はじまりの村とキャラクターデザイン①
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ーはじまりの村ー
光に包まれたポータル内を抜けると目の前には小さな村の広場ようなところに着いていた。
「嘘だろ。この風景……は……」
この広場、あそこに家の屋根の色と煙突の位置、道具屋の看板のデザインのすべて知っている。
「おわかりいただけましたか?再現するのに苦労したみたいですよ。所々建築可能のなものに修正する必要があったようです」
この村は"はじまりの村"、エムドサーガに出てくる主人公ハルが訪れる村。村の背景イラストはボクが考えて描いたものだ。
その背景の建造物は間違いだらけでパースもおかしかったため、手直しが入ったのだろう。
「エムドサーガの村を再現したというのか?」
「左様です。スヘルツ様が初期の開発環境として特別に用意してくださいました」
そんなことができるのかと呆気に取られてしまった。
「それではディベロップと唱えてみてください」
「ディベロップ……?」
すると服の中に隠していたカードから目の前にゲームのメニュー画面のような物が出現した。しかしゲームプレイ時とは表示されているものが違う。
「こちらは開発者ツールです。こちらから必要に応じて情報を見たり、所有されているソースでの開発が行えます」
中にはコンソール、ソース、デバックなど見慣れたタブが並んでおり、開発で必要な機能が備わっているようだ。
「メニューと唱えると、ゲームメニューが出ます。使い方はプレイヤーと同じですのでご理解いただいてるかと思います。それと春田様の姿のままですと身元がわかってしまいますので、お姿を"ハル様"に変えさせていただきました」
なるほど、プレイヤーと同じこともできるわけか。キャラクターのボタンを開くと自分の情報を見ることができた。
名前はハル、レベルは100、年は16歳、装備は勇者の装備、パラメーターはマックスだ。エムドサーガ主人公のステータスがカンストされている。
顔は……ボクが描いた主人公"そのまま"だった。つまりそのままというのは、"下手くそな絵"を再現したわけで、言ってしまうとかなりのブサイクだ。ボクは走って道具屋の前に飾られている手鏡で自分の顔を確認した。
「顔はそのままなのかよ!!!」
「スヘルツ様はキャラデザには作品の魂がこもっているから忠実に再現しろと仰ったそうです」
ルナリアはニッコリと笑顔で言った。確かにそうだが、そこは遠慮せずイケメンに修正して欲しかった。
「それでは私はこれで失礼します」
「もう行っちゃうんですか?」
「はい、実際に進められた方が早いかと思います。スヘルツ様はどのようなゲームにするのも自由だと仰っております。ガイドブックはアイテムボックスに入っていますのでお使いください」
「わかりました。ありがとうございました」
「わからないことがありました、開発者ツールのコールでお呼びください。すぐに駆けつけますので」
ルナリアは深くお辞儀をするとポータルへと向かっていく。これからどうやって進めていくのか不安でたまらなかった。
「あのぉー!まずどうしたら良いでしょうかー??」
ルナリアは振り返り。
「マップを見てくださーい。彼女たちが手伝ってくれると思いまーす!」
そういうと手を振りながらポータルの中へと消えていった。
「彼女たち?」
ボクはメニューからマップを開くとボクのいる場所から少し離れたところに緑色の点が3つあった。点を押すと、アヤメ、イル、ライカの名前があった。そう、エムドサーガの主人公と旅をする3人娘。
<あの子らもいるのか?!>
自分が描いたキャラクターに会えたらなんて、誰もが一度は夢見ることだ。
期待を胸にボクは急いで彼女らの方へと向かった。
あの子たちがいる。そう考えると胸の鼓動が高まった。初恋の人と久しぶりに再会するような小っ恥ずかしさもある。
エムドサーガのストーリーについて少し振り返ってみる。主人公のハルは一人で旅する冒険者だった。
ある時、痺れ草の生息地に入ってしまい気を失ったハルは近くの村の業者に助けられる。看病することになったのが村娘のアヤメ、イル、ライカの3人だ。
村の周辺には痺れ草が多く生息し、魔物が寄り付かず平和な村であったためしばらく居座ることにした。3人と仲良くなったハルは冒険者を夢見ていることを知る。
元々はもう1人、サナと呼ばれる子とがおり、4人で冒険に出るつもりだったらしい。サナは生まれながら魔力の才能があり、アヤメ、イル、ライカは普通の人間であった。
冒険者としての才能のない3人に嫌気がさし、喧嘩のあげく1人で村を出てしまった。残った3人は寂しく村で一緒に暮らしていた。
言いくるめられたハルは一緒にサナを探す冒険に出る。才能のない彼女たちに対してハルが補助魔法や強化魔法をひたすら磨き上げ、援護することで魔物を倒していく。
そしてついにサナの居所を掴む。サナは魔王となって魔王城にいたのだ。悪の道に進んだサナの目を覚ますべく魔王退治へ向かう(後にわかるが魔王は悪さをするわけではなく先代を倒せば入れ替わるチャンピオン制)ラストはサナを倒し、勝利する。そして富と名誉ある魔王の座を放棄し、5人で元いた村へ帰るエンディングだ。
それが大体のあらすじで、この話を思いついたのが中二ぐらいの頃だ。主人公が表立って戦わない話を考えるとはひねくれているな。
そうこう思い出しているうちにマップ上の3つの点が集まる場所にたどりついた。
<ここは彼女たちが暮らしていた家だ>
背景として何枚か描いたので覚えている。木造の平屋建て、玄関入ってすぐの広間と奥に4つの部屋があり、彼女たちが住むのには申し分ない。
資料が多かったおかげか割と正確に建てられていた。この先にいる。そう思うと胸の鼓動が一層高まり、一度息を飲む。深く深呼吸した後、ゆっくりと玄関のドアを開けた。
ー娘たちの家ー
恐る恐るドアを開けると、たちまち一斉に声が上がった。
「ハルくん!!!!」
「ハルさんなの?!」
「あっハルだ」
アヤメ、イル、ライカの3人が驚いたように近くに寄ってきた。
「ねぇ今までどこ行ってたの??ずっと待ってたんだからね」
青髪ショートカットの青色の瞳。活発な正確な性格。一応戦士のアヤメだ。
「なかなか帰ってこないので心配していたんですよ。お怪我はないですか?」
赤髪ロングの赤色の瞳。おっとり系のお姉さん。一応弓使いのイル。
「お土産は?なんかないの??お腹空いた」
黒髪パッツンのオカッパの金色の瞳。不思議系の一番年下。一応魔法使いのライカ。
彼女たちは一斉に腕を掴み体を寄せて、顔を近づけてきた。胸まで当たってるし、照れてしまう。
「ちょっと、待ってくれ……急にそんな」
急に女の子に囲まれて動揺が隠せない。しかし、なんとなく予想していたことが当たった。これは口に出すことはできないので心の中で叫んでおく。
<とってもブサイクだーーーーーーーー!!!!!!!>
ボクは落胆した。学生当時の自分に言ってやりたい。いずれキミが作ってるキャラと出会うことになるから意地を張らずにキャラクターイラストはキョウコにお願いしろと。
「ハルくん黙っちゃってどうしたの?」
アヤメが不思議そうに見つめる。正気を取り戻したボクは彼女たちをなだめて少し距離をとった。
「えっと会うのは久しぶり……なのかな?」
察するに久しぶりの再開のようだが、状況がいまいち掴めていない。
「久しぶりって、半年もハルさんの帰りを待っていたのですよ。てっきりもう現れないのかと……」
イルが寂しそうな表情で答える。
「記憶喪失なのー?」
ライカがボクの鞄の中を漁りながら聞いてきた。
「半年?そう……あまり最近の記憶が曖昧で。もう少し詳しく教えてくれないか?」
これまでの出来事を3人は話してくれた。
ボクと4人で魔王ことサナを倒した後、村へ帰ることにした。その時、突如ハルが金髪の少女に変身し、サナを連れて消えてしまったらしい。消える間際。
「本物の"ハル"が帰ってくるから家で大人しく待っていろ」
と言い残し、気付いたらこの村の家にいたようだ。半年間の間、辺りを探したが不思議なことに自分たち以外の人はいなかった。
そして村の周囲は痺れ草が生息する草原ではなく、約2キロ四方の島に変わってしまっていたようだ。
「サナは女の子に連れてかれちゃうし、村の人たちもいないし、どうなっちゃったんだろうね」
アヤメが腕を組み、目を閉じて眉間にシワを寄せている。
「まぁまぁそれよりもハルさんが帰ってきたのですから、お祝いをしましょう。夕食の準備を始めますよ」
「お腹空いたー準備するー」
そう言い準備に取りかかった。3人は冒険者に向かないだけで、少し変わったところはあるが家庭的な良い娘たちなのだ。
料理の支度姿を横目で見つつ、先ほどの話について考えてみる。今はエンディング後の世界ということか。ボク自身がレベル100であることにも納得がいく。
そして金髪の少女というのはおそらく社長だ。
半年前、エムドサーガを最後までプレイした後に彼女たちをファルノアスの世界で生み出したというのか。ボクが参画を決めた直後なら気が早いな。本来はサナを含めた4人が帰るストーリーのはずだがサナを連れて……いったい社長は何を考えているんだ。
「ご飯できましたよー」
さっきからいい匂いがしていたんだ。イルの呼び声に急いで空いている席についた。テーブルにはたくさんの料理が並んでいる。
「今日はハルが帰ってきたから特別だよー」
ライカが得意げに料理をよそってくれた。
「いただきます」
3人が作ってくれた料理はどれも美味しかった。少し前まで仕事に追われゆっくり食事を取る事もなかった。ましてや独り身のボクは大勢で食卓を囲むのも久しぶりだ。
不思議な感じだが彼女らとは昔からの仲のようで居心地が良い。
「こんなすごい料理、食材とかどうしてるんだ?」
他に村人もおらず、周囲には何もないと言っていた。どうやって食料を調達しているのか気になる。
「それが不思議なんだ。食物庫の中を空にすると次の日にはいっぱいになってるんだよ」
アヤメが台所の隅にある大きな木箱を指さした。誰かと共有されているアイテムボックスの類だろうか。彼女らがこれまで餓死せずにすんだことには感謝したい。ボクは彼女たちの手料理をたらふく食べてお腹いっぱいになった。
「私たちお風呂に入ってくるから、のぞいたら承知しないからね!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
ふざけたように睨む彼女らを軽く手をふって追い払った。何を言ってるだ、君たちを描いたのはボクだぞ。今更、裸なんて……いや待てよ、彼女たちを描いたのは服を着た姿だ。裸姿はどうなっているか……知らない。頭の中でモヤァっと風呂に入る姿が浮んできた。
いかんいかん、これから一緒に行動するのにそんなことを考えてたらダメだ。
3人が出た後にボクも風呂をいただき、空いてる部屋を使うことになった。小さな机と椅子、ランプとベッドしかない質素な部屋だ。
寝る前はいつもの習慣で今日の出来事の日記をつける。習慣だからやっておかないと、もやもやとして寝つきが悪い。引き出しの中にちょうど良い白紙のノートがあったので拝借をした。
住むところもあってご飯も出る。服は冒険者の服しかないけれど。
<もしかしてこれが衣食住、揃ってる環境というのか?>
社長にうまいこと乗せられているような気がしてならない。日記を書き終えた後、ランプの明かりを消してベッドへ横になる。
月明かりが窓から差し込み、微かに虫の音が聞こえる静かな夜だ。机に置かれたノートの表紙には《異世界開発日記》と記されていた。
読んでいただきありがとうございます。
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