分でも無茶していると思っている。おかげで手詰まり状態だ。だから正直ありがたい。涙が止まらないほどだ。


 こんな姿、リリアには見せられないなと思う。清拭魔法を起動してさっと涙と汚れを落とす。私は侯爵家令嬢、アンフィーサなのだ。どんな場所でもそれらしくあらねばならない。少なくともこの国では。


『単に成り行きでこうなっただけですわ。それより街の方はどうなりまして』

『冒険者ギルド支所での事は聞いた。戻ってきた偵察担当冒険者やギルド支所長の報告も既に上がっている』


 あの遠隔移動魔法(ワープ)、無事に街まで届いたようだ。


『だが近衛騎士団も第一騎士団も動こうとしない。堪らず国王陛下(ちちうえ)が勅命を出したがそれでも理由をつけて出撃準備を遅らせている始末だ。また重職にいるのに逃げ出した貴族も多数いる。結果、衛士隊と冒険者の有志で街の北側を防衛するのがやっとだ。ここまで腐っていたとは僕も思わなかった』


 予想以上に酷いな、うちの無能貴族共。さしずめうちの実家なんかも真っ先に逃走したクチだろう。


『そんな状態なのによく、来てくれましたわね』


 やばい。また涙が出てくる。でも泣いてなんかいられない。


『その辺の礼は後でリリア達に言ってくれ。ここまで来れるのはリリアの作戦のおかげだ。僕とリリアの魔力で防御魔法を展開。マリアンネの攻撃魔法で敵を薄くして、ナージャの猛獣追牙改(バキドー)やナタリアの福音(エウアンゲリオン)で敵を切り開きながら進んでいる。こんな作戦考えもしなかった』


 何だその脅威の戦闘システムは。確かにそれならこの敵密度がやたら濃い中でも進めるだろう。私1人と比べると圧倒的に手数と攻撃力が大きい。

 それにしてもだ。


『まさかマリアンネ様とアニー様まで来ていただけるとは思いませんでしたわ』

『逆ですわお姉さま』


 おっと、何だリリア。


『どういう事ですの』

『マリアンネ様が言ったのですわ。行かないのなら、私達だけで出ますわよって。アンフィーサ様なら戦力さえある程度揃えば絶対何とかする筈ですわって』


 うわっ、そう来たか。まさかマリアンネ様が……おかげで私はまた涙が止まらなくなる。

 こうなったら逃げるだけではない。期待に応えて勝ちを取りに行くとしよう。


 私の頭脳がフル回転を開始した。


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