第46話 国民で貴族だから仕方ない
誤字報告、今回もありがとうございます。我ながらトリ頭でいかんです。ワープロの校正機能まで使ったのに……
また何かありましたら、どうか宜しくお願いします。トリ頭の狸を助けると思って……
「ところでアンやリリア、ナージャは秋の競技会には出ないのかな?」
一気に話題が変わった。
確かに秋の競技会、以前は私も出る気だった。でもそれはエンリコ殿下の気を引くためだ。ここまで仲良くなってしまったのならもう必要は無い。
「あれは3人1組ですから。私達のパーティでは人数的に難しいですわ」
そう言って誤魔化させてもらう。
「それではこのグループで校内魔法大会に出てみる気はないか?」
殿下が今度はそんな事を口にした。
「校内魔法大会とはどんなものなのにゃ?」
ナージャやリュネットが知らないのも無理はない。この学校独自の行事だから。
「この学校で学んだ成果を発表するお祭りですわ。研究成果や学習成果を講演と実演を交えて発表したり、御前試合で戦ってアピールしたりします」
勿論私は出るつもりはない。そういったアピールは私には不要だ。むしろ逃げるのに邪魔になる。冒険者として役に立つ実戦的な魔法や技術が使えれば充分だ。
それにこの魔法大会自体、私はほとんど評価していない。
「面白そうにゃ」
「実際はそうでもないですわ。研究発表は役に立たない形式的な内容ばかりですし。御前試合も実戦的なものより魔法の華麗さや複雑さを競うものになりさがっていますから」
これが私の率直な感想だ。エンリコ殿下が苦笑して口を開く。
「アンは厳しいな。でも父もそう言っていた。だからアン達と相談して今年の大会を引っかき回して欲しいとの事だ」
おい待て陛下なんだそのやんちゃなご意見! 少しは立場を考えろ! 下々の者が言うと忌憚の無いご意見とか御冗談とかで済むものも陛下が言うと命令に準じてしまうのだぞ。少しは自覚しろ!
なんて言えない下々の一人としてせいぜい抵抗を試みる。
「私は高等部に入学したての一介の生徒です。そんな上級生の方々を驚かせるような魔法の技術も知識も持ち合わせてはおりませんわ」
つまり、『子供だからわかりませーん』作戦で誤魔化そうという案だ。
「父はそう思ってはいないようだな。マノハラ領で見た料理や入浴施設から、魔法についても何か新しい考えや案を持っているだろうと言っていた。実際に迷宮で少しは見せて貰ったしさ。あの件は約束だから言っていないが」
おい待て陛下。それは買いかぶりだ……ああマノハラ領でやりたい放題やってしまった事が今では悔やまれる。そう思ってももう遅い。
「既に魔法理論研究科のサクラエ教官に話を通してあるそうだ。本来生徒は入れない国立図書館の非公開書庫にも入れるよう手配もしてくれるらしい。更にやってくれたら騎士団専用に使っているクーザニ迷宮の下層部分も自由に入れるようはかってくれるそうだ」
うっ! 痛い処を突いて来やがった。
確かにここカワルマタにいる間、戦闘訓練出来る場所はクーザニ迷宮しか無い。でも既に民間公開部分の敵では弱すぎてレベルが上がりにくい状態になっている。ここで下層に入れるようにして貰えればかなり嬉しいのは確かだ。
また国立図書館の非公開書庫に入れるというのも魅力的だ。ゲーム上ではエンリコ殿下の計らいで陛下とリュネットがここに入り、強力な魔法を発見して入手するというシーンがある。これで最後、私を含む悪役一派を倒すのだ。ああそんな貴重な魔法を手に入れたい……
仕方ない。それに国王陛下の発言だから元々断るなんて事は国民であり貴族として出来ないのだ。だから仕方ない。決して誘惑に負けた訳ではない。
「わかりましたわ。まだ何も案は思い浮かびませんが、皆で考えたいと思います」
やるにしても私の評価が上がってしまうのはこまる。だからここは皆を巻き込もう。特にリュネットの評価を上げなければいけない。無事殿下とくっつくように。
私が国外脱走する為にもこれは重要だ。
さて、出来そうな事は何だろう。
無詠唱魔法の披露なんてのは駄目だ。実戦には確かに有効だけれども。実際にはある程度の冒険者なら簡単な魔法は無詠唱で使用しているようだし。
それに貴族の皆さんは実戦的であるよりも優雅さと華麗さ、複雑さに価値を見いだす癖がある。どうせならその辺でも度肝を抜いてやりたい。そうしないと正当な評価をされない可能性がある。
もちろん美しければそれでいい、なんて訳ではない。あ、美しければそれでいいってなにか覚えがある。シムーンの主題歌だったっけか。でも空に紋章を描いて神に供えるなんて無理だよな……
そこまで考えてふと思いついた。そうか、その手がある。
勿論飛行機械や飛行魔法で空に絵を描く訳ではない。花火だ。夜空を彩る光の芸術。これを持ち込んでやろう。これほど派手な魔法は私の知っている限り無い筈だ。これを研究発表に持ち込もう。
勿論私も中のおっさんも打ち上げ花火を作った事など無い。それに筒で花火を打ち上げるなんて下手したら大砲に繋がるかもしれない技術を教える訳にはいかない。その辺は魔法を使ってごまかそう。
幸い空に物を浮かせるなんてのは風属性魔法で出来る。炸裂させるのもやはり風属性魔法を使わせて貰おう。円形に広げるとかは術式や魔法陣を描いた紙を仕込めば出来る筈だ。
ただ光を放つのはおっさんの知識を使う。炎色反応だ。ストロンチウムが赤で銅が緑、ナトリウムは黄色だっけかな。その辺をある程度の時間燃えるものと混ぜ込んでやればいい。
希少金属でも探せば学園内の資料室あたりにあるだろう。何せ混合物や化合物を魔法で単体に分離できる世界だ。そしてここは国内最高峰の王立学園。物が揃っている事についてはイルワミナ随一だ。
発表者はリュネットにやらせよう。リュネットは聖属性魔法に強いが攻撃魔法にならない程度の光属性魔法も使える。だから空に上がった花火を光属性魔法の増幅でおもいきり輝かして貰おう。
私はこれについては舞台裏担当だ。風魔法は得意だし正直私の評価は上げる必要は無いから。
さて、研究発表用の派手なのはとりあえず方針を考えた。あとは御前試合についても考えよう。
御前試合は本来は魔法戦闘の腕を競い、強い方が勝つという当たり前のものだったらしい。でも今はいかに華麗な技を出すか、複雑な魔法を出すかに重点がおかれ実戦的な強さは無視されている。この辺が陛下が『引っかき回せ』と言った理由でもあるだろう。
だが相手が長い呪文を唱えているところをあっさり単純な呪文で倒したら、今までの風潮に慣れている皆さんから大ブーイングを食らう事必須だ。その辺は考慮する必要がある。
あと御前試合は2人組で出場。だからリリアとナタリアにやってもらおう。リリアにもいいところを見せてもらいたいからな。
それにしても今の処すぐに使えそうな魔法は思いつかない。洒落にならない魔砲少女ユニットのヒトマル発砲なんてのはあるけれど。あれは公にするつもりはない。
それにあんなのを撃ったら相手が間違いなくお亡くなりになる。あくまで審判や審判補助の先生・教官が止められるのが前提だ。
その辺については国立図書館の非公開書庫に何か面白い物があるかもしれない。ならちょいと本気になって書庫に潜ってみるのもいいだろう。どうせ強力な魔法を探す為に潜ることになるのだし。