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第60話 本戦試合前に

 蜂蜜酒のようにねっとり濃密な時間から日常へ。

 リリア達は第2魔法演習場で昨日教えた魔法の練習をしていた。今日は残念ながらエンリコ殿下も一緒だ。


「ナージャ、もう大丈夫なのですか?」

「うん、心配かけたにゃ」


 よしよし、ナージャの方は今日のところはもう問題無さそうだ。今夜リリアと2人で相手をすれば明日も大丈夫だろう。ああ夜が楽しみだ。でもそういう本音は言わぬが花。


「リリアとナタリアの方はどうでしょうか」


「これで大丈夫ですわ。鉄壁(ナイトハルト)六聖獣絶対防護魔法(サヴァタージ)よりむしろ簡単な呪文ですから」


福音(エウアンゲリオン)は私の魔力では2体が限界のようです。エンリコ殿下は5体まで出せましたし、リリアは6体、リュネットも4体出せましたけれど」


鉄壁(ナイトハルト)は無理だったが福音(エウアンゲリオン)は何とか僕でも使えるようだ。便利だし強力だなこの魔法。時間限定だが超級魔法並みの威力がある。しかも使いやすい」


「私でも使える攻撃魔法ははじめてだね。以降いざという時には重宝するな」


 おい待て、リリアやリュネットはともかく殿下まで福音(エウアンゲリオン)をおぼえてしまったのか。でもまあ、同じパーティそうなってしまったのは仕方ない。私の本意ではないのだけれど。


福音(エウアンゲリオン)については出来るだけ秘匿しておいて下さいね。使いやすい分、悪用されると大変な事になりますから」


 そう言うにとどめておく。いや実際ヤバい魔法ではあるのだ。


 元々魔法適性があまり必要ではない獣人用の魔法ベース。だから魔力そのものさえあればほぼ適性に関係なく誰でも使う事が出来る。


 しかも召喚するのが人型なので汎用性はかなり高い。しかも召喚体は精霊的存在だから通常の方法では攻撃を受けないときている。


 こんなの犯罪に使われたらとんでもない事になるし、戦争に使われた日には目も当てられない。


「わかっている。ただ父上達に報告するのは許して欲しい」


 それは……まあ……仕方ないか。でも言っておこう。


「この福音(エウアンゲリオン)猛獣追牙(バ・キ)群狼猛襲(ピクル)とほぼ同じでナージャの獣人魔法獣牙(バ・ガ)を少し変化させただけの魔法です。ですから功績は私ではなく、獣人魔法を教えてくれたナージャにありますわ。そのことは間違えないでくださいね」


 栄誉なんてもういらない。自由の邪魔になる。


「アンは無欲だよね」


 いやリュネットそれは違う。強欲だからこそ引くべき時もあるのだ。


「ああ。父上にはナージャとアン2人の功績だといっておく」


 エンリコ殿下それは違う。私はいらない。これ以上はこの場の雰囲気で言えないけれど。


「それでアンの方はどうでしたでしょうか。大会での発表は教官がされるのですか」


 ああ、そういう名目でナージャのところへ行ったんだよな。そう思い出す。


「今頃サクラエ教官が発表していると思いますわ。でもあれはあくまでサクラエ教官の研究で、私は単にヒントを出したに過ぎませんから」


 これは私の願望だ。頼むこれ以上私を持ち上げないでくれ。逃げられなくなる。


「失敗したな。見に行けばよかった。アンがどんな事を考えついたのか興味がある」


 こらエンリコ殿下、余計な事を言うな。


「お昼からは御前試合ですし、今のうちにゆっくり昼食をとっておきましょう。試合形式も少し変わるようですし、組み合わせもまだわかりません。それにここで使った魔力をある程度は自然回復させた方がいいでしょう」


 こう言ったのは勿論話題を変えるためだ。


「今日も特製弁当がありますの。家の料理人に持たせて貰ったのですわ」


 おっとこれは期待出来る。


「それは楽しみだ。昨日は食べられなくて悔しい思いをした」


 こら殿下、お前に食わせるタンメンはねえ! いやタンメンじゃないだろうけれどさ、言ってみたかっただけだ。実際には言えないけれど。


「どちらでいただきましょうか」


「テーブルがあって食べやすいというと、やっぱり第一演習場の控え室かな。もう試合の組み合わせも出ているかもしれないし」


「確かに組み合わせは気になります」


「マリアンネ様とは何回戦になるでしょうか」


 組み合わせと言っても気になるのはそれだけだ。マリアンネ様の組以外は基本的に雑魚だから。


 第一演習場へ行くと既に受付が開始されていた。まだ開会式開始まで1時間近くあるのに人も結構いる。一般観客入口は長い列が出来ていて、先頭から順番に受付して入っていっているようだ。


「随分と今日は人が多いのですね」


 昨日の予選はそうでもなかったのだけれども。


「超級魔法を使う出場者が2組もいる。それが結構評判になったようだよ。寮でも皆言っていたしね。明日は見に行くよって」


「そのようだな。僕もそう聞いた。王立学校の生徒に3人も超級魔法を使える生徒がいるというのは珍しい事態らしい。それに超級魔法を見る機会なんてのは一般にはほとんど無いからな」


 確かに言われてみればそうだなと思う。事実私は超級魔法を使えないし。何だよこの器用貧乏という称号は。

 ただどんな属性でも使えるというのは確かに便利だったりもする。金属性魔法で魔砲少女ユニットもメンテナンス出来るようになったし。


 選手等入口は並んでいない。入口の受付に顔を出す。


「リリア様とナタリア様のパーティですね。受け付けました。今日は3番の控え室を使って下さい。こちらがトーナメント表で、こちらが本戦からの新試合様式の説明になります。説明の時間もありますが、事前に読んでおかれた方がいいかと思います」


 この新試合様式というのが昨日サクラエ教官が言っていたものだな。そう思った時だった。


「あとアンフィーサ様にはサクラエ教官からこちらを渡すように言付かっております。回答はできる限り早めにお願いしますとの事です」


 おい待てサクラエ教官、何を押しつけたんだ私に。そう思いつつ表面上はにこやかにその書類袋を受け取った。


「何なのでしょうか、サクラエ教官からというのは」


「後でみますわ。それより控え室でトーナメント表と試合様式を確認致しましょう」


 嫌な事はとりあえず後回しにしよう。

 

「それに今日のお弁当の内容も楽しみだにゃ」


 その通りだな、ナージャ。 


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