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悪役令嬢に転生したおっさんだけれど、やっぱり王子より女の子の方がいいよね  作者: 於田縫紀
第2章 夏休みの有意義? な過ごし方 ~夏休みその1~
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第30話 考案権と私の提案

 キッチンの扉がノックされる。


「どうぞ」


 リリアが返答。扉が開き小柄な中年男性が入ってくる。顔も童顔だ。体質的にはリリア、父似なのだろうか。顔は一応おぼえがある。舞踏会でも会ったから。


 マノハラ伯が入ってきたとともに私達は立ち上がる。場所がちょっと異例だが、まずは定例動作から。その辺は役所の窓口よりよっぽど楽でいい。


「このたびはマノハラ領へおいでいただき大変光栄です。私はリリアの父で、マノハラ伯のルスラン・グレンフルト・マノハラです。何もない処ですがどうぞゆっくりしていたければと思っております」


 次はゲスト代表、つまりこの中では一番家の格が高い私の番だ。定例動作どおり一礼した後、御挨拶。


「こちらこそこのような素晴らしい場所にお招きいただき、本当にありがとうございます。またリリア様には学校で大変お世話になっております。私、アンフィーサ・レナルド・フルイチはじめナージャ・ヨハン・シラクスラ、ナタリア・イワノ・キロハラ、リュネット・サーベイ・タクボの4名、心より感謝致しております」


 さて、ここまでで定型終了。あとはアドリブだ。


「あと来て早々、このような場所を無理矢理お借りして申し訳ございません。こちら特産の面白い食材がありましたので、ワレリーさんに無理を言って、この場所をお借り致しました。大変無礼ではありましたがどうぞご容赦いただけますようお願い申し上げます」


 これでワレリー氏の責任問題になる事はないだろう。そう思った時だ。


「いや、アンフィーサ殿。ここからは形式張った会話は無しにしよう。どうせうちのリリアが我が儘を言ったのだろうから。その辺はむしろ申し訳ない。それで何をここで作ろうとしたのかな。聞いても良いだろうか」


 私はほっと一息つく。私自身も形式張ったのは正直好きではない。口調だけは変わらないし変えられないけれども。


「カワルマタやフルイチ領では見なかった蕎麦粉という素材がありましたので、かつて遠方の国からきた本を読んで、是非食べて見たいと思った料理を作ってみました。実際に見て味わっていただこうと思います」


 リリアが自在袋から天ぷらそば試食セットを取り出す。


「これか。見た事がない食べ物だが、どういただくのかな」


「箸でこの長いのをすくってこの汁の中に入れて、それから食べるのですわ」


 リリア、見本と称して実際に食べてみせる。食意地猫からああっという声が聞こえた。でもそこは無視する方向で。


「あとはこちらの肉や野菜、これも一度この汁にくぐらせます。またこれらをくぐらせた汁は若干味がかわりますので、その後にこの長いのを食べてみて、また同時に食べてみて頂ければと」


「それはまだ私達も試してないにゃ」


 食意地猫の台詞はやはり無視だ。

 マノハラ伯はまず蕎麦と汁だけで食べる。


「お、これは新しい。蕎麦の香りと汁の味が調和して涼やかで深みのある味わいになっている。食感もいい」


 続いて茄子天だ。


「これもいい。汁との組み合わせも、茄子本来の味も楽しめる訳か。そして最後は一緒に食べてと」


 通の皆さんは蕎麦の食べ方にうるさい規則があるらしい。でもここは異世界。美味しく食べられればそれでいいのだ。そんな訳で一緒に食べて味を確認して貰う。


 マノハラ伯は一緒に食べて、そしてその後蕎麦と天ぷらを交互に食べたり一緒に食べたり。元々試食用でそれほど量がはいっていた訳ではない。だからあっさり完食してしまった。


「これはいい。新しい食べ方だし美味しい。うちの蕎麦の価値を高める一品になるだろう。しかしアンフィーサ殿。この食べ方をここで披露していいのだろうか。これは商業ギルドに相談して考案権を取るべきだと思うのだが」


 この世界は特許権や実用新案のようなものはまとめて考案権として権利を取得できるようになっている。商業ギルドに持ち込んで審査し、独自性が認められるとその後5年間、同種の物を作る度に5割以下の権利料を受け取れるのだ。


 この考案権は一般的な発明、発見の他、新しい効果の魔法や料理のレシピにも適用される。つまりこの蕎麦にも適用される訳だ。しかし……


「私自身も昔何かの本で読んだものを再現したまでですわ。それにこのようなものは考案権をとっても似せたものが後続で出てくることでしょう。でしたら権利をとらずに一般に広めた方が面白いと思いますわ。そうすればより美味しいレシピへと進化していく事も出来るでしょうから」


 これは本音だ。何せ細長いだけの代物、いくらでも類似品を作れる。だったらむしろ自由に使わせて、誰かが美味しいものを作ってくれるのを期待したほうがいい。私自身も料理で身を立てる気は全くない。さすらいの冒険者をしながら自由に諸国を漫遊したいだけだ。


「なるほど。でもこちらとしては利益ばかりで大変申し訳ない気がする。何か代わりにアンフィーサ殿に報いる方法は無いだろうか。フルイチ侯爵家の方に伯爵家で出来る事はそうないかもしれないが」


 ならちょうどいい事がある。


「でしたらこの蕎麦のレシピの他に、同じように小麦粉で作った細長いもののレシピ、及び小麦粉と草木灰、小麦粉と卵で作った細長いもののレシピをこちらで書いてお教え致します。それらを全て商業ギルドに自由使用可能な形で考案登録をしていただけますでしょうか。

 私は若輩者故そのような業務に慣れておりません。ですのでその業務を代行して、今後こういった細長い料理が自由に進化していけるようにしていただけると、私としては大変に嬉しいです」


 つまり蕎麦の他、うどん、ラーメン、スパゲティの登録をした上で権利使用料無料で使えるようにしてくれと言う提案だ。これで食生活が少しは豊かになるだろう。『人はパンのみにて生くるにあらず』という奴だ。ご飯も欲しいし麺も欲しい。意味が違うなんて気にしないでくれ。


 この世界にはパンの他にお粥もあるけれど、上流階級は基本的にパンがメインだ。あとはガレットとかクレープとかがある程度で。


 そう言えばご飯も白米をふっくらとした炊き方をしてくれる場所が無い、少なくとも私の知っている範囲では。せっかく米は短粒種のうるち米なのに。

 既に混ぜ御飯でそこそこふっくら炊く方法があるから考案権はとれないかもしれない。でも一般化すれば丼が食べられる可能性がある。


「本当にそれで宜しいのでしょうか。アンフィーサ殿自身のご利益にはならないような気が致しますが」

「美味しい物が食べられるようになる、それで私は充分ですわ」


 ここで私は何度も練習した『男性に効果のある微笑み』を披露させて貰う。よし、これでいいだろう。勝利だ! 

 何の勝利かはよくわからないけれど。


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