第37話 魔砲少女の設計図
発想はどんどん暴走していく。最初はRPG-7の魔法版だった。それがAPFSDS弾仕様になり、更に魔法陣や魔法式による目標誘導能力が加わって……
気が付けば紙上の概念図は21世紀の現代兵器とこの世界の魔法が組み合わさった怪しく危険な代物になっていた。
使用方法は簡単。魔法検知で敵を認識した後、目標を念じながら専用の攻撃魔法を起動すればいい。そうすれば砲が自動的に最適な方向を向き、停止魔法で固定され弾体が発射。音速以上の速さで突き進みほぼ確実に命中。原理的には戦車の装甲すら侵徹する威力の前にはファンタジー世界の大物も……
なお銃身の大きさは最大のもので口径12指で長さ約530指。この大きさは単なる趣味だ。44口径120ミリ砲、つまり21世紀初頭の西側主要国の主力戦車に搭載された主砲とほぼ同じにしただけである。愛称は10式で。ラインメタルL44にしようかとも迷ったが中のおっさんは日本人なので。
もちろんこんな化物は持ち歩けない。専用自在袋が必要だろう。弾も各種詰め込む必要がある。でも基本的に魔法制御だから持ち上げたりする必要は無い。これでアウトレンジから狙えばどんな敵だって一発だ。
なおこれは超大物専用なので、それよりは小型のものも作成したい。出来れば直射タイプと曲射タイプの2種類。
直射タイプは大型とほぼ同じ設計で、サイズだけを小さくするつもり。連射できないのは数作っておく事で誤魔化そう。口径は25ミリで銃身2メートルちょい。愛称はブッシュマスターだ。
曲射タイプは直接照準できない森の中とかを狙う為のもの。だからイメージは戦車砲ではなく迫撃砲。そんな訳で設計は81mm迫撃砲に似せる。弾には推進剤の氷と風魔法による弾道制御付。弾は基本的には魔法により水蒸気爆発を起こして破片をばらまく榴弾で。愛称は当然ハンマーだ。
小銃程度の護身用も出来れば作成したい。だが連射機構を設計できる自信が無いので銃身を束ねて弾を多く装填できるようにしておこう。なお全ての弾には魔法陣で目標への誘導機能をつける。砲弾でも銃弾でも。これの愛称はネタにした元銃が無いから単に魔銃でいいか。
私の魔法検知は迷宮内でも100腕程度の距離でスライムを識別可能。屋外でゴブリンリーダー程度の魔力反応相手なら、方向さえある程度絞れば間に1離の距離があっても検知できる自信がある。
この距離でアウトレンジ攻撃をかければ相当に強力な魔物でも一方的にボコれるだろう。ふふふふふ。魔法を使用した砲を使うから題して魔砲少女。うん、おっさん的駄洒落だがおさまりもいい。これらの武器の総称を魔砲少女ユニットと名付けよう。
なお私は現在16歳。16歳はもう少女と言えないのじゃないかと言う人もいるかもしれない。でもここで私はあえて言いたい。女の子は何歳になっても少女なのだ! だから私が使う砲撃セットが魔砲少女ユニットでも問題無い。異議あるやつは出てこい。ユニットが出来次第的代わりにして試射してやる。
ところで何故この魔砲少女ユニットのようなものがこの世界に無かったのか。一介の高等部学生である私が設計できるような簡単な代物なのに。その理由は簡単。攻撃魔法というもっと安直に使えるものが昔からあったからだ。
私が今考えて設計図を引いた魔砲少女ユニットは魔法陣や魔法式を幾つも組み合わて作動するようにしてある。一つ一つの魔法陣や魔法式は簡単だし構造もそれほど難しくはない。でも使用する為には専用の道具を持ち運ぶ必要があるし弾のストックも必要。そんな魔砲よりも呪文だけで発動する通常の攻撃魔法のほうがよほど簡単だ。
ただこの魔砲の方が普通の攻撃魔法よりも有利な点も結構ある。たとえば射程。通常の攻撃魔法はせいぜい目に見える範囲までしか届かない。でもこの魔砲なら認識できる場所なら1離先へも届くし命中する。
それに攻撃魔法と違い、敵に物理的な攻撃を加える事になるのもメリットだ。しかも計算上は英雄クラスが聖剣で与えるのと同程度のダメージを大型の魔物に与える事が出来る。使用者が私であっても。
ただこの魔砲を作成する能力は残念ながら私には無い。物理的な製作能力が私には欠けているのだ。設計図も描いたし必要な魔法式も全部作ったけれど。だから製作は鍛冶場に外注する必要がある。ただ完成形の設計図を渡すのはまずい。こんなヤバい兵器が一般化したら治安が洒落にならなくなる。
これは魔法陣や魔法式を抜いた形で、更にバラバラの部品の状態で何カ所にもわけて発注するしかないだろう。組み立てるのと魔法陣や魔法式を刻むのは私自身がやるとして。ただ私は当分外に出る事は出来ない。その辺はどうしようか……
でもとりあえず設計は出来た。だからここは一息入れよう。そう思って完成した設計図を自分用の自在袋に仕舞い、筆記用具を片づけて部屋の外へ。おっと、いい匂いがする。トマトの酸味ある匂いとニンニクの匂い、それにチーズや肉系の匂いも。
「あ、アン、出てきたのにゃ」
ナージャがいち早く私を見つける。
「さっきは急に上にいっちゃったけれどどうしたの? 何かあったの?」
「ごめんなさい。本当に考え事をしていただけですわ」
事実本当にそれだけなのだ。だからちょっと皆に申し訳ない。
「ならいいですけれど。ところでこちらは先にお昼を食べさせて頂いたのですけれど、アンはどうされますか。お昼に作ったスパゲティミートソースは一応自在袋に入れてすぐ食べられるようにしてありますけれども」
思った以上に時間が経っていたようだ。確かにお腹が減ったような気もする。
「いただきます。確かにお腹も空いていましたわ」
ナタリアが自在袋からお皿に盛ったスパゲティミートソースを出してくれる。先程部屋から出た際に感じた匂いが暴力的に広がった。
ものはお皿の上に大盛りにスパゲティを持盛り、その上にたっぷりと赤いミートソースが乗っかっていて、更に上に粉チーズの山があるという感じ。これは間違いなく美味しそうだ。
「それではいただきますわ」
この国ではフォークやナイフはない。箸とスプーンが基本的なカトラリー。だが中のおっさんにとっては箸の方が実は食べやすい。まずは麺を軽くソースやチーズと絡め、はしで口に運ぶ。
うん、ゆで加減も絶妙。生麺ならではのもっちり感がいい感じ。ソースも美味しい。肉の旨み、トマトの酸味と甘み、タマネギの甘み、ニンニクや生姜も含めていい味を出している。粉チーズも最高。これって前世を含めても最も美味しいスパゲティミートソースではないかという感じだ。
「とても美味しいですわ。こんなに美味しいのかと思う位に」
「良かったですわ。美味しいとは思ったのですけれど、アンに食べて貰わないと本当にこの味でいいのかがわかりませんから」
「私も本で読んだだけ。ですので本当にこの味でいいのかはわかりません。でも今食べているものは間違いなく美味しいですわ」
食べながら気づく。これもチート知識のひとつだなと。なら他国へ逃げて冒険者もうまくいかなかったらさすらいの屋台なんてのをやってもいいかもしれない。 夜鳴きそばの屋台のように。うん、何気に面白い。
もちろん実際にやるかどうかは別だ。それより今はこのスパゲティミートソース。何というかやっぱり美味しい。思わず上品でないと思いつつかっ込んでしまう。