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第67話 悲しき顛末

 ついに決勝戦だ。

 国王陛下に礼、お互いに礼。

 審判の伝達魔法が起動して告げる。


『試合開始』


 開始と同時にリリアは鉄壁(ナイトハルト)を、ナタリアは福音(エウアンゲリオン)を起動する。福音(エウアンゲリオン)で出現した巨人は2体。作戦通りだ。


「やはり向こうも無詠唱で発動出来たんだね」


 リュネットの言う通りマリアンネ様は五番目の月(フィフス・ルナ)を無詠唱で即時起動。ここまでは予想通りだ。

 だがアニー様がやはり無詠唱で起動した魔法が違う。


「アニー様、魔力譲渡かにゃ」

「ああ。防御を捨てて全力で来たな」


 2人の言う通りアニー様が起動したのは補助魔法の魔力譲渡。つまりマリアンネ様は自分の魔力プラスアニー様の魔力で魔法を維持できる状態になった。


 おそらくマリアンネ様も私と同じような戦力分析をしたのだろう。お互いの魔力や出してくる可能性のある新魔法を含めて。


 その結果、今まで通りでは勝ち目が薄いと判断。だから2人の全力で一気に攻撃を仕掛けるという作戦に出た訳だ。


 2体の巨人と落下した大岩が互いに相手のダミー人形を襲う。大丈夫。リリアの鉄壁(ナイトハルト)ならある程度の時間は守れる筈だ。今の攻撃に動揺しなければ。たとえ2人がかりの五番目の月(フィフス・ルナ)であっても。

 そうは思うのだがやはり心配だ。


 五番目の月(フィフス・ルナ)が起こした砂埃で試合場内部はよく見えない。

 だが審判の試合終了を告げる伝達魔法が流れる。


 試合場内部の砂埃が急速に晴れていく。教官の誰かが風魔法を使ったのだろう。

 まっさきにリリアとナタリアを確認する。2人とも普通に試合開始位置に立っている。怪我も魔力枯渇等も無さそうだ。


 マリアンネ様達の方はアニー様がふらふらの状態。マリアンネ様が肩を貸している。これはおそらく魔力枯渇だ。見た限りは怪我等は無いようだから。


 そして勝負は……視線がダミー人形の方へ向く。

 一目瞭然だった。リリア達の方のダミー人形は試合前と全く変わらない。一方マリアンネ様達のダミー人形は上半身が無くなっていた。


『主審で御前試合副委員長のサクラエだ。今のはいい試合だった。だが展開が早すぎて何が起きたか追えなかった者もいると思う。だから蛇足と知りつつも解説をさせてもらおう』


 そんな伝達魔法が流れる。

 なお試合会場内部にはこの伝達魔法は流れていないようだ。アニー様に救護の教官が駆けて行ったり、リリア達が待機していたりと試合終了が普通に進んでいる。


『まず試合開始直後、4つの魔法が起動した。無詠唱で、かつ即時起動という極めて実戦的かつ高度な手法でだ。これで……』


 私達が見て感じたのと同じ事をサクラエ教官が解説する。それぞれが起動した魔法の内容、何故マリアンネ様達が防御を捨てて攻撃重視の作戦に出たかの理由も。


『……以上、これが今の試合であった事だ。近年の御前試合にない高度な試合だった。敗れたとはいえマリアンネ選手もアニー選手も見事だった。ここは4人全員を拍手で迎えて欲しい。以上だ』


 うーむ、サクラエ教官、なかなかやる。

 今の試合を低レベルの連中が見た場合、理解できずにある事無い事想像してしまう可能性が高い。それをこの解説で封じた訳だ。


 この辺が有能かつ一部で嫌われるところなのだろう。私としては4人の為にも有り難い。あくまでこの措置は、だけれども。研究発表の恨みは忘れない。


 会場から拍手が巻き起こる。私達も拍手で4人を迎えた。


 ◇◇◇


「でも結局、御前試合の勝者はアンだった気が致しますわ。結果として全てアンの予想通り進んだのですから」


 表彰式後、リリアにそんな事を言われる。


「そんな事は無いです。御前試合に勝ったのはリリアとナタリアの実力ですわ」

「でも全てアンのシナリオ通りだったとは感じるのにゃ」


 こら(ナージャ)! そんな事を言うでない。


「シナリオを書いたのは私ではありませんわ。おそらくはサクラエ教官、更には陛下でしょう、きっと」


 私もシナリオに踊らされた方だ。間違いなく。


「そう言われればそうかもしれないな」


 エンリコ殿下、お前の同意はいらない。だいたいお前もどちらかというとそっち側だっただろう、魔法大会の関係では。


「そうだとしてもアンが優秀なのは事実だよね。御前試合の決め魔法も私の暗空咲花(アンスラサクス)もアンが作った魔法だし」

「研究発表の方でも大活躍だったと聞いたな。(王妃)に聞いた。次は初心者向けの手順込み魔法(プログラム)講習会もやるそうだな」


 おい待った殿下何だその地獄耳は。しかもそれは……


「あれはサクラエ教官の冗談ですわ」


 その筈だ。単に王妃陛下が言った話をサクラエ教官が冗談で返した。それだけの話だった筈なのだ。


うちの母(王妃陛下)は冗談だと思っていないぞ。自ら受ける気満々らしいからな。何を着ていきましょう。今度は生徒だからあまり派手なのは駄目ですよね。そんな事まで言っていたらしい。聞いた話だが」


 じ、地獄だ……

 初心者相手の講習会などろくな思い出が無い。実はおっさん時代にやった覚えがあるのだ。もちろん当時は手順込み魔法(プログラム)ではなく『事務作業従事者の為の表計算ソフト講習会』だったが。


 どんな地獄だったかは勝手に想像して欲しい。エロサイトを見る程度にしかパソコンを使えない相手に教えるのだ。それ以下の奴すらいたりする。半角数字と全角数字の区別がつかない奴も多い。ああ怖い、怖すぎる……


 今回の件で私はかなり泥沼に踏み込んでしまった。元々はこの学校で3年間きっちり学んでから脱出するつもりだった。でもそうも言っていられなくなる可能性が高い。


 一般人向けの服や旅装等も密かに整えて、いつでも逃げ出せるよう準備をしておいた方がいいかもしれない。ポーション類も買いためておこう。


 正直皆と別れるのは辛い。だからそんな事態は想像したくもない。リュネットやナタリアとはまだにゃんにゃんしていないし。

 私は誰にも見られないよう、小さくため息をついた。


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