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目覚め1

 クーデリカが意識を取り戻したのは、家が焼け落ちてから三日ほど経ってからのことだった。


「っ! 痛い」


 体の痛みにクーデリカは目を覚ました。傷口を見ると真新しい包帯が巻かれていた。包帯には血が滲んでいない所を見ると傷口は塞がっているらしい。


「私、生きている」


 体をベッドに倒したまま、再び目を瞑った。クーデリカは気を失う前の記憶を必死に探った。自分の身に訪れた目を覆いたくなるような惨劇と恐怖の体験。体を震わせながら、ソフィアとともに逃げ出した記憶を思い出し、はっとした様子で声をあげた。


「ソフィア、ソフィアはどうしたの」


 頭に残る記憶を必死に手繰るが、ソフィアが無事かどうかは思い出すことが出来なかった。

 クーデリカはベッドから降りようとしたが、わき腹に走る鋭い痛みのせいで思うように体を動かすことが出来なかった。


「そうか、私」


 傷口の痛みにクーデリカは顔をしかめた。


「そうか、私刺されたのよ。あれ、でも誰にさされたか覚えてないわ。とても大事なことなのに。それなのに、思い出せないなんて……。」


 ままならない自分の身体のもどかしさに、クーデリカは苛立ちを隠すことが出来なかった。幸いなことに、周りに人影はない。見覚えのない部屋の中で、クーデリカは布団に手のひらを叩きつけた。


 「思い出せない。なんで私は、ここにいるの」


 思い出そうとするたび、記憶が抜け落ちていく感覚に、クーデリカは頭を抱えた。

 扉をノックする音にクーデリカの思考は中断された。考えるよりも誰かに聞いた方が早い。彼女は出来る限り、身なりを整え、布団に出来たしわを手で伸ばした。


「どうぞ」


 声をかけてから一呼吸おいた後、扉がゆっくりと開かれた。強ばったクーデリカの顔が緩んだのは、見知った顔に安堵を覚えたからだった。


「村長さん」

「やあ。体の方はもう大丈夫なのかな」

「ええ、傷口の方はまだ痛みますけど」

「そうだろう。そうだろう。とても深い傷が残されていたからね。焦ることはないよ。ゆっくりと休んでおくれ」


 村長は何度も頷きながら、手にした花をテーブルに置かれた花瓶に差した。


「もう少し、話をしてもいいかい」

「ええ、私もいくつか村長さんに聞きたいことがあります」


 穏やかな笑みを浮かべた村長は、ベッドの傍にあった椅子に腰をかけた。


「なら、ソフィア。君の話から先に聞こうかな」

「やだ、村長さん。私はクーデリカよ」


 村長は、首を横に振ると諭すような優しい口調で話しかけた。


「大丈夫だよ、ソフィア。友達を庇う必要はない」

「庇う?」

「ああ。君が寝ている間に、たくさんの事。本当にたくさんのことがあった。先に気がついたクーデリカから話は聞いたよ。そして、きっとソフィアは私を庇うだろうと言っていた。クーデリカの言ったとおり。君は優しい子だね」

「そんな、私が……!」

「……興奮しては駄目だよ。傷が開いてしまうからね」


 村長は優しく諭すと、椅子から立ち上がり、ベッドに背を向けた。


「まって、まだ話を聞かせて」

「申し訳ないね。どうやら、私は少し気が焦っていたみたいだ。無理をさせて悪かったね、ソフィア。君のお母様もそろそろ来る時間だ。久しぶりに甘えるといい」


 狼狽える彼女に向かって村長は丁寧に一礼すると部屋を後にした。扉越しに村長を呼ぶ声が聞こえたが、振り返ることはしなかった。

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